閑話10・『過去・見た目はロリッ娘お兄ちゃんの愛情MAXで勇者と魔王は先天性幼馴染(両方闇属性)』

それはずっと昔に捨て切った感情のはずだった。


光と闇、生と死、勇者と魔王、反するソレを内包して誕生した――――人間の事を親しく感じていたし、魔物の事も親しく感じていた。


人は魔物を殺すし魔物は人を殺す、それが例えどのような状況であれ片方を嫌いになるわけでは無い、人間が魔物を殺しても人間を嫌いにはならないし、魔物が人間を殺しても同じ事。


愛する存在が愛する存在を殺しても全ての否定には繋がらない……一応は人間の世界で生を受けたので人間側に加担した、そして魔王が滅んだので自分がその代わりになった―――変貌した。


しかし人間を愛する心は失っていない、人間が生きていても滅んでいても勇魔は人間が大好きだ、それこそが真実の愛だ……相手がどのような状況であれ状態であれ愛する事が出来る事は素晴らしい。


「まだか」


魔王の住まう城の地下には秘匿されたものがある、それは光る球体であり神の魂の欠片だ、ここから『勇者』と『魔王』と『天命職』は誕生する――前者の二つは輪廻のように再生するが『天命職』は違う。


螺旋階段の果てにこのような世界があるとは誰も思わないだろう、『勇者』と『魔王』の魂は一つの光る球体となって存在している、彼等は魂の双子であり神の子供だ、この世界の成り立ちには必要な存在だ。


そして『天命職』の神の魂は十三も存在している、しかしここに残ったのはたった一つだけ、他の兄弟とは違って『のんびり』とした性格をしているようだ――魔王の代わりの座についた時にここを発見して世話をしている。


世話をしていると言っても薄暗い空間で脈動する『彼』に様々なお話を聞かせてやる事ぐらいだ、魂としての形はまだ未発達で『感情』を魔力の波に乗せて伝えてくる…………中々に器用な子だ。


長く世話をしていると他の『天命職』の兄弟とは違って親心のようなものを持ってしまう、心に芽生えてしまったソレを消してしまうのに抵抗感がある……宙に浮かぶ球体、『勇者』や『魔王』には感じないのにね。


「『キョウ』は『勇者』と『魔王』に好かれているね、勇魔らと違って兄弟では無いけど……従弟のようなものだし、愛される事は悪い事ではないしね」


天命職は他の職業とは違って神に最初から定められた『職業』だ……………いや、その出生の異様さを考えたら『種族』と言った方が正しいのかもしれない………単一の『種族』と呼べる異常な存在。


キョウの周りを愛撫するように擦り寄る『勇者』と『魔王』の魂はどのような感情でソレをしているのか………魂の『従弟』と呼べる存在だ、あまりに距離が近いとやや不安になる――近親相姦はどうなのか。


「神話の書物では近親相姦は当たり前として描いてるけど、勇魔的にそれは駄目だね、キモい」


魔力を行使してキョウから魂を引き離す、まだ成長していない初期化された二つの魂では勇魔の力に抵抗する事は出来ない―――どくんどくんどくん、キョウの脈動はここ最近で随分と大きくなった。


他の子供たちと違ってのんびりと成長している、魂が完成すればこの世界の何処かに転生して『天命職』として生を受ける、『勇者』と『魔王』は初期化されたのを良いことにキョウの力で汚染されているようだ。


自分に近しい力だと思う、自分に近しい鏡合わせのような存在………最初の天命職と最後の天命職、長男と末っ子、育つ者と見守る者、普通の関係性では無いが満足しているし愛しいと思っている。


人間や魔物や他の『天命職』よりもずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――――愛しくて精神が崩壊してしまうぐらい、思えば昔から存在を感じていた。


自分は早くに発生して苦しんで壊れて絶望して果ててこうなったのにこの子はずっと『睡眠』している、睡眠して生れ落ちる日を待ち望んでいる、なんて憎らしい、なんて愛おしい、なんて近い。


「勇魔にこんなに近い存在なんて君だけだよキョウ、早く生れ落ちてお兄ちゃんと一緒に遊ぼう、世界で遊ぼう、それとも壊れるか?お兄ちゃんと一緒にね」


かつての仲間には女のようだと言われた容姿は幼いままで丸みを帯びたもの、兄の威厳は再会した時に保たれるだろうか?―――魔力で鏡を出現させる、思えば魔法を唱えないで奇跡を起こす事も容易くなった。


「………クロカナめ」


仲間が『ロリ美少女ですね、きゃはははは』と叫ぶ姿が浮かぶ、せめてどちらかにしろ、二つ付けると最早『男』としての威厳が欠片も残らないだろうが……あれは生き残っていたか、死んでいたか、どっちだっけ?


どくんどくんどくん、勇魔の魔力に連動するようにキョウの魂が脈動する、天命職は細部まで神に設計された存在、名前も既に『設定』されていて彼は『キョウ』のまま世界に誕生する―――早く会いたい。


「会いたい」


どうして会いたいのか考えてる、どうしてこんなに愛しいのか考える、それは人間と魔物の境目で苦しんだ自分が唯一見つけた同一の存在だからだ………勇者は人間に属し、魔王は魔物に属す。


その境目で差別されて生きてきた、人間も魔物も大好きなまま成長して大好きなまま両方を殺した、そして今は一時ではあるが魔物側の王として振る舞っている、どっちも好きだからどっちの味方でも良い。


でも『キョウ』はそうじゃない、人間でも魔物でも無い同じ『天命職』で結ばれた特別な存在、しかも他の『天命職』と違って発生から見守っている―――卵の孵化を待ち望む親鳥のような心境だ。


「会いたいね、何をして欲しいのか君の口から聞きたい」


『勇者』と『魔王』の魂もこの場所で自分と同じように彼の成長を見守ってきた、もしかしたら何かしら自分と同じような感情を持ってしまったのかもしれない―――だとしたらここで消してもいいが。


それだと世界に誕生する前にキョウに凄惨な『死』を見せる事になってしまう………それで嫌われるのは嫌だ、嫌われるのだけは御免だ、人間や魔物に嫌われても勇魔が彼等を愛している限り平気だ。


でも勇魔がキョウを愛していても嫌われるのは駄目だ、想像しただけで身が震えて脂汗が滲み出る、それだけはそれだけはそれだけは―――がたがたがた、ダメだ、想像を消し去れ、魔力が溢れる。


「ここまでキョウの力に汚染されれば次の『勇者』や『魔王』も酷い有様だろうね、勇魔は両方を兼ねているし兄弟なので君たちに勝ち目は無いだろうけどね」


嫉妬をするなんて、初めてで――――どうやって処理をして良いのかわからない、腹の底でグルグルと気持ちの悪いものが渦巻いて吐き気がする………異性に向ける感情にも似ている。


キョウが誕生すればこの『嫉妬』も少しは解消されるだろうか、女の子に見えても魔王と勇者の力で世界を蹂躙しても人間の死体の山を幾つ生み出しても臓物に塗れて宙に跳ねても――勇魔は君のお兄ちゃんだからね。


きっと、素敵な事になる……出会いさえすれば。


「愛してるから早く生れ落ちるんだよ?」


愛しているから一緒に壊れてもいいんだ。

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