中が明らかになった謁見の間は、やたらと天井が高かった。天井には何かしらの絵が描かれているようだ。雅だが、威圧感がある。


 部屋の四隅の豪奢な柱も、入り口から奥へとまっすぐ伸びる赤い絨毯も超高級な雰囲気満載で、幹人のような庶民派の人間にはとかく圧が強い。


 そして絨毯の先、部屋の一番奥。


 数段高くなったその場所には王家の紋様らしきものの描かれた巨大な旗と、遠目からでも精緻な意匠が多数施されているとはっきりわかる、見事な王座がある。


 王座には既に、その人が座っていた。

 開いた扉の前、入室の挨拶をしようとする幹人たちへ、彼女は言葉を飛ばしてきた。


「よく来てくれた。ああ、大仰な挨拶はいらん。時間の無駄だ」

 鋭い刃、そんなイメージの声だった。ハキハキと滑舌が良く、テンポも早く、言葉選びに躊躇いがない。


(……あの人が、国王)


 金色の豊かな髪は、ゆるくウェーブしている。まっすぐこちらを射貫く瞳は、髪と同じく鮮やかな金色。

 着込んだ服は、街や王宮と同じく、金と白を基調とした煌びやかなカラーリング。

 だがそれは柔らかで艶やかなドレスなどではなく、硬く強靱な質感の軍服と言ったフォルムのものだ。

 首元までぴっちり閉められた詰め襟の上着、下半身はスカートではなくパンツスタイル、ごつくて深いブーツ付き。


(……女王様っていうか、女将軍って感じだ)


 それが幹人の正直な感想である――ただし、とびきりの美人という注釈は付くが。


「さっさと部屋に入ってきてくれ、可及的速やかに本題へ移りたい」

「わかりました、では失礼して」


 国王の鎮座する謁見の間という、畏れ多さ満載の空間へわずかの躊躇もなく、ズカズカと大股で入っていったのはやはりというべきか、照治である。

 それを見て、国王は本当にまったく気分を害していないようだった。むしろ、「うむ、話が早くて助かる」などと呟いている。


(……ザザが国王様と照兄が似てるって言ってたの、こういう意味か~)


 徹底した合理主義者。

 そんな一面において、たしかに二人は同種の人間だ。


《ザザの言うとおりだね、たしかに似てるわ》


 照治の後に続きながらザザに想話で伝えると、彼女は少し笑って頷いた。

 ちなみに想話は、このようにザザたちこの世界の人間にも伝える事は出来る。ただ、彼らから発信する事が出来ないのだ。あくまで幹人地球出身者→ザザたちこの世界の人間、という一方通行である。

 ザザにはかなりの時間を掛けてレクチャーしたのだが、結局モノにはしてもらえなかったので、何か原理的な無理があるのだろうか。

 なんて事を緊張を紛らわすために考えながら少し歩けば、すぐに王座の前にたどり着いた。


「さて、私がウィルエスオン国現国王、ルキシロナ・ウィルエスオンだ。一応確認するが、君たちがオオヤマコウセンだな?」


 幹人たちへ、国王はすぐさまそう言った。

 ザザに聞いた礼儀作法では、こちらは片膝を突き顔を伏せて話すべきなはずだが、照治は突っ立ったまま返答する。この相手にはその方が良いと判断したのだろう。


「はい。自分が代表の中久喜照治です。中久喜がファミリーネーム、照治がファーストネームになります。後ろにいるのはメンバーの雨ケ谷幹人」


 照治に合わせ立ったままだが、さすがに会釈も何もなしというのはまずい気がして、一応幹人はその場で頭を下げておいた。


「それから、ご存じでしょうが、ザザ・ビラレッリです」


 ザザも立ったまま、一礼。堂に入った仕草は、さすが場慣れした貴族である。


「うむ。久しいな、ビラレッリ子爵。君がギルドに入ったとは驚いた」

「お久しぶりです、陛下。得がたい縁に恵まれました」

「そうか。なら良し。では君たちへの依頼について詳しく話そう。コンコーネ伯爵からある程度は聞いているな?」


 世間話などろくになし、本当にすごいテンポ感である。しかしやはりと言うべきだろう、照治はまったく面食らう事なく付いていく。


「はい。なんでも、――攻略して欲しいダンジョンがあると」

「そうだ。加えて言うなら、とびきり厄介なヤツをな」


 ダンジョン。ファンタジー感溢れに溢れたその言葉を伯爵から聞いたとき、地球出身の面子は揃って、ずいぶんテンションの上がったものだ。







『難攻不落の特別なダンジョンを攻略して欲しい』




 それが国王からの依頼だった。



「王都からポッロ車で少し行った先の森の中に、それへの入り口はある。地下ダンジョンだ」


 この世界でいうところのダンジョンは主に、洞窟や地下などに魔物が作った巨大な巣を指す。


「だが、普通のダンジョンとは、あそこは明らかに違う。今まで数多の冒険者たちが挑戦してはいったものの、誰もがさじを投げた。攻略は、未だに成されていない。その理由についても聞いているな?」

「はい」


 国王の問いに照治は頷いて、伯爵から貰っていた情報を口にする。

 それは、強い魔物がいるだとかそんな理由ではなくて。


「そのダンジョンは、元から複雑な上に、内部の構造がなぜか、一日ごとにまったく違ったものへと変化する、と。加えて方位磁針も正常に働かない。だからマップがまともに作れず、誰も彼も迷ってしまう」

「情報は正確に伝わっているようだな、その通りだ」


 頷き、国王は「本当に厄介なのだ」と接ぎ穂を当てて続ける。


「そもそも、複雑な構造であるというのに方位磁針が使えない時点で非常に厳しい。入り組んだ道の中を、魔物にも襲われながら進むとなれば、どんな人間でも次第に、自分がどちらから来たのか、今どちらを向いているのかなど曖昧になっていく」


 たしかにそれはそうだ。幹人は元から方向感覚に自信がないタイプなので、すぐに何もわからなくなるだろう。


「そんな困難な状況へ、どれだけ先人が果敢に挑戦を繰り返し、必死の思いで中を探って地図を作っても、日を跨げばその成果は全て無に帰す。そんな理不尽な話があるか?」

「たしかに、そう聞くと実に凶悪ですね」


 照治が相槌を打つと、王も頷く。


「ああ。どんなに強く旅慣れた冒険者でも、自分の位置も進む道もわからなくなってしまえば、もはや無力な迷子でしかない。私が知る限りあそこは、性質の悪さで言えば史上最高だろう。……さて、それでだ」


 ここからが本題だ、と言わんばかりにいっそう瞳の鋭さを増して、国王はこちらを見やった。


「どうだ? こんな話、さぞかし当惑しているとは思う。本当にわけのわからん場所だからな、あそこは。……聞きたいのは、君たちの手に負えそうかどうかだ。本当に厄介な依頼をしているという自覚はこちらにもある、無理そうならば断ってくれて構わん」


 たしかに。

 たしかに、厄介ではある。厄介ではあるのだが。


「……陛下。……あー、なんというかですね、自分たちにとっては……その」





 照治が少し歯切れの悪い口調で言う。


「そういったダンジョンは、…………馴染みがないわけではないんです」

「……なに?」


 国王は訝しげな声を上げた。


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