宴のあとで
「それで、そのあとどうなったの」
ソファの上で寝転がるケーキの問いに、ナイフは面倒そうに答えた。
「聞かなくたってわかるだろ。お前の下卑た視線を浴びるためにここに来たわけじゃない」
「ふうん。それで? これからどうするの? フォークちゃんのこともう手放せなくなっちゃったんでしょ? いつまでも飼ってると足が付くよ。ずっと同居っていうのも変な話じゃん? ルームシェアするような家でもないわけだし」
ケーキの言葉に、ナイフは至極もっともだというように頷き、なんでもない風に言った。
「ああ、だから、俺たち結婚しようと思って」
「……は!? 正気!?」
「酷い言われようだな。そもそも言い出したのはチェリーの方だろう、これだって俺なりに考えた答えだ。俺はもう愛のない暮らしに疲れたんだ」
「ええ……ジャックの口から出た言葉とは思えない……」
「式は盛大にやる。お前も来い」
「ええ、うっそぉ……」
「嘘じゃない」
◆
「夢みたいだね」
タキシード姿のままフォークはにこにこと言った。頬を薔薇色に染め、薬指には先ほど交換した指輪が、胸には一輪のバラの花が咲き、襟元を飾っている。
「これからずっと、きみの作ったお味噌汁が飲めるんだって考えるとどきどきしちゃうよ」
ブーケを弄っていたナイフが振り返って、首を傾げた。
「味噌汁? 和食を作ったことあったか?」
「いやだな、慣用句じゃないか。実情がどうとか、言うだけ野暮ってもんだよ」
「そうか? そうかもな」
ナイフはテーブルの上に積まれたプレゼントボックスのうちの一つを手にとって、幅広のリボンをほどいた。ナイフが机の上に置いたそれを、フォークは何とはなしに手に取った。装飾に結わえられた小さなタグにはサクランボの絵とハートマークが描かれていた。
「ナイフ、それなに? 誰から?」
「チェリーからだ。この箱は多分、食器のセットだな。大きさからしてペアのやつじゃないか?」
箱を開封すると、中からは取っ手のついたケースが出てきた。ナイフはケースの蓋を開け、そのまま閉じた。
「ど、どうしたの? なにかあった?」
「フォーク、チェリーの家に行くぞ。やつに話がある」
「えっ? ちょ、ちょっと……」
フォークは部屋を出ていってしまったナイフの背を追いかけようとして、ふと思いつき、さっきナイフが閉めたケースを開いた。重い蓋の中にはペアのマグと装飾の施されたカトラリーセット、細いペンで『お幸せに!』と書かれたチェリーのサイン入りカードが入っていた。
きらびやかな装飾のなかに、他と趣向の違うものが混ざっているのを発見して、フォークは赤面した。数あるカトラリーの中、ピンクの石とハートのダイカットは、自分と彼を指すものにだけ施されていたのだ。
バース・オブ・ケイク 佳原雪 @setsu_yosihara
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