辺境領主に住まいし七人の最強
@Niboshi_1582
第1話
1980年5月3日、アツウェル王国の端に位置する辺境領ヘリデルンの領主の家に小さな命が芽吹いた。
領主は、名をカイル・トリスタン、その妻はミラ・トリスタンと言う。
そして、生まれた男の子はオルガ・トリスタンと命名され、領主夫婦はもちろん、名付け親である教会の神父、そして領民たちからとても祝福された。それほど、この領主家族は領民達に愛されていた。
ちなみに、オルガとはヘリデルン領に昔から伝えられる英雄の名である。
そして、オルガはその英雄の様に強く逞しく育っていった。
◆◆◆
オルガが誕生してから15年の年月が経ち、今日は成人として認められるための成人の儀が開催される日であった。
「オルガー!早く起きろよー!」
「む、うぅ…」
「早く起きねーと成人の儀に遅れるぜー!」
「わーってるよー!」
と、オルガを起こすのは親友であり、幼馴染のジョイル・コースである。彼は身長が180cm程の細身である。しかし、痩せているわけではなく、限界まで引き絞った故の細さで、立派な戦士だ。そして、彫りのの深いイケメンである。
だが天が二物を与えるはずもなく、ジョイルのファッションセンスは壊滅的で、今も熊の毛皮でできた上着を素肌の上に着てズボンは花柄のスパッツを履いている。そして、それがいいと思っているところが、また壊滅的である。
◆◆◆
オルガがやっとベッドから起き上がる。洗面台に行き、鏡を見ると髪の毛がボサボサになっていたが気にせずに顔を洗う。
それでやっと意識がはっきりとしてきたので十分に動くことのできる服装に着替える。
オルガが部屋からリビングに行くと、オルガの両親、カイルとミラが待ってましたと言わんばかりにオルガの元に駆け寄ってくる。
「オルガ、成人の儀頑張るのよ。無事帰って来られればあなたはヘリデルン領の領主よ」
「そうだぞ、かんばれよ!これは餞別だ。受け取れ、息子よ。」
と、手渡されたのは、カイルが今まで使っていたショートソードであった。
「と、父さん、これ…父さんの剣じゃないか!貰ってもいいの!?」
「ああ、俺ももう狩りに行ける歳じゃないからな。そいつも使ってもらえれば嬉しいだろうよ。」
そして、ミラからは皮で出来た防具を渡された。
「それは、私があなたのために昨日作ったものよ。1日で作ったけどそうそう変わらないから安心してね。」
「昨日!?1日でこれ作ったの!?すご!」
そして貰ったものを全て装備すると、どこからか力が湧いてくる様だった。まるでずっと前から使っている様な感覚に陥ってしまうほど体にフィットした。魔法が付加してあるのだろうか。
装備の礼を両親に言い、外で待たせている幼馴染に謝って成人の儀の集合場所である広場へと向かう。
◆◆◆
広場に着くと他に5人の若者がいた。
どうやら今回の成人の儀はオルガを含めたこの7人で開催するようだ。
成人の儀というのは簡単に言ってしまえば領地の外に出て、指定された怪物を狩ってくるというものである。
ある時は森にいる人の倍以上の大きさを持つ熊であったり、一番ひどかったのは近くの川に出没する巨大ガニだったと言う。その時は7人中5人が重症で、1人が死亡した。
そんな危険極まりない成人の儀なので先程まで騒いでいたジョイルも緊張しているようだった。
集まった7人で挨拶を交わしていると、広場の高台に領主であるカイルが登り注目を集めた。
「成人の儀を始めんとする若き者達よ!これより討伐対象を発表する!今回の討伐対象は…ここより南下したマルジェラ平原に出没したと言われるアンデッドキングだ!とても強いが君らに倒せない敵ではない!では健闘を祈る!」
その声を聞いた人々はざわついていた。何せアンデッドである。それも、何体ものアンデッドを従えたアンデッドキング。
生者全てを恨み、敵とみなすアンデッドはとても凶暴であった。もしかすると巨大ガニよりもタチが悪いかもしれない。
当然、オルガ達の顔も青くなっていた。
しかし、今頃断念できるわけもなく7人の若者達は領地の門から南下してマルジェラ平原へと向かって行く。
◆◆◆
「ふふふ、アンデッドを操るのってたーのしーなー。うふふふ。おや?この若者達は…まーいーかー。アンデッド使って殺しちゃおー!」
広い洞窟の中に不穏な言葉が響き渡る。
洞窟には小さな祭壇がありその前にハードを深く被った何者かが座り、祭壇に置いてある鏡にはどこかの草原が映っていた。その草原にはおびただしい量のアンデッドが蠢いていた。それも、スケルトンやゾンビ、レイスなどと多岐に渡っていた。
そしてその中心部には他のアンデッドとは確実に違う個体がいた。
大きなスケルトンの様な外見をしていて、立派な冠をかぶり、4本ある腕にはそれぞれ錆びたショートソードを握っている。
これがアンデッドキングである。
「ふふっ、蹂躙のはーじまりー!」
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