二章 どっちが俺たちの本領だ?

「美人の国王様か~、俺も見たかったなあ。いくつくらいの人だったんすか?」


 電気科二年生・井岡の言葉に、幹人は少し考えてから答える。


「ええっと、三十の半ばか、後半くらいかな? 四十には届いてないと思う」

「三十代半ばか後半! いいっすね! 俺のストライクゾーンど真ん中!」

「前から思ってたけど、ちょっと高めだよね、井岡の絶好球って」


「あのね雨ケ谷パイセン、それくらいの歳の女が一番、下着姿がエロいの。プロポーションってどうしてもその年齢になってくると少し崩れてくるじゃないすか、でもそこをぐぐっと下着で支える……あの絶妙なバランスが本当に最高なんすよ。あれは十代二十代の小娘には出せない特別な色香……。俺を惑わせる……」


 あとはぶっちゃけテクもあるしね! と、その整った顔に爽やかな笑みを乗せて井岡は言った。発言内容は割りとアレである。

 オオヤマコウセンというか、大山高専の中でおそらく最も女癖の悪い男、それが井岡だった。三十代半ばか後半がストライクゾーンとは言っているが、他の年代にもしっかりと手を出している。

 面倒くさい事になるから自身が所属するコミュニティの女性は誘わない、というポリシーを持っているらしい。なので、今のところ学校やロボ研では問題を引き起こしていないが、学外ではそれはそれは浮名を流しているとの事だ。


「お気楽にゴミクズみてえな会話してんのはいいけど、足下お留守にしてすっ転ぶんじゃないわよー」


 前を歩く横倉がそう言ってきて、幹人は返す言葉がなかった。

 今幹人たちは、王都から少し出たところにある、マヤシナという鬱蒼とした森の中にいる。ここは、例のダンジョンの入り口が存在する場所だ。

 なお、例のダンジョンはこの森の名前をそのまま付けて、マヤシナ・ダンジョンと呼ばれる事が多いようだった。


「いやいや横倉パイセン! これでもやる気満々ですからね、この井岡! イケてるとこ見せますよ!」

「はいはいそ~そ~期待してる期待してる」

「雨ケ谷パイセン、覚えておいて下さいね、こういう横倉パイセンみたいな一見あっさりさっぱりしたような女性ほど、付き合うと案外、べったべたに甘やかしてくれたりするんすよ。反面、変なとこで男に夢見がちだから割りとめんどくさい」


「井岡てめえそこそこ当たってる事言うんじゃねえよ! 色々古傷開くだろうが!」

「アーオ!」


 横倉がそのしなやかな脚で井岡の尻を蹴り上げた。楽しそうで大変結構だ。

 謁見の間から幹人たちが戻った後、オオヤマコウセン一同はダンジョン攻略中の滞在先となる宿に案内された。運営者は一般市民だが、運営費は国から多くを出資している半官半民のような施設らしい。

 そこに着替えなどの余計な荷物を置き、準備を整え、貰ったダンジョンについての資料を確認などしつつ時間を潰してから、せっかくなので十三人のフルメンバーで現地に向かう事となったのだ。


 人数が人数で、その人間たちの人格が人格なため、今の横倉と井岡のように、皆して騒がしくワイワイガヤガヤ進んでいる。


「しっかし、魔物が寄ってこねえかな。寝てるの起こしちゃったりして……」


 田川が少し心配そうに言った。

 今は朝よりもまだ夜に近い、暗闇が支配する時間帯である。

 なぜわざわざこんな時間に来たのかと言えば、マヤシナ・ダンジョンの内部構造が変化するのが、日の出と同じタイミングらしいからである。

 ともかく自分たちの眼で実際の様子を確認したいので、その前に来たのだ。


「なにより、こんなに明るくしてたら襲ってくれって言ってるようなもんだしなあ」


 再度、心配そうに零す田川。臆病なわけではないが、慎重なタイプなのだ。

 星明かりも届かないような木の密集度の高い森の中を夜に行くため、王都へ来る前から準備しておいた光を発する自作照明魔道具を使い、ガンガンに灯りを焚いている。

 たしかに普通なら、獣やら魔物やらをおびき寄せてしまうだろう。


「え、灯りもっと暗くした方が良いですか!? ピカピカさせ過ぎちゃいました!?」


 照明魔道具に魔力を送り込んでいるのは、頼れる我らが主電源、咲である。

 おかげで、地球でだだっぴろい公園などに設置してある業務用野外投光器ばりの光量が確保出来ている。


「いや、咲、今のままで構わん。だいたい、自分の頭が誰よりピカピカのくせして人の灯りに文句を付ける方が悪い。なんてモラルのないヤツだ」

「毛根がない? ひでえ事言いやがる!」


 照治の言葉に今日も切れ味の良い自虐ギャグを返し、田川は自らの禿頭をパチィンと叩いた。


「真面目な話、この森の中ではほとんど獣やら魔物やらは出ないらしいからそのままで大丈夫だよ。出たとしても、ザザもいるしテツさんもいるし、イヌちゃんとシキのコンビもいる」


 幹人がそう言うと、「なるほど! なら安心です!」と咲は力強く頷いて、若干光が強くなった。


 もちろん幹人も、護身用に杖を持ってきている。他のメンバーも同様だ。

 今回用意したのは汎用魔導杖ver1.0という、ついに試作の冠が取れたバージョンのものである。杖全体の長さがぐっと短くなり、魔法を出力するユニットなどを収めた箱もかなり小型化された。


 さらに、大精霊祭で幹人の使用した後方支援特化型固定魔導杖の、精霊聖水薬莢カートリッジシステムを搭載する事にも成功している。おかげで全員、回数は限られるが、本来なら撃てないはずの強力な魔法を撃つことも出来る。

 足元に注意しながらそのまま皆で歩く事、しばらく。


「……止まれ、あったぞ。こいつがダンジョンの入り口か、聞いてた通りの形状だ」


 先頭をザザと歩いていた照治が、さっと手を挙げた。


「どれどれ……おお~!」「おもしれ~な~」「シュールっちゃシュール」


 わらわらと皆が見に行き、口々に感想を述べている。もちろん幹人も駆け寄って、それを見た。




「おお~……」 


 地下ダンジョンへの入口、それは金属製の扉だった。草の生えた地面に直接、横たわるようにして取り付けられている。普段なかなか見る事のない光景で、誰かが言ったように、シュールと言えばシュールだ。


「……よし、開けてみるか」


 照治がそう言えば、巨漢・鉢形がその両開きの扉を取っ手を掴んで開きにかかる。


「……なかなか重いな、…………フッ!」


 まるで背中が膨らんだと錯覚をしてしまうほど、鉢形の筋肉が盛り上がる。

 そしてやがて、ゴゴゴゴと重い音をたて、ゆっくりとそのダンジョンは閉ざしていた口を開けていく。

 扉がある程度開いたタイミングで、鉢形は取っ手から手を放した。あとは重力に引かれ、扉は全開状態となる。

 扉の奥には、銀色に輝く素材で出来た階段が伸びていた。


「……普通のダンジョンでは、入り口に看板や扉を付けたり、入りやすいよう階段やはしごを付けたりと、冒険者協会や国がある程度は整備します。ここも、この扉についてはそうらしいですね。扉に王室の紋章が入ってますので、国が取り付けたのでしょう」


 静かに言葉を発し始めたのはザザだ。凄腕の冒険者である彼女は、他のダンジョンに潜った経験も何度かあるらしい。


「ただ、陛下から頂いた資料によれば、この階段は違うんですよね……。ダンジョンが発見された当初から、すでに作られていた。どころか、このダンジョンでは階層と階層の間に、同じような階段が同じようにきちんと作られている、みたいです。協会が作ったわけでも、国が作ったわけでもない階段が」


「ザザ、ダンジョンってだいたいが魔物の巣なんでしょ? 一応の確認だけど、魔物がご丁寧に階段付けてくれる事ってある?」

「まさか。少なくとも、私が潜ってきたものにはそんなのありえませんでした」


 幹人の問いに、当然ザザは首を振った。


「なんにせ、普通のダンジョンと同じように考えるのは危険だろうな。とにかくまずは中へ……入る前に、時間は大丈夫か?」


 階段に脚を掛けた照治が、一旦止まって振り返って問えば、魅依が答えた。


「え、ええと、日の出まで、あと二時間くらいは、あります、ね」


 彼女はその手にオオヤマコウセン謹製の、異世界時間調整済み時計を持っている。

 こちらの一日は地球の一日と長さが違うので、幹人たちが元から持っていた時計ではズレてしまって時刻がわからない。

 そのため、この異世界の一日である二十一時間と五十七分で二十四時間となるように、一時間の長さを短く調整した時計を、照明魔道具と同じく王都へ来る前に作っておいたのだ。


 日の出の時間もデータとして入力してあり、時計には現在時刻とともに、残り時間が表示される。

 ちなみに外見は懐中時計に似せているが、時刻表示は針ではなく、星命魔法の光によるデジタル式だ。


「一日が短い、こちらの二時間なので、地球の二時間よりは、少し短いですが……」

「だが、とりあえずそれくらいありゃ、日の出と同時に起こるらしい内部構造の再構築までに、少しは中を探索出来るだろう。……では、第一陣のメンバーでダンジョン内に入るぞ! 他は不測の事態に備えて待機しつつ、周囲の状況を調べておいてくれ」


 事前に決めておいた第一陣メンバーは、リーダーの照治と最高戦力のザザ、度胸に優れ戦闘慣れしている犬塚、同じく戦闘経験が多く他の面子より魔法が得意な幹人、そして観察力にも富む才媛・魅依だ。




「よっしゃあ、行くぞシキ!」


 手早く犬塚が相棒である蜘蛛型フォルムの高専式精霊・シキを召喚した。もはや犬塚は立派に、とても頼りになる精霊魔法使いだ。一行のメイン戦力の一角である。

 シキを先頭に、幹人たち五人は残りのメンバーに見送られながら慎重にダンジョン内部へと入っていった。

 階段の感触は硬質で、少し摩擦が小さい。滑ってしまうほどではないが、ぼうっとしていたら危ないかもしれない。


 やがて、さほど長くない階段が終わる。


 現れた光景は、まずはひたすらまっすぐな通路だった。幅、高さともに五メートルほどか。五人が横一列に並んで歩けるくらいの広さだ。





「……おお、…………美しいな…………ああ、美しい」

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