エピローグ【メリークリスマス】③



「あっ……」


腕時計に一瞬目をやったあと、俺は慌ててグイッとコーヒーを飲みほした。

やべっ、もうこんな時間か!

今日は朝一から溜まってた書類を片付けないといけないんだよな。

全く……世間は日曜で休みなのに、刑事はほんと休みもままならない無茶苦茶な生活だな。


俺はコートを手に取り、急いで椅子から立ち上がると、クルッと勢いよく振り返った。


――すると。



「きゃっ!」

「うわっ!」



ガシャン!!――



見事なまでの正面衝突。

相手側の、トレイ上のプラスチックコップやチョコレートドーナツのお皿が、地面に勢いよく派手な音を響かせこぼれ落ちた。

その横では髪の長い女性が困った顔で立ち尽くしている。


最悪だ。

俺は何をやってるんだ。


「す、すみません!」


俺は即座に頭を下げた。


「ちゃんと前を見てなくて、そ、その、大丈夫ですか??」

「あっ、は、はい。大丈夫です」


女性はニコッと笑った。


「気にしないでください。私もよそ見してましたから」

「ほ、ほんと、すみませ……」



え?――



「あ、あの……」


俺は目を丸くしながら言った。


「あ、青山……さん?」

「は、はい」


彼女は驚いたように言った。


「そうですけど……? どこかでお会いしましたっけ……?」

「あっ、い、いえ、その……」




《運命の出会いは突然訪れるもの――――》




「い、いや、会ったことはその、、、で、でも、なんていうか、その……ただ……ご迷惑をおかけしたんで……よかったら……」

「は、はい……?」

「そ、その……」


俺は少し頬を赤らめながら言った。


「お、おごらせてもらえませんか……?」

「え……?」

「い、いえ、もちろん、嫌じゃなければれしゅけりょ……」


同じ女性に、2回も一目ぼれをするなんて、もちろん初めての経験。

緊張で滑舌もカミカミ。

だが、そんな慌てふためく俺がおもしろかったのだろうか。

青山さんはクスッと笑ったあと、



「じゃあ……お言葉に甘えて」



と、ペコリと軽く会釈をした。




《恋は突然、始まるもの――――》




「斉藤っていいます。初めまして」

「青山です。こちらこそ初めまして」







その時、恋が始まった――――







【END】




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TRUE・CHAIR ~クリスマスの奇跡~ ジェリージュンジュン @jh331

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ