エピローグ【メリークリスマス】②


あぁ、良かった。

オーナーもひろこちゃんも、夢の中のまんまだ。

なぜだろう。

やはり、親近感があるからだろうか。

なんというか、引越してしまった友人に、再び巡り会えたような感覚。

亡くなったと思っていた友人が、実は生きていたというような驚き。

とにかく俺は、すごく嬉しい気持ちになった。


そして、じっと部屋の中を見ていたからだろうか。

オーナーと目が合い、次にひろこちゃんと目が合った。

でも、2人とも、何事もなかったようにすぐに視線をそらした。


あぁ。

そうだよな。

当然だよな。

現実では、全くの他人なんだもんな。


でも、これでいいんだ。

2人が本当に存在していることが分かっただけで、俺は満足なんだ。


「2人とも……お元気で」


俺は、誰も見ていないと知りつつも、軽くペコリと頭を下げ、その場を立ち去った。

『オーナー、今度、改めて泊まりにきますね』

『ひろこちゃん、イタリアン、楽しみにしてるね』

心の中でそうつぶやき、俺はペンションをあとにした。

これが、ペンションさくら……あっ、いや、ペンションさくらんぼについての一部始終。


ちなみにもっと言えば、やはり岡本さんも実在していた。

ある先輩刑事が岡本さんと同期で、話を聞くと、特徴が全く一緒だった。

そう。

あの人は、大阪府警の刑事だった。

なるほど。

どうりで、関西弁が板についていたわけだ。

夢で見た通りなら、おそらく、やり手の刑事なんだろうな。

いずれ、一緒に仕事をしてみたいな。

俺が刑事を続けていれば、その可能性もあるかもしれないな。

まあ、楽しみは、先に取っておくか。


岡本さん。

あなたと会える時を楽しみにしていますね。


さらに、もう1つ。

武藤谷さんは、街中で偶然、発見した。

2つ先の駅近くにある、ニューハーフパブで、ママをしていた。

店の前で、男のお客といちゃいちゃしているのを目撃してしまったのだ。

全く。

夢の中では、最初、あんなに隠していたのに。

カミングアウトどころか、そのキャラを生かしまくってるじゃないか。

まあ、いいや。

何にせよ、あんなに生き生きとしている姿が見られれば、俺も嬉しいものだ。


武藤谷さん。

早く運命の彼氏を見つけてくださいね。



さてと、まあ、こんな感じかな。

とりあえず、あの夢の中で出会った人は、全員、存在していた。

幸せだ。

それが分かっただけで、俺の心は幸せで満ち溢れていた。

もう会えないと思っていた人が、この地球上の、この日本の、こんなにも近くにいたんだ。

だから、幸せな気持ちに覆われる。

そう思うのが、当然だった。


そして、あんな感じの不思議な夢は、あれから1度も見ることはなかった。

やっぱり、あの夢を見たあの日は、神様が俺に与えてくれた特別な1日。

ありがとう。

ありがとう、神様。

俺は、そう思わずにはいられなかった。




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