第8話 不安の足跡を砂に残して

ぼちぼち歩き始めた私を押すように風が吹く、砂が背中にバチバチと当たる。

私は何歩歩いてあの場へ行ったのだったか。

もはや足跡が消えふわふわと積み重なった砂の上を、シャギシャギと音を立てて歩く。

こっちであっているのか、それさえもわからなくなりつつあった。


その時だった。

「あ」

情けない母音を口から漏らした。

「見つけたぁ!」

墓だ、私の墓だ。

死地を見つけたときのような感想が頭に浮かぶ。

死地とは逆の場所だろう。


「さて!なにがあるかなー?なにもないかー?」

暗い墓の中をザラザラと底から少し積もった砂をなぞるように探っていく。

角までしっかり指が痛む勢いでガッゴッ探した。

けれども。

なにも、ない。

「はぁ。」

「まぁそうだよね、あったらこの千切れた肩掛けバッグと一緒に見つけてるだろうし」

「まぁ確実にあると思ってき、来たわけじゃないし・・・」

あぁ、そうはいっても悲しいものは悲しい。

そうでなくとも何か一つ手がかりはあると一瞬は思ったのだ。


とりあえず疲れたので座る。


寂しく砂が、私を軽く連続的に殴る。

たまにコロコロと弾薬やら機械のかけらやらが連れてこられていた。

今日は少し風が強い。

その風はヒュヒュヒュと少しづつながら墓の中に砂を運んでいた。


なんとなく墓の中に砂が入るのが嫌だったので、私は蓋をズズッと持ち上げ墓の上へガゴガゴと置いた。

白い十字架が堂々と重厚そうな蓋に描いてあった。

「あ、十字架が描いてあったんだ」縁起でもないな、そう思った。

ふと気づく。

「・・・?この十字の上の『N』ってなんだろう」

『N』・・・エヌ・・・・えぬ・・・・。

「っ!?もしかして!」

脳裏に浮かんだのは『N』North。北だ。

こんなところに大ヒント、まさかと思う。

博士、本気で変人だぞ。謎解きをさせるために私をこんな場所へ連れてきたんじゃあるまいな?

若干イラつきもあったが、これだ、これしかない。

この世界で私がすがれる唯一の希望。

考えろ。

蓋をして分かった、そして考えている、だから、南は墓の十字の下方向だ。

嬉しい。そんな感情が、本物ではない体を大きく揺らし、心さえも揺らす。

「がんばろう」

自分のために。そう思った。

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