「ここが王都か~! ……すっげえ綺麗な街だ」


 オオヤマコウセン、一時間半ほどの道のりを経て、無事に目的地へ到着。

 ポッロ車から降り、門をくぐって足を踏み入れたその街の姿に、思わず幹人はそう零していた。

 目に入るどの建物も白を基調とした上品な色合いに統一され、ところどころが金や銀に輝く細やかな装飾で彩られている。一つ一つが雅やかだ。

 建物の並び方も、ブレイディアやウルテラなどにあった雑然とした雰囲気がなく、どこかピシリ、整然としている。

 これが王都の風格だろうか。


「ええ、ここが我がウィルエスオン王国の王都・パイロスタッフです。お気に召しましたか?」


 吹いた風に揺れる髪を抑えながら、隣でザザがそう言った。


「綺麗、ほんとに綺麗。もはやなんか綺麗すぎて、ちょっと落ち着かない。ブレイディアくらいのごちゃごちゃした感じが性に合ってるのかも」

「そうですか、ふふ」


 ザザは楽しそうに、ころころと微笑んだ。年相応の少女の笑顔だ。それでいて、匂い立つような色香を放つ美女の笑顔でもある。

 ポッロ車での道中もずっと、ザザは楽しそうにこんな顔を何度も見せてくれた。

 その度に、幹人は心を奪われたような感覚を味わい、同時に心臓を鷲づかみにされたような気持ちになった。


「で、あそこに見えるのが王宮?」

「そうです」


 入り口の門から伸びる大通り、それが行き着いた先には一際どでかい建物がある。高さよりも横幅の目立つフォルムは美しい装飾で彩られ、豪華で太い柱や美しい半円状の窓などが目に惹く。

 幹人の眼には、城というよりは豪華な美術館なんかに似ているように見える。写真で見た事のある、メトロポリタン美術館あたりと近い気がする。


「すご~い、ほんとに綺麗な街! 写真撮りたーい! …………あ、ところであそこにあるのはご飯屋さんでは? こんな綺麗な街なのだからさぞかしとっても美味しい名物とかがあるのでは?」


 私たちはそれを食べなければいけないのでは? などと、咲がお腹が抑えながらそんな事を言いだした。

 相変わらず食い意地の張った妹である。


「もちろん、色々美味しいのがあるよ。あとね、この王都・パイロスタッフは結構、甘いものが有名」

「え~! やった~!」


 ザザと咲はそのままスイーツ談義に花を咲かせ始めた。


「……ええと、こ、このまま、街の入り口で、待ってれば、迎えが来てくれる、んだよね?」

「うん、そのはず。みぃちゃん先輩もお腹減った?」


 声を掛けてきた魅依にそう返すと、彼女は少し恥ずかしそうにはにかんで頷いた。


「ちょ、ちょっと減ったかな。みき君は?」

「俺も。正直、王様に会う前に腹ごしらえさせて欲しいな~」


 謁見中にお腹が鳴ったら不敬だろうか。


「他の皆はどうだろ。てかイヌちゃんとか車酔い大丈夫だったのかな」


 そう言いながら周りを見渡し、一号車や三号車に乗った他の面子を確認。


(ああ、まあ、そうだよね……)


 すると、皆が皆、こちらをちらちら気にしている様子が目に入ってしまった。



《雨ケ谷パイセーン……! どうだったんすか! 修羅馬車!》

《なんか普通の雰囲気ですけど色々と様々なアレやコレやが起きたりしなかったんすか!?》


 井岡と島田の二年生コンビなど、わざわざ想話を飛ばしてきた。《起きてない起きてない、普通だったよ》と同じく想話で返すと「そんな馬鹿な……」などと呟いているようだが、そう言われても困る。

 実際、何も起きてないのだ。普通に車旅を楽しんだだけである。


「…………」


 それが良いのか、悪いのか。幹人にはどちらとも言えなかった。



『わ、私と、……その、…………結婚とか、どうですか!』



 脳裏に思い返される、あの夜の彼女の言葉。

 その顔の赤さも吐息の熱さも、こちらを射貫く翡翠の瞳の鮮やかさも、はっきりと覚えている。

 そんな彼女に自分がどんな返答をしたのかも、もちろん覚えている。


「……みき君?」

「……ああ、いや」


 黙り込んだこちらに、魅依が心配そうな目を向けてくれる。

 だが、今は彼女へ返せる言葉を、幹人は持っていない。


「なんでもないよ」

「……そっか」


 そんな話をしていると、王宮へと伸びる大通りの先から、街乗り用ポッロ車の一団がやってくるのが見えた。

 ほどなくしてこちらに辿り着いたそれは、やはり王からの迎えだったらしい。


「お待たせ致しました、オオヤマコウセンの皆様ですね?」


 ポッロ車から降りてきた、豊かな髭を蓄えたダンディーな男性がそう言ってこちらへ一礼。華麗な仕草だ。


「王宮へとご案内致します、さあ、どうぞお乗り下さい。足下お気を付けて」

 彼に促され、幹人たちはポッロ車に乗り込む。さすが王宮の所有物という事なんだろう、豪華な外見だ。

 早くも少し緊張してきた。


「……さすが、伯爵の紹介だと扱いが良いね」


 こそっと言うと、魅依も小さく困ったように笑った。


「そ、そうだね……なんだか、いいのかな、こんな手厚く……」

「ね。こりゃもしかして、結構期待とかされちゃってるのかな」


 応えられればいいのだが、さてどうか。






「皆様、この部屋にお願い致します」


 王宮に辿り着き、ダンディーな髭男性に案内されるがまま、幹人たちは庶民らしく若干気圧されながら、華やかなエントランスホールを過ぎる。

 そして通されたのは、待合室のような部屋だった。

 オオヤマコウセンメンバー十三人がゆっくり出来る大きさ、そして置かれた調度品はどれも美しい。とにかく高級そうな部屋だ。


「では、少々お待ち下さい」

 そう言ってダンディーな髭男性は優雅な身のこなしで一旦、部屋から去って行った。


「ん、……この革表面のエンボス加工、いいねえ! エッジがくっきり! どうやって作ってんだ?」「お、ほんとだ! やっぱ魔法じゃね? 魔法って加工・形成作業に最高に便利だよなあ」「あ、これこれこっち見ろよ、この鏡面仕上げの美しさ! これはいい! は~ん!」


 部屋に揃った調度品の出来映えに、ついつい上がる一同のテンション。

 一応、高そうなものには無闇に触らないというギリギリの自制心だけはあるが、それもいつまで保つものか。


「ところで照兄、今更なんだけど、マジで良かったのかな、王宮にツナギで来ちゃって……。一応綺麗に洗ったけどさ……」


 深いブルーの大山高専ロボ研部オフィシャルツナギ、自分の着込んだそれを見ながら幹人が言うと、照治は眉をつり上げた。


「なにぃ? 幹人お前馬鹿野郎!」

「でもさー、ここ王宮だよ? 王様に会うんだよ?」

「だからだ! 王に会うんだ、正装で行くのがマナーだろうが! 正装とはなんだ? 自分たちにとって最も誇らしい服装だろうが! 俺たちにとって最も誇らしい服装とはなんだ? それはこれ! そう! ツナギだろうが!」

「そう言われると正しい気がする……? かも……?」


 何か強引な論理飛躍を見逃しているような気もするが、照治の熱量に押し切られてしまった。


「あとは礼儀作法とか、一応ザザに軽く教えてもらったけど……俺たち、あれで大丈夫そう?」


 そう言ってザザを見ると、彼女はコクリと頷いた。


「はい。現国王様は礼儀に厳しいタイプでもありませんし。というか、そういう事にはかなり無頓着な方です」

「そうなんだ。豪快な方?」

「いえ、なんというか…………ああ、少しテルジさんに近いかもしれません」

「……照兄に? え、照兄に?」


 思わず二度聞き返すと、「ええと、なんというか……」と少し言葉に迷っているようだった。

 ザザが再度口を開く前に、部屋の扉が開いた。ダンディーな髭男性が戻って来たようだ。


「お待たせ致しました。……せっかくこうして皆様にお越し頂いたというのに大変失礼なのですが、謁見は代表の方三名様だけ、という事でよろしいでしょうか? 他の方々は引き続きこの部屋でどうかごゆるりと。お食事もお運び致します」

「わかりました、たしかに全員でゾロゾロ行っても無駄ですね。では……」


 髭男性の言葉に立ち上がったのは当然、オオヤマコウセンのギルドマスターである照治。すぐさま彼は、幹人の方へ人差し指をクイクイっと招く仕草をした。


「幹人、一緒に来てくれ。俺がなんかやらかしそうになったらフォローを頼む」

「オッケー」

「あと一人か……そうだな、ザザ、頼めるか」


 照治に指名されたザザはコクリと頷く。彼女は、昔パーティで会った程度らしいが、それでも唯一国王と面識のある人間だ。妥当な人選だろう。


「よし、じゃあ行くか。この三人でお願いします」

「かしこまりました。では、ご案内致します」


 男性の後をついて、照治、ザザ、そして幹人の三人で部屋を出て、廊下を行く。廊下には大きく透明度の高い窓ガラスが輝いており、思わず目を惹かれてしまう。

 ガラスはよく見れば一枚一枚に細かい紋様まで浮かんだ仕様で、見事の一言。実に加工法の気になる美しさだ。


「こちらへ、謁見の間にございます」




 やがて辿り着いたのは高さ三メートル以上はありそうな、観音開きの巨大な扉の前。


「ん、自動で開いた? ほう……」


 照治が興味深そうに呟いたように、扉はひとりでに内側へ開いた。誰かが魔法で動かしたのか、それとも魔道具によるものか。

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