15歳、便座にハマった(物理的に)。

すし

file.俺 hip in 便座

「うおおぉオオオ、うんこ行きてぇええええ」

激しく下腹部を貫く痛み、俺は昔から腹が弱い。

「夕地~またかよお前、今いいとこなのにタイミング悪すぎかよ。

 まぁいいや、はよトイレ行ってきーや。」

勿論、今までの会話は小声で身をかがめて行っていた。

映画館で急に男子中学生が「うんこ行きたい」なんて叫ぶことはありえない。

てゆか普通に考えてありえない。

バッグを勢いよく漁り、腹痛用の鎮痛剤が入っている袋を掴んだ。




はずだった。




いや、だって映画館内は暗いだろ?




だから、途中でまさかコンビニ袋をつかんで走っているなんて気づくわけがない。

映画見ながらゆっくりグミでも食おうかと、

バッグに忍ばせておいたのが間違えだった。


だが、鎮痛剤ももはや何の意味も持たない。

俺は自力でこの腹のいたみを乗り切ったからで。


俺は今、便座にハマっているわけで。


ハマっているというのは「便座が好きだ!!」「この曲線美が美しい!!!」とか

そういう部類の「ハマる」:何かに夢中になる、のめり込む、熱中することを指す。

             趣味や恋愛に関することが多いが、勉強や仕事、家事

             など一般には面倒とされることもそれに夢中になった

             場合は、ハマったといえる。

ではなくて、物理的な方である。


つまり、俺の尻は今、窒息しそうなのである。


つまり!!俺の尻は今、トイレから嵌って抜け出せない状態なのである。


俺はトイレにつくことができたという感動のあまり勢いよくドアを閉め鍵を閉めるより先に便座に飛び込んだ。

今考えると、これが過ちだったんだなとしみじみ思う。

普通ドアを閉めて鍵を閉めるというのが正規ルートなのだが、

この順序を踏み倒し、感情的になってしまった俺をぶん殴りたい…。


季節は冬、田舎の映画館だからといって舐めちゃいけない。

なんと、便座が、温かいんだ!

寒いこの時期、家から帰って温かい便座に座ると、

冷たい便座で用を足すより最低でも1.5倍は幸せを感じるだろう。


だが長時間温かい便座に座っているとどうなるか知ってるか?


段々と熱くなり、尻を置くポジションを数分おきに変えなければならないんだ。


だから正直、便座にハマっている今だけはこの機能は本当にありがたくない。

中には「じゃあ、ほかほか便座機能をoffにしてしまえばいいじゃないか」と

思った方もいると思う。


だけどね、性の悪いガキが便座ボタンにガムを引っ付けて逃げたんだろうな。

かっぴかぴに乾燥した色の悪いガムがのっぺりと張り付いてるんだよ。

「そんなんとりゃええやん」って思うかもしれないが、

あいにく俺はこのガムと戦えるほど日常で使える小技を知らないし、

なにより、人が嚙んだガムを触れるほど人生の悟りを開いていない。


もう無理。


そういうわけで、今何時なのかもあれから便座にハマってどれくらい経過したのかも

わからない。


「映画、もうクライマックスか…てゆか終わったのかな…。

 ああ、ユッキーのセーラー服姿見たかったのにな…。

 てゆか、タクト待たせちゃってるのかな。いやもしかしたら帰ってるかも…。」


叫んで助けを呼ぶか…?

暴れて近くにいる人に気づいてもらうか…?


いやでもなんか、申し訳ないっていうかなんかなんか…。はずい


「うんこしてたら便座にハマって抜け出せられなくなりました。」なんて言えねえ…

てゆかタクトに、友達に知られたくない。

どんどん顔から血の気がなくなるのがわかる。


よし、自力でこの危機から脱出するしかない。


そう決めてからどれくらいたっただろうか?

俺はあれからずっと尻の穴をしめ、床を思いっきり踏み、腹に力を入れた態勢で踏ん張っている。

頭の中では映画の主題歌「きゅるりんっ❤マジ❤カ❤ルハー❤トでキミをget you」を

脳内リピート再生している。

これからわかったことが一つある。

踏ん張り始めて大体20分が経過していることだ。

尻の穴はもう限界。

足も腹筋も筋肉痛まっしぐら。

尻の感覚はもうほとんどない。絶対やばい。


もうそろそろ抜けてもいいころだろぉ…いや抜けろよぉ…。


ここは田舎の映画館内男子トイレ個室洋式便座内。

俺は知っている、その絶望を。

「15歳、便座にハマった(物理的に)。」




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15歳、便座にハマった(物理的に)。 すし @yo_3iza_y

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