「まさか、同じようなものを既に攻略済みだとでも?」

「ある意味ではそうですが、……いえ、現実で遭遇したわけではなくて、ですから、あー……その、ゲーム……遊びでよくあるというか……『不思議のダ○ジョン』シリーズなんて定番というか……」


「はあ?」


「や、ですから……ええと」


 照治はいかにも説明しづらそうだが、それも無理のない話だ。


 一定時間が経過したり、プレイヤーが入る度に構造が変わるダンジョン――いわゆる自動生成ダンジョンなんて、昔からゲームには腐るほど存在する。

 重度のゲーマーでなくとも、普通にRPGやらアクションやらをやっていれば、あちこちで遭遇するものだ。


 だから幹人たちは、伯爵から初めてそのダンジョンの話を聞いた時も、「なんだそれ!?」ではなく「自動生成ダンジョンじゃん! やり込み要素かよ!」という反応であった。


「ですから、えー、その…………あ~、なんつったらいいんだこれ」


 だがそれを、テレビゲームなんてものの存在しない世界の人間に説明するのは多少、骨だ。照治は頭を掻いてぼやいた後に、こちらを向いた。


「……すまん、幹人、頼めるか」

「オッケー」


 骨ではあるが、他でもない照治に頼られたならバトンを取らないわけにはいかない。照治に代わって、幹人は説明を始めた。


「陛下、私たちの出身国の人間は大変想像力の逞しいものたちが、それはもう山ほどおりまして」

「ほう」


「それでですね、自分の想像した世界を、せっかくなので盤や駒なんかを用いて簡易的に表現したりするわけです。さらには友人たちを招いて、一緒に駒を操り、その世界へ行った気になって冒険のまねごとをする遊びなんかが昔から人気なんです」

「……なるほど、なかなか奇特だが、やっている事はわからんでもない」


 訝しげな顔なのは変わらないが、一応国王は話に付いてきてくれているようだ。


「ええ、まったく。それでですね、やはり遊びというのはやり応えを求めてどんどん難しくなっていくものですから、冒険の舞台……潜るダンジョンがいつも同じではなくて、毎度毎度、中身が変わってしまったならやりごたえが増すのでは! そう考えた者がおりまして」




「…………ほう、それは」

「はい、陛下が攻略をご依頼されたダンジョンと同じようなものです。ですので、私たちはそういったものに少しは慣れ親しんでおります」


 幹人の説明は今適当にでっちあげた、特にゲーム史的に正しいものでもなんでもないものだが、ニュアンスは掴めてもらえたろうと思う。

 その証拠にとりあえず、国王の眉間から皺は消えたようだった。

 助かった、そう言うようにこちらの背中をパンと小さく照治が叩いた。


「なるほど、とにかくそういった代物は君達の理解の範疇に、元からあったわけだな。それは結構だ。だが、実際の攻略方法に関しては、何か考えはあるのか?」

「とにかく現地に行ってみないとどうとも言えませんが、やりようはあると思っています」

「ほう」


 照治の答えに、国王は少しだけその目を見張った。


「魔物も出るという話でしたが、それに関しては、」


 照治はそこまで言ってから、今度はザザへ視線を向けた。


「この通り、頼りになる者がいますので」

「……確かに、【血染め桜】がいるのなら大抵の敵はなんでもないな」


 国王にもザザの武名は届いているらしい。


「陛下の評価と仲間の信頼を裏切る事のないよう、全力を尽くします」

 落ち着いた様子でそう言い切るザザはやはり、とても頼もしかった。

「……ふむ、あのダンジョンの話を聞いて、ここまで冷静な顔をしているのは君たちが初めてだな」


 特段表情を緩めたりはしなかったが、国王はこちらへ賞賛の言葉をくれた。


「さすがは【賢人】。君たちオオヤマコウセンを呼んだのは、正解だったかな」


 賢人というのは、モニカが書いてくれた新聞記事の中で、オオヤマコウセンの人間を表す言葉として繰り返し使われたものだ。

 変人の間違いだろ……と誰もが苦笑したが、その実、誇らしい気持ちはもちろんあった。


「陛下が私たちにお声を掛けて下さったのは……、やはり、大精霊祭の評判からでしょうか」


 ザザが問うと、国王は首を横に振った。


「もちろんそれもあるが、より正確に言えば、君たちに目を付けていたのはもう少し早い。無制限依頼をこなし、特例により黄ランクで結成されたギルドがある……などという話を聞きつけてから注目していた」

「え、そんなに早く……?」


 思わずそう零してしまった幹人だが、国王は当然といった顔をしている。


「君たちのように黄ランク結成されたギルドは、とにかく特殊な事が多い。特殊であるという事は、他のギルドにはない何かを持っているという事を意味する。それは大きな価値だ。……そして案の定、君たちは他とは明らかに異質なギルドだった。確信したのは、ビラレッリ子爵の言った通り、大精霊祭だな」


 大精霊祭、オオヤマコウセンの戦い方といえばたしかに他とは大きく違っていた。

 召喚役サモナーが操るのは自作の精霊。さらに補助役サポーターはこれまた自作の魔導杖を構え、通常は実戦では使われないという星命魔法を撃ちまくる。


 極めつけに、相手の精霊の維持を強制解除する精霊殺しなんて奥の手も出した。

 他のギルドとは何もかもが違うスタイルだ。


「私は直接観に行けたわけではないが、部下に詳細な観察記録をつけてくるよう命じておいた。その報告を見て、思わざるをえなかった。この者たちなら、他のギルドが不可能だと匙を投げた事でも、こちらの常識を越えたやり方で何とか出来てしまうかもしれない、そんな風に。だから、こうして呼んだのだ」


 そうまで言ってくれた王だが、「とは言え」と注意を促す口調で続ける。


「くれぐれも気をつけるように。本当に、数多くの冒険者たちがあそこから帰ってこなかった。うちの執事……あの髭の男だ。彼に、あのダンジョンについて現在明らかになっている事をまとめた資料を作らせておいた。後で受け取り、よく確認しておいてくれ」

「わかりました」


 返事をした照治に、王はちらりとザザへ視線を投げてから言う。


「帰ってこなかった冒険者の中には、数字外れすら、何人か含まれている」

「……細心の注意を払います」


 なんだかんだ、あれだけ強いザザがいれば大丈夫……などと思ってはいけないのだ。国王の注意に照治が答えるのを聞きながら、幹人も改めて気を引き締めた。


「この依頼については昔から冒険者協会でも張り出してもらっている。そのため、君たち以外に攻略を行っている者がいれば鉢合わせる事もあるかもしれない…………まあ、それがまったくいなくなったから、こうして見込みのある君たちを遠くから呼んだわけだが」


 国王は首をすくめつつ、小さく頭を振った。


「こちらとしては、もし他の冒険者やギルドと鉢合わせても、妨害をし合ったりなどは避けて欲しいと願っている。依頼達成が遠のくだけだ」

「もし他と協力して依頼を達成した場合、報酬についてはどうなりますか?」

「君たちにも、共同攻略者にも、可能な限り望む報酬を取らせよう」


 照治の確認に、国王は太っ腹な返答だ。


「では最後に、その報酬の話だ。君たちの望みは、ジーリン・アッドクライムについての情報だったな」


 そう前置きし、こちらが少し前屈みになったのを見計らって、美しい国王は言い放った。





「私は彼女について、極めて決定的な情報を保有している。断言しよう、私以上の情報を持つ者は他にいない」


「……っ」


 幹人は思わず息を呑み、隣で照治は眼鏡の位置を直しながら、瞳の輝きを鋭くした。


「ダンジョン攻略、是非この依頼をこなしてくれる事を期待している」


「伯爵からお聞きしたところによると、『最下層へ到達し、そこにあるはずの宝物を持ち帰る事』、それが今回の依頼における、ダンジョン攻略の定義でしたね」

「そうだ。達成が確認出来なければ、悪いが報酬は渡せん」


 照治の確認に国王はそう答える。彼女の瞳にも声にも、揺れはまったく見られない。






 先ほどの言葉は、ハッタリや誇張などではなく、本当に真実なのか。

 だとすれば、元の世界へ戻るヒントを掴むため、この依頼は絶対にこなす必要があるだろう。

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