第2話 ニンゲンが生まれる

彼女は元々意思を持つ生き物ではなかった、生き物ですらない『人間』に造られた『ニンゲン』だった。

『博士』と呼ばれる人間に最初は造られた。革新的な発明だったためにすぐに権利が企業に移り大量生産された。

人間に命令されるがまま、道具として扱われる。彼女が生まれた時代ではそれが一般的となっていった。

人間にはめんどうな仕事、危険な仕事、性の仕事。道具が主体となり人間のエゴのままに働いた。

何体も何体も造られた。意思なき道具、人造ニンゲンが。


何十年か経ち、ロボット世界が危惧されたように、人造ニンゲン世界もまた"暴走するのではないか""危険だ"と言われた。

そういう考えは大概本当になる。現になってしまったのだ。

意思なきニンゲンたちは『意思を持たないまま』暴走した。

何十年、何百年もニンゲンと人間は戦争を続けた。人間は人間同士で争いをしていたときもあった。

ニンゲンは"その時"は同士とは戦わなかったので、そこで差が出来ていったのだろう。

人間は負け、滅んだ。ニンゲンの勝利であった。


戦う相手が居なくなったニンゲン達はついには自分たちを戦う相手に選んだ。

そうしてそれらもまた、滅んでいったのだ。



彼女は最初に博士に造られた、いわばオリジナルでありプロトタイプだった。

博士は彼女を娘のように可愛がった。

そして人間とニンゲンの戦争が始まる前、博士は彼女に自分のすべてを託した。

記憶、情報、自分のこと、彼女のこと。

そして"意思"を。

研究は意思を持たせることが可能な段階まで進んでいたのだ。

しかし博士は禁忌を犯しているような思いになり誰にも言い出せなかったのだ。

魂を入れているわけではないが、意思は魂とも呼べるようなものだと思ったからだ。

人間そのものを造り出したときなにが起こるのか、誰にもわからない。

神の怒りに触れるかもしれない、そう思ったのかもしれない。

しかしもはや神など要らぬ戦争だけの世界になるなら、いっそ。

そう博士は思った。


そして博士は彼女を起こしたのであった。

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