閑話7・『キクタさんはラスボの貫禄』
上司に従う――組織に勤めている人間に課せられた義務、それは神を崇拝する宗教団体でも同じ事だ………しかし組織に『秘密裏』に回収しろとはどのような要件だ。
彼女の上司であるシスター・グロリアは若手の中でも飛び抜けて有能であり、その将来を期待されている―――同じ細胞を持っているのにどうして自分とこうも違うのだろうか?
自分はルークレット教のシスターにしては珍しく組織への忠誠も神への愛情も薄い、稀に誕生する『規格外』の出来損ないだ、流石にそれが感付かれたら処分される可能性もあるので上手く誤魔化している。
「あの人を除けばね」
シスター・グロリアは私が神や同胞を騙して生きている反徒だと一目で見抜いた、そしてすぐに抱え込んだ、私と同じ顔をしているその人は私よりも『綺麗』な笑みを浮かべて残酷な本性を隠していた。
しかし同じように他のシスターとは掛け離れた欠陥品、私が彼女に傾倒するのは当たり前と言えば当たり前だった……彼女は強く賢く美しく………屈折していた、神を恨んでいたし組織を憎んでいた。
新たな神を創造し新たな使徒を侍らせ新たな組織を―――この世界はルークレット神に支配されている、その理をルークレット神の使徒である彼女が壊そうとする………それはどれだけ罪深い事なのだろう?
「しかし、こんなものがグロリア姉さまの望む世界に必要なのか……」
「ルカ様、報告です……魔力反応の浮き沈みが激しいですね………過去の資料にはこれに類似する生物の情報はありません」
「類似も何も……エルフだろうに」
命令に従って先日回収したこの物体、それが地下の薄暗い空間を嫌うように発光している、蛾の一種が幼虫から蛹になる時に身を包む繭に似ているが………様々な色に変化しながら光を放っている。
これが何なのかは事前に説明された―――説明はされたが実際に目の前にするとその話自体が本当であったかどうか……それを疑ってしまう、これが『エルフ』らしい――――エルフの幼女。
無論、エルフにはこのように変化をする特性も習性も無い、しかしこの中で胎動している存在は紛れも無くエルフだと上司は言っていた……天命職によって『変質』させられたエルフだと……。
「中は覗けないのか?」
「えーっと、魔法による透視も全て弾いてますね、どうやらこの繭そのものに魔力を遮断する要素があるみたいです」
「ならどうして魔力の浮き沈みがわかる?」
「中から外への魔力の放出は可能な仕組みのようですね…………凄いですね、解析出来れば世界が変わりますよ」
「出来ればな」
今話しているシスターもグロリア姉さまの同胞の一人だ、名前を与えられていない下位のシスターだが魔法に精通していて己の好奇心を第一優先とする反徒の一人だ。
禁術の開発で同胞を実験体に使っていた所をグロリア姉さまに暴かれて気に入られた……気に入るのも問題だけどな……そして上には報告せずにこうして同胞として抱え込んでいる。
私も含めて『神』を疑う反徒の集まり、グロリア姉さまの勢力は組織の中で次第に大きくなっている―――出来損ないを集めたら割と数がいるって事、たったそれだけの事だけどな。
「この繭がある限り相手の魔力は全遮断、自分の魔力は放出可能、戦いを想定したら恐ろしいですね」
「移動する際に繭の糸が付着した壁ごと持ち運ぶ事になろうとはな………女将には悪い事をした」
「迷惑料で店を立て直せるぐらいのお金を払ったし良いんじゃないですかー?あの根菜を煮た料理は美味しかったですねー」
「グロリア姉さまの命令を無視して食事をするなんて……後が怖いぞ」
「うへへ」
グロリア姉さまが天命職に選ばれた方と行動を共にしているのは組織も知っている、ならばどうして『コレ』を秘匿しなければならないのだろう?―――本体は晒して尻尾は隠す?
報告では身体能力の強化と精神の『汚染』が確認されたとしている―――天命職は人知の及ばない能力を保有しているが前例が無いので詳細が分かるまで下手に手出し出来ない。
かつての『勇魔』の惨劇を繰り返してはいけない。
『――――――――――――――――――――――に、ぁ』
しかしコレが不吉な存在である事は否定できない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます