第2話

辺境領ヘリデルンの領主の家では木で英雄オルガを熱心に彫る領主のカイル・トリスタンと、息子の成人の儀が心配でそわそわしているミラ・トリスタンの姿があった。


「ねぇ、カイル。」

「ちょっとまって…よし。なんだい?ミラ。」

「あなたはおかしいと思わないの?」

「…アンデッドキングの出現のことかい?あれはきっと自然出現しただと思うよ?ほら、アンデッドってたくさん集まると統制を取るためにその中の一体がアンデッドキングになるじゃん?あれさ。」

「なら、いいのだけど。なにかが起きそうで不安だわ。」


そう言い窓から外を見ると、黒い雨雲に覆われた空がミラの心配をより一層深くして行くのであった。


◆◆◆


「もう少しで討伐対象のポイントに着くから戦闘の準備しておけよ。」


と、簡単な地図を見ながらジョイルはオルガたちに注意を呼びかける。


オルガ達は村からマルジェラ平原へ行く途中の森の中を7人で歩いていた。

途中、何匹かモンスターは出たが容易に斬り伏すことができた。しかし、今回の成人の儀で討伐するモンスター、アンデッドキングはそのモンスター達より数段強いと皆理解しているのかどこか緊張していた。それを察したジョイルは皆に提案をする。


「よし、お前らあれ倒す前にジャンケンしようぜ。それで負けた奴は…一発芸で。」

「「「はぁ!?」」」

「いや、なんで一発芸!?」

「面白いじゃん?一発芸。」

「いや、おもしろくねーよ!」

「まぁ、緊張をほぐすと思ってさ!やろうぜ!なぁ、オルガ!」

「おもしろそうだな!それ!やろうぜ!」


と、話が決まり最初はグーを出した。


瞬間、仲間の1人が真っ二つになった。

上半身と下半身が離れていた。


「ジャンケ…うおおおお!!」

「っ!!」


皆、驚愕したが、戦士としての教育を受けているため、速やかに戦闘体制に入ることができた。


真っ二つの死体の後ろには、バルディッシュを手にし、アイアンメイルを装備したスケルトン、それも戦闘に特化したウォースケルトンであった。


普通のスケルトンであれば1対1で普通に勝てるレベルである。しかし、戦闘に特化したウォースケルトンは1体に対して、5人がかりで戦わなければまず勝てないと言われている。


しかし、この場には1人殺されてしまったが6人の仲間がいる。故にウォースケルトンは思いのほかすぐに倒せた。


仲間の死体を防腐の袋に入れ、手を合わせる。

すると、ジョイルが口を開いた。


「なぁ、アンデッドキングって大量のアンデッドを統制してるんだよな?」

「あぁ、そう聞いたぞ。」

「その統制されてるアンデッドって最低でウォースケルトンだったり…しないよな?」


その場にいた皆に衝撃が走る。

100匹以上もウォースケルトン以上のモンスターがいれば勝算はほぼ0である。

しかし、成人の儀であるアンデッドキング討伐を諦めるわけにはいかない。

彼らは前に進むしかなかった。


「ふぅ、死ぬにはいい日だぜ。」


◆◆◆


マルジェラ平原の真ん中あたりまで歩を進めた彼らは絶望した。

そこには、ウォースケルトンはおろか、人の魂を食うと言われるソウルイーター、エンチャント武器がなければ攻撃さえ入らないレイスなど高位のアンデッドが蠢いていた。

そしてその中心には普通のスケルトンの3倍ほどの大きさのアンデッドキングがいた。


「き、聞いてない聞いてない!!無理無理無理無理!」

「なんだ、ありゃ。見たことないウネウネしてる奴もいるぞ!?」

「あれ、自然発生のアンデッドじゃねぇ。ネクロマンサーの召喚でしか発生しないはずなエルダーリッチがいる。」


エルダーリッチとは、生前魔法を極めた魔法使いが死を恐れ、アンデッドになった姿。と、物語に描かれている。

しかし、それはネクロマンサーの召喚以外で自然発生することはないとジョイルは言う。


それに合わせて、人の魂を食らうソウルイーターや、エンチャントのない武器でないと攻撃さえ通らないレイス、ウォースケルトンとほぼ同じ強さのウォーゾンビもいた。


「じゃ、じゃあなにか!?ネクロマンサーがどっかにいるとでも言うのか!?」

「いや、わからん。だがエルダーリッチが自然発生することはありえない。」

「てか、そのエルダーなんちゃらって俺ら倒せなくね?その以前にレイスとか無理じゃね?」

「な、なぁ、儀式中断して村に帰ろうぜ?」

「甘えるな!!」


と、オルガが怒鳴り、驚愕したジョイル達はオルガを見る。

普段温厚なオルガは眉間にしわをよせ、こめかみには血管さえ浮いていた。


「先人達もこれを乗り越えて来たんだろうが!俺らがここで帰ったら一生ヘリデルンの恥として生きるんだぞ!俺はそんな人生を送るくらいなここで死ぬ!おまえらはどうだ!?」

「…そうだな!ここで死んでやるよ!あぁ!本当に死ぬにはいい日だぜ!」

「俺らはヘリデルンの戦士だ!負けるわけがねぇ!」

「神よ!我らに御加護を!」


と、士気を上げ戦闘準備をする。

ふと、アンデッドの群れを見るとオルガの声につられてアンデッド達がこちらに向かって走り出していた。


「ちっ、もう走って来やがった。あれをどう倒せって言うんだよ…」

「足だ!足を狙え!そうすれば相手の動きを止めれる!」

「レイスは!?レイスに足なんてねーぞ!」

「あいつはほっとけ!」


散々な指示だが今はこれしか浮かばなかったし、仲間もそれ以上考えつかなかった。


そして、アンデッドの群れとオルガ達がぶつかる。

オルガ達は剣や斧で足を砕き、敵の動きを鈍らせていく。

しかし、数が数なのでオルガ達はどんどん押されていく。

そして仲間が1人殺されたのを引き金に次々とアンデッドの餌食となっていく。


オルガは、自らの防御に必死で仲間の死を悼む暇もなかった。


オルガは前方の防御に必死になってしまい、後方が隙だらけになっていた。そこにウォースケルトンがバルディッシュを振りかぶり斬りかかる。

オルガは、もう終わった…と思った。


だが、その攻撃はオルガに当たることはなかった。いや、オルガに当たるはずだったバルディッシュからジョイルが身を呈してオルガを守ったのだ。

地に伏したジョイルは腹を斬られたようで、そこから鮮血と、臓物が溢れる。


「おい!ジョ、ジョイル!?大丈夫か!?」

「みりゃわかるだろ…まだまだ…全然いけるぜ」

「無理すんな!てか喋んな!」

「今までありがとな。オル…ガ…」

「お、おい!ジョイル!ジョイ…ル?」


オルガは時間が止まったような錯覚に陥る。

10年来の親友が死に、頭が真っ白になる。


「ああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」


そして、オルガの意識はそこで途切れた。


◆◆◆


意識を失ったはずのオルガは、ショートソードを振り回して周りのアンデッドを一掃していた。


「んー、どうにも小さい体だ。それに筋肉も付いていない。鍛え直さないと使えないな。まぁ、ショートソードくらいなら振り回せるみたいだしまだいいか。」


と、オルガの声とは違う低い声が彼の口から漏れたのを、意識が朦朧としているジョイルは聞いていた。


「オル…ガ?」

「…なんだ瀕死の少年よ。たしかに私はオルガだが?」

「オル…え…えい、ゆう…オルガ?」

「うむ、私がヘリデルンの英雄オルガ・ゴルドルフだ!」


ヘリデルンの英雄オルガ・ゴルドルフ。彼がオルガの中に住まう最初の最強であった。

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辺境領主に住まいし七人の最強 @Niboshi_1582

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