第15話・『大賢者はキョウの感情を得て、従って媚び諂う同族に成り下がり……喜ぶ』

気配の変化に気付いたのは僕とシスターだけか………冒険者の戦闘訓練部屋で天井を見つめながら思う、フレスコ画やスタッコ細工で構築されたソレは魔法で強化されている。


戦うだけの部屋に無駄な『豪華絢爛』さ――冒険者って人種は何事にも手順や様式美を求める傾向がある……こんな部屋が幾つも用意されているのだ……お金の無駄とは言わないけど……。


「ここって訓練部屋なんだろ?」


「うん、レベルの上昇でステータスは変動するけど……訓練で鍛える事でレベルとは別に『少しずつ』ステータスは上昇するから、あっ、靴は脱いでね」


「おう」


誰もいない広大な空間で小さく息を吐く、貸し切りにしたので誰もいないのは当然だけど……冒険者ギルドに貢献した人間は様々な面で組織から恩恵を受ける事になる。


冒険者にはランク付けがあり、S級・A級・B級・C級・D級・E級の六段階で評価される……上位になる程に行使出来る権力や予算も拡大するのだが……B級より上は別次元の難易度になっている。


新大陸の発見や伝説の魔物の討伐――誰もが夢見て夢のまま終わるソレを現実にした者達……それが上位の二つの階級にいる冒険者達、無論、基礎的な能力も高く、特殊な職業や三桁のレベルに達した者も多い。


僕のレベルは限りなくA級に近いB級、勇魔が生み出した『新しい魔物』の討伐や旧世界の『発掘物』の解析――趣味を兼ねたソレで評価されているのだから良いとしよう………理由は二つある。


魔王に代わって魔物を支配する『勇魔』は過去に例の無い職業だ、魔王と勇者の力を併せ持ち『勇者の特性』を付加した魔物を誕生させる……人間を殺せば殺すほどに経験値を得て成長する魔物。


それ程に強力な魔物を生み出せる『勇魔』なら僕に植え付けられた『呪い』を消し去る事が出来るかもしれない……人間の世界で無理なら魔物の世界の秘術に頼る他ない……『発掘物』の解析も同じだ。


過去の文明が残した『発掘物』の中に僕の『呪い』を消し去れるものが無いとは言い切れない……自分の望みの為にしている行動が他人に評価されるのは何とも言えない気分になる。


「しかし『賢者』って戦うイメージ無いけど………大丈夫か?」


「君こそレベル1なんでしょ?人の心配をする余裕があるなんて……優しいのか鈍感なのか」


「くんくん、影不意ちゃんのつむじの匂いはフローラルの香り」


いつの間にか背後に立っていた『男の子』が僕の頭の天辺を嗅いでいる―――相棒であるアルドも相当な変わり者だが彼の場合はそれに輪をかけて変わり者だ……感情の無い僕でも確信できる。


しかし僕の頭の匂いなんか嗅いで何がしたいのだろう?見上げる……褐色の肌にボロボロの衣類、痩せ細っているのでは無く引き締まった体は猫科の動物を思わせる無駄の無いもの……俊敏そうだ。


彼は彼なりの利益で戦うのは理解した……こんな子供の戯言に付き合っているのだ……彼とシスターの関係は他人が干渉するべきものでは無いのに――――アルドにも困ったものだ、さて、僕にも僕の考えがある。


それは単純なもので安易なもの、相棒であるアルドが狂信と嫉妬で年下の若者に絡んだのだ………僕が救うしか無い……僕が勝てば良いのだ――――そして彼等と別れて面倒事とさようなら。


付け加えるならここを出る前に『今までと同じようにシスターと同行すればいいよ、誰も見ていないんだから』と助言すれば良い、律儀にアルドの約束に従う必要なんてないのだ……とても簡単な解決法。


アルドの提案を飲んでアルドとの約束を破る、提案を飲む事……戦って勝敗を決める事は『事実』として行動する、負けて約束を守る事は『嘘』にして誤魔化す……アルドはそれで満足する。


ずっと彼等を監視する事なんて出来ないのだから、裕福な育ちであるアルドはおかしな所で世間知らずで無垢だったりする、苦労もさせられるがそれが彼の魅力の一つだと認めている。


「さて、戦おうかな」


「影不意ちゃん、意外に好戦的だな―――見た目は羊なのに中身は狼ってか」


「?羊が狼を食べてお腹に入れたって事?」


「………え?」


「?」


彼の言葉が納得し難いものだったので問い掛けると奇妙な沈黙に……見た目は羊なのに中身は狼……とても不思議な言葉だ、同じようにもう一度問い掛ける。


すると彼は腹を抱えて笑いだす、自分に感情が無いので他人の感情の変化に気付かない……疎い………どうやら笑われているようだけど、何がそんなにおかしかったのだろう?


何を言っても笑い転げるだけの彼に困り果てた僕、えい。


「『マ・ドルス』」


賢者は魔法使いと僧侶の魔法を使える上に興味のある『職業』のスキルを取得出来る――興味とは探求心、知識や技術を欲する程にスキルは拡大してゆく――レア職である。


僕のレベルは33、彼は職業を固定されたのは最近だと口にしていた……僕が本気を出す事は全ての面で大人げないと言える、しかしこの流れを断ち切るには『決着』は必須。


魔法を展開させて仕掛ける、こうもあっさり『面倒に巻き込んだ上にレベルが下の少年』に攻撃を仕掛ける事が出来るのは僕に感情が無いからだ………こんな自分が嫌いだ、大嫌い。


「氷かっ、製氷屋いらねー」


空中に展開した人の腕のサイズ程の氷柱を飛ばす、マ系は冷気を扱う系統で習得には時間が掛かる――師匠に一番初めに教わった魔法、感情の無い僕が『氷』の様に見えたのか………謎。


四面から飛んでくる氷柱を曲芸染みた動きで避ける少年、氷の『色』は視認するには難儀なはずなのに紙一重で全て躱している、行き場の失った氷柱が空中で同士討ちになり粉砕される。


背後から飛来する氷柱すら難なく避ける姿に感心する、汗ばんだ肌が氷柱が飛来する刹那に僅かに震える―――冷気を感じて避けている、肌に触れる空気の温度だけで予測して行動している。


恐怖心が無いのかな―――僕と同じ……なわけないよね、左目に装着したモノクルを片手で調整しながら姿勢を整える、油断をしたのは僕で油断をしてなかったのは彼―――勝つ気でいるんだね?


飛来する氷柱を避けるのに精一杯のその様で―――なんて無知でなんて愚か者、彼には同情するけど『利益』に従わぬ行動は僕には不快でしか無い、君は悪くないけど今の君の行動はとても『悪い』。


「『マ・アス』」


地面に手を当てて呟く、歓喜の悲鳴を上げながら床に『冷気』が浸透してゆく、飛来する氷柱を躱し続ける事は体力を顧みなければ可能だろうが滞空時間は限られる――空を飛ぶ鳥ですら地に足を着く。


彼が地に降り立った瞬間にソレは自由を奪う、運が良いのか悪いのか『マ・ドルス』による氷柱は全て消滅している…………ああ、違うか、彼が躱し続けたせいで『破壊』された……それが正しい。


今の所、彼が正しくないのは『敵わないとわかった相手に負けを認めない』……その一点、どちらに転んでも君には得られる『利益』があるから勝負を引き受けたんだよね?ならさっさと結果を求めてよ。


それをしないのは君の感情なの?………僕が知らない『感情』って要素なの?―――己の体を見下ろす、貫頭衣の羊毛製外套……法服を着込んだ賢者は『感情』の事を何も知らない、知らな過ぎる。


勉強して鍛錬して修練して瞑想して得られたものは全て『感情』には劣るもの、それが欲しい、師匠が死んだ時に感じた『悲しみ』ですらこの体には得難いもので――――涙して悲しくて嬉しかった。


「君はどうして抵抗するんだろ、負けてここを出て――終わりでいいんじゃないかな」


「人を動けなくさせといて、何を言ってるんだ影不意ちゃん」


「『感情』について聞いているのか?自分でもわからないや―――感情が無いから、君の行動が何を意味するのか理解出来ない」


「感情が無いのに『人の感情』には興味があるんだな、面白いよ、影不意ちゃん」


「また『ちゃん』付け………年上だよ?」


幼い時の境遇が原因でこの体は未発達なままだ、今年で二十四になったのに見た目は幼いまま――――年下である彼に言葉で注意をするのだが反抗的な視線は変わらない。


これならアルドの方が扱いやすい……この子のようなパートナーはいらない、不利益になる可能性が大きい―――灰緑色の瞳で彼を見つめても、彼は何も言わずに黒曜石の瞳で僕を睨むだけ。


『不利益』だね………冷気で地面に縫い付けた足が腐れば少しは『素直』になるのだろうか……しかし、物事の始まりから考えたらそこまでするのは『残酷』な事になるのだろう、悪いのはアルドだ。


彼は悪くない――――悪くないのに、どうしてだろう、胸が……胸の奥でイライラする―――『イライラ』とはどのような事?……体調が悪いのかな……はぁ、息が白い――手で口を押える。


青白い肌に少しだけ熱が宿る。


「そりゃ、『ちゃん』付けもするさ、感情の無いお人形なんておままごとでしか使えねぇ」


冷気で汗が凍っている―――近付き過ぎたわけでも遠過ぎたわけでも無く、それを呟いた瞬間に彼の肌が視界を過ぎったように感じた―――賢者であるが故に近接戦闘は望まない。


なのにいつの間にか彼の顔が目の前にある、地面に固定した足はどうしたんだろ、呆けた事を考えてしまう、えっと、僕は次の魔法を展開しようと詠唱の体勢に入るが迫った彼はそれを許さない。


蛇の様に奇妙な軌道を描いた左足が僕の靴底を擦り抜ける、抵抗しようと咄嗟に宙に手を伸ばすが空しいだけ、足払いをされてペタンと地面に座り込む―――これは何なんだろう――見下ろす彼の顔が見える。


褐色の肌にボサボサの髪の毛、躾のされていない犬のような『我儘』な表情―――最初に見た時に太陽のようだと感じた彼の姿はそこには無い、虚無だ――感情の無い僕にも無い『虚無』を感じる。


後退る―――笑って見下ろしている彼は僕よりも弱いはずなのに――愉悦に塗れていると感じる、虚無と愉悦、それは矛盾でありそれは『感情』でもある、僕はこれは知りたく無い、これじゃあない。


これは普通の人間が普通に持っている『感情』では断じていない、ニコニコと彼は僕を見下ろしている、黒曜石のような瞳には僕が映し出されていて瞳の中に『監禁』されている、そう感じてしまう。


「君は……なに?」


「俺はエルフライダー」


間抜けな返答、えるふらいだー……それは名前なのか職業なのか渾名なのか――わからないけど、それが彼の示した答え――後退る、この子は駄目だ………違和感を感じる、感じてしまう。


感情の無い僕の体が純粋な『危険信号』だけを送っている、僕の意識とは別に脂汗が浮かび上がり体が震える――小刻みにカタカタと……勇魔の魔物と戦った時も反応の無かったこの体が……どうして?


こんなに『弱いはず』の子供にどうして怯えている?


「エルフライダーはエルフの為に、エルフはエルフライダーの為に、エルフの因子のある者もエルフライダーの為に、エルフの呪いを持つ者もエルフライダーの為に、エルフと関わりある者は俺のモノ」


「こうやって、無様に尻餅をついたんだ……僕の負けを認めるから、少しは僕の話をちゃんと」


「エルフが見えるんだよ、そこかしらに、世界に……エルフは俺のモノだから俺の体に戻さないと駄目なんだ、どうしてかわからないけど、お前も、お前が呪いとか、ああ、そう、それ」


「近付かないで、お願いだから」


澱んだ瞳で延々と何かを語っている、呪怨のように重層な言葉が耳に入ると吐き気がする―――どうして僕は彼を『太陽』のようだと思ったんだろう、これはそんなものじゃない、これは『泥』だ。


土なのか石なのか砂なのか水なのかわからない、全てを巻きこんで汚してしまう薄汚いもの、法服だと後退るのも厄介だ………カチカチ、歯が『どうして』か震えている、カチカチ、これじゃあ魔法も使えない。


こんなんじゃあ、彼から逃げられないよね?大丈夫かな………カチカチカチ、僕の体が告げている、肯定も否定もせずに歯を鳴らしながら逃げなければおかしな事になると―――農民の装いの彼から逃げないと。


「影不意ちゃん、年上だよな」


見下ろす彼の顔は無表情、変化する表情は病的で忙しない―――何が彼の中で起きている?この変化は……魔法で操られている?二重人格?―――違う、彼は正気だ、瘴気をばら撒きながらも正気だ。


「うん、だから」


「だったら俺の事も『ちゃん』付けで呼んでよ、年上が年下に『ちゃん』付けをする、当たり前だよな、そうだよな、絶対だよな」


状況は異常だがこの言葉には成程と思ってしまう、師匠も僕の事を『ちゃん』付けで呼んでいた……孫のようだとも言っていた―――言葉に従えば現状から解放してくれるかも?


自分の体に起こっている異常が自由を許さぬのなら彼の意見に従って時間稼ぎをするのが『最善』だ、時間を稼げばアルドやシスターがその内ここにやってくるだろう―――そうするしか無いね。


「キョウちゃん」


「グロリアが口にしてたから、知ってたか、俺の名前」


「ああ、うん、そう……かな」


いや、先程まで彼の事を『彼』や『少年』としか認識していなかった、その呪い故に他者に無関心になりがちな僕が他人が発した名前を一度で覚えるわけが無い……なのに咄嗟に肯定してしまった。


状況を考えたらキョウちゃんの言葉が正しい―――正しいはずなのに不安がある、不安?……不安って感情から起因するものだったか……僕の頭はおかしくなってしまったのか、わからない事が多すぎる。


師匠はこんな時に冷静になって全ての手順を最適化しろと言っていた―――従うけど、そもそもどうして僕は彼を『ちゃん』付けで呼んでいるの?親しい間柄でもあるまいし、ここを出て別れる関係なのに。


「そりゃそうさ、ちゃん付けで呼び合うのは同じだからさ、俺は今はおかしくなって虚無を抱えていて、お前も感情が無くて、それは同一だろうに」


「僕と同じ」


ああ、それで驚いていたのか僕の体―――同じように感情が無い存在に出会うのは初めてだ、そうかそうか――それなら怯えて同然だ、母親が言っていた、僕を捨てた母親が言っていた、何度も言っていた。


感情の無いお前は化け物だと……感情の無い化け物は僕一人だと思っていたのに、目の前にそれがいる……存在している、僕と同じ化け物が目の前にいるのだから僕は怯えてしまうのだ、そうだよね。


お母さんが醜いと言った僕と同じ醜い化け物、お母さんが汚いと言った僕と同じ不潔な生き物、お母さんがおかあさんがおかあさん―――――ぼくとおなじで、かわいそうなこなのかな―――ししょうがぼくがかわいそうって。


ないて、しぬときもないてたよね。


「同じ」


ポツリと僕の口から漏れた―――無意識に……感情が無い僕の全ては『無意識』なはずだろうに………でもなんだろ、何かが違う、今までと何かが違う、汗ばむ、僕はどうなっている?


初めて出会った僕と同じ化け物を前に僕は―――。


「そうだぜ、同じだよ―――この青白い肌も」


左手を掴まれて無理矢理立たされる、骨ばった僕の腕を彼の掌が締め付ける―――ぎしっ、軋む音が妙に現実を実感させて僕は笑ってしまう―――ヘラと、頼りない笑みなのだろう……きっと。


あれ、どうして、笑ったってわかる、頬の筋肉が『知らない』動きをしたのは確かだけど……どうしてそれが笑ったと僕にわかるのだろう、そしてどうして僕は笑えているのだろう、胸が熱い。


ああああ、そうだ、彼を、僕と同じ寂しい化け物を見ていると僕の体がおかしなことになるんだ、今、笑えたように、骨が軋んで痛みで彼を実感できるように―――これは感情だよね、感情でいいよね。


僕がいいよねって、言ってるんだ、僕自身が……いたい、うれしい、いたくて、うれしい、ああ、うれしいもわかる、彼に痛みを与えられると、僕と同じ特別な存在に与えられると、わかるんだ。


どうして今までわからなかったの?ぽろぽろ、なみだが―――あう、うあ。


「それはな、お前と同じ存在がいなかったからさ、同じ種で無いと同じ感情を発生させられない、犬が蛙に愛してると言うわけが無い」


「???」


「お前は人間じゃない化け物だから人間に感情を持てなかっただけさ、だってほらぁ、同じ俺にこうされると」


もう片方の手で髪の毛を掴まれる――――あう、いたい、いたい、いたい、いたい、これがいい―――感情だ、泣いている僕、女の子の僕が力に圧倒されて泣いている……ぽろぽろ。


キョウちゃんは感情が無いのも同じで『ちゃん』で呼ばれるのも同じで―――そうか、僕は同じ存在に感情を向ける、同じ存在にしか感情を向けられない、なぁんだ、僕のバカ、おバカさん。


「『出会って』しまえば……ああ、僕の感情は君に向ける為のものだったんだ」


「当たり前だろ、同じ化け物の間で『交信』するのが感情だろ」


眩しい、お日様だ、キョウちゃんは僕のお日様だったんだ―――太陽の光で月が輝くように、彼の感情で僕は輝く――――そんな単純な機械のような動物、そんな感情の無い生き物、キョウちゃんの感情で僕は感情を得る。


救われた、素晴らしい、僕はキョウちゃんの片手で吊るされながら天命を得る、彼の感情のままに僕も生きたら良いんだ――お母さんも師匠もアルドも僕に感情をくれなかったのも当たり前。


僕はキョウちゃんの感情のままに動くキョウちゃんの一部、他人のモノだもの―――お母さんも師匠もアルドも僕と同じ化け物じゃない、僕には同じキョウちゃんがいる、同じ同じ、嬉しい。


『醜い』と母親に言われた僕が同じ存在であるキョウちゃんに『美しい』と言ってあげよう、寂しいよね、苦しいよね、僕は知っている……感情を得た今の僕ならわかる、過去の僕は苦しくて悲しくて泣いていた。


キョウちゃんを同じ境遇には―――僕が守る、好き、守る、大好き、守る、愛してる?――――この湧き出る最大限の感情が『愛情』なんでしょう、決めた、僕がそう決めた――僕の感情だもん、キョウちゃんの感情だもん。


「ふふ、でぇきた」


「何がキョウちゃん?……腕痛いよ?」


「離そうか?」


「ううん、もっと頂戴―――っあ」


「首も……しようか」


「キョウちゃん、何でもくれるんだね、僕に」


「エルフの呪い―――それが、こう出来るからな―――なあ、影不意ちゃん」


頬を舐められる、その後に尖らせた舌で頬を抉るように突かれる―――掴まれた腕から血が失せて変色している――こんなのも与えたくれるんだ、この色も。


流石は僕の唯一無二の同族、大好きな僕のキョウちゃん、こひゅーこひゅーと息が乱れるのも全て捧げたい、だから唇を重ねる、ぶらりぶらり、間抜けな姿で吊るされたまま。


感情をくれる大切な君に。


「小さな舌だから虐めてるみてーになるな」


「っあ、僕を虐めて、ずっと」


君だけなんだから。

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