第3話 初めてのお話、最後のお話。

ザッザザザザアアア・・・・

ウウウウンン・・・・。

ズゥン。グググ、ドスン。

何だこれは。

重い、これは体だろうか。重すぎる。

目を[目]と言われている部位を開けないと…


私はグググと目をゆっくり、開けていった。

眩しい、これが太陽というものなのか?


実際は知らない天井の照明であった。

そして私は声を出す。

「んんぁ・・・・っっん!??ここは・・・・・どこですか!?」


「起きたかね、目覚めは良さそうだ」


ここは、ああ。私の部屋か。[元わたし]といったほうが良いのかな。

頭の処理が追いつかない。生まれたてという感じだ。

とりあえず声のする方へ視線を向ける。

そこには白髪白ひげのおじいさんがイスに座っていた。

「ああ、ええっと・・・あっ!博士ですね!」

脳にスッと浮かんできた。脳は人造なのか分からないが多分私を起こすときに一緒にインプットした情報なのだろう。他には何か入れてあるのだろうか。

計算はできるのかな? 何かと交信出来るのかな?

考えていると博士が話しかけてきた。


「さすがに状況把握は優れているようじゃの」


「いえ性格的にそうなだけです。私はお馬鹿ですよ?」

まぁ多少はこの体のおかげでもあるが。

何か不思議だ、私はこうやって喋るのか。なぜ今私は自虐したのだろう・・・?

なぜだ?私は喋るという行為すら初めてなのに。


そんなことを気にもせずこの老人、博士は喋る。

「ふふふ、明るい性格だ。これで未来も多少は明るいかの」

「さっそくじゃが、言いたいことがある。時間がないのでわかりやすく手短に伝えるぞう」


随分強引だなぁ。もっと色々教えて欲しい。

どうやら常識、私の年齢程度なら知っている情報、その程度しか知識をいれてなかったようなのだ。色々考えてみても思った以上にコトバを知らない。

人造人間ってこんなものなのか?

急いでいるようなのでとりあえず返事だ、返事をしておこう。

「はい」


「これからの未来、ワシの発明で世界は終わるじゃろう。ワシは助手が欲しかっただけじゃのに、あいつら余計な改良を。」


「はぁ…」

愚痴ですか。愚痴なら神様にでも・・・ん?"神様?" 

頭に浮かんだコトバ。でも私はそれが何かわからない。


彼女に考える暇なんて 無かった。


「それでじゃ。君には終わった後の世界を見てきてほしいんじゃ」


・・・・?・・・・・・!?


「なんですかそれ!?一人寂しくですか!?わがままはコーヒーの砂糖の量くらいにしてくださいよ!」

「と言うか私、起きたばかりですよ!?」

そう、今さっき起きたばかりだ。寝起きの一杯のコーヒーすら飲んでいない。出してもくれないし。


「まぁそういうな、天才老人最後のお願いじゃ。」


なにを言ってるんだこの人は。天才すぎてぶっ飛んでるんじゃないか?

「終わった後の世界を見てきて私はなにをするんですか?」

「絶対寂しくて泣きますよ?」「というかすることないですよね?」

「見てきたとして、それを伝える人は?」

「まさかタイムスリップして戻ってこいとかいいませんよね?」


私は質問攻めをした。このまま一方的に主導権を渡してはならない。

私は今さっき起きた、いや生まれたんだ。もっと今を知りたい、自分の目で見たい。

なのに。


「それはいい考えじゃの、だが違う」


全否定ですか、もっと質問を。なにか、もっと。


「じゃあ、なにを、す・・・!?」

彼女に強烈な眠気が刺さる。

「な、なに・・・?」

拒否の出来ない、意図的な睡魔。こんなことをするのは目の前にいる博士の仕業だろう…


「ワシの最後のプログラムじゃよ。大丈夫、明日はいい日になるじゃろうて。答えが出るほどにな・・・かっかっか。」

老人は笑う。それはもうスッキリとした笑顔で。


「ま、まって・・・」

私の最初の記憶はここで終わった。


長い夢を見た。

クリスマスにプレセントをもらう夢。

なんだろうか、私は生まれたばかりの人造人間で、存在する記憶は博士との会話だけのはずなのに。

ニンゲンの夢?人の夢?わからない。

でも確かに"暖かさ”を感じた。不思議だ。


ざぁぁ。

灰色の景色。まぶたかこれは。

今度はスッと目を開ける。眩しくない。

どこだここは

蓋をバゴンと開け、ゆっくりと立つ。

外だったらしく、眩しい。これが太陽か?二度目の疑問が浮かぶ。

砂が、久しぶりに立ったであろう体にザーッと当たる。痛くはない。

痛覚は無いのか?

縁起でもないことに墓のなかであった。どんな趣味してたんだ。

くそう、なにもわからない。マニュアルとか無いのか。

「博士、あのじいさんめぇ・・・」

「分かりやすく手短に、なんて嘘をつきやがってぇ・・・」

泣き目になりながら私は最初の独り言を発したのだった。

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