エピローグ【メリークリスマス】①




 * * * *




――1年後。


チラホラと小さな雪が姿を現してはすぐに消えていくような、肌寒い日曜の午前8時。

クリスマスが近づいているからだろうか。

街の空気感がいつもより華やいでいるように見える。


そんな中、俺は職場近くのドーナツショップで、2杯目のコーヒーに手をつけようとしていた。


俺は今でも、刑事を続けている。

相変わらず、昼も夜も関係ない生活だ。


ちなみに、あの不思議な夢を見た日からしばらくして、個人的に調べたことがある。

そう。

ペンションさくらが『毛ガニ山』のあの場所に存在しているのかどうかを。

どうなんだろう?

本当にあるんだろうか?

それを確かめるため、俺は、実際にその場所に足を運んでみた。

で、その結果はというと、


「あっ……あった」


そう。

見事に実在していた。

場所も建物の形も、そっくりそのまま、夢で見た通りだった。


「じゃあ……ということは……」


ペンションの名前も一緒なのか!?

俺はそう思い、急いで看板を見上げてみた。

すると、そこに書かれていたのは!



『ペンションさくらんぼ』



……惜しい。

惜しすぎる。

そう。

まさに、ニアミス。

『あ~! くそ~!』と思わず声を上げてしまうほど超ニアミスだった。

やっぱり、あの夢で見たことと現実は、リンクしている所としていない所があるらしい。


そして、ペンションの看板には、他にこう書かれていた。

『かわいい、かわいい野生動物に出会えるペンション』

さらに、

『おいしい、おいしいイタリアンが食べられるペンション』

こんな感じの宣伝文句が書かれていた。


「すごい……」


すごい、すごい。

ペンションの利点を、すごくアピールしているじゃないか。

もしかして、現実のオーナーは、かなりやり手の経営者か!?

俺は、そう思わずにはいられなかった。

そして、その2つの文面の下には、宿泊料金の説明も表示されていた。


さあ!

いくらなんだ!

敏腕経営者が定める料金設定はいくらなんだ!?

気になるその値段は!




『1泊3食つき2000円』




……安い。

安すぎる。

まさに、お決まりのおバカ設定。

『あ~! やっぱりかよ!』と思わず声を上げてしまうほどの超おバカ設定だった。

いくら考えても、なぜかは分からない。

分からないが、看板に関しては、この部分だけが夢の中と全く一緒だった。


う~ん。

やはり、そうなのか。

この部分だけを見て判断するのは間違っているのかもしれないが、やっぱりオーナーは、現実の世界でも世間しらずのボンボンであることは間違いない。

俺は、そう思わずにはいられなかった。


そして、玄関の左隣にある窓から、部屋の様子をチラッと見てみると、


「あっ……」


ロビーでテレビゲームをしているオーナーと、テーブルを拭いているひろこちゃんの姿があった。




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