異世界生活31日目夜、ビラレッリ邸にて



「ちょっと俺の話を聞いてくれよ幹人。いや、常々思っていたんだがな」

「なにさ急に」


 夜の帳が降りて久しい時刻、作業部屋で杖の開発に精を出していると照治から唐突な前置きが飛んできた。戸惑う幹人へ、兄貴分はまあ聞けと言うように手をかざしてから続ける。


「こうして現実に魔法と向き合っているわけだが、俺たちの慣れ親しんでいるフィクションに出てきた魔法というのは二種類に大別出来ると思うんだ。文系魔法と理系魔法にな」

「なんだその面白そうな話は」

 

 なかなかにキャッチャーなフレーズに幹人の作業の手は一旦止まり、姿勢は前のめりになった。


「だろう?」

「文系と理系って言うけど分け方大雑把過ぎる、そもそも理系って言う括りが不適切なんだよなー分野によって全然違うから……とか言い出す面倒くさい奴が出てくるだろう事まで含めて面白い」

「俺たちみたいな、な」

「そうそう、俺たちみたいな」


 二人揃ってはっはっはっはとなんとなく笑ってから、照治は話の中身を披露し始めた。


「でな、まず文系魔法だ。伝統的や古典的な作品に多いこれは、ある魔法を唱えたらある現象が起きるというのが、それ以上掘り下げようのない事実として存在しているタイプのものだ。作品がそういう世界観であるとも言える。このタイプの魔法が出てくる代表例は、ハ◯ー・ポッターシリーズ」


「あー、咲が大好きな」


 世界的に有名な長編小説で、長きに渡ってハイクオリティに映画化もされている超人気作だ。咲が大変お気に召していて、彼女がもっと小さかった頃はよくごっこ遊びに付き合ったものだ。


「だったな。で、あれにはだ、花を咲かせる魔法とか、相手を服従させる魔法とか、なめくじ吐かせる魔法なんてのもあったろ? だけど、それらについて、どうやってその現象が起きるのかというのはあまり掘り下げて説明はされない。吐き出すなめくじはその場で生成されているのか、それともどこからか転移されてきているのか、とか、そんな事はあの世界の人物たちにとって話し合う事柄じゃないんだ。良い悪いではなく、スタンスの問題として」


「そうだね、そうだ」


 ちなみに、映画版を観ながら色んなシーンの色んな魔法について逐一あれはどうなってるんだろうと考えていたら、咲にすこぶる引かれた覚えが幹人にはある。


「だろ? ああいう作品の世界観においては、その魔法を唱えたという事そのものが現象が起こる根拠になるんだと思う。魔法を唱えた、それが現象の発現をそのまま意味するんだ。理屈じゃなくて、そういう魔法を唱えたからという文脈で発現するわけだな。だから文脈発現系魔法の略で文系魔法」


「ふんふん、なるほどなーるほど……。光魔法を唱えれば明かりが灯る、風魔法を唱えれば風が起こる……なんで? とか言う話じゃなくて、それはそういうもんだから」


「そうそう、そういうもんだから。繰り返すが良いとか悪いとかじゃなく、ただスタンスの問題だな。対して、理系魔法はどうか。こっちは現代のオタク的作品に多いかもしれん。代表例は俺たちの大好きなアレだ」


「あ、ラジつば? この世で一番可愛いでお馴染みの樽喜まゆらが主演の」

「そう、魔性少女ラジカルつばき。お前の愛するまゆらんが主演の」


 魔法少女ラジカルつばきは、オタクならば知らない者はいないであろうというほどの人気を誇る金字塔的アニメである。

 女の子が魔法と出会って事件に巻き込まれていくというオーソドックスな魔法少女のスタイルを踏襲しつつも、ハードでヘビーなストーリー展開、そして魔法や機械仕掛けの杖についての重厚で緻密な裏設定の存在がそれまでの作品と一線を画し、細かい事にうるさいタイプのオタクの心を鷲掴みにしている。


「あー、ラジつばの魔法って、いわゆる古典的な魔法少女のほんわかメルヘンな、つまり照兄が言うところの文系魔法ってんじゃないね、確かに。そうじゃなくて、もっとシビアな、人間が扱える万能エネルギーである魔力の利用法って感じ?」


「そうそう! ラジつばみたいな現代の深夜アニメ文化的な作品における魔法っていうのは、魔力という万能エネルギーを何らかの形や違うエネルギーに変換する事を指す。例えば風魔法であれば、文系魔法みたいに『魔法を唱えたから風が起こる、なぜとかじゃなくてそうなってる』っていうんじゃなく、魔力を空気が動くための運動エネルギーに変換し、付与するから風が起こるわけだ。風が吹く現象という結果の前に過程があり、そのための理屈がある」


 彼が言う事を自分なりに理解して、幹人はまとめるように言う。


「魔法を唱えれば現象という結果そのものが出てくる文系魔法に対して、万能エネルギーである魔力を使って現象を起こすための過程を作り出す。魔法で作る過程と、結果である現象の間には理屈があって、だから理系魔法?」


「そうだ! 理屈を介して発現する理屈発現系魔法、縮めて理系魔法な」

「ほっほー、なるほど……文脈発現系に理屈発現系、文系魔法理系魔法、うまくまとめたもんだなあ」


 改めて考えてみるとなかなか面白い話だった。こんな風にやたらと細かく考察するというのは、いつやっても楽しい。


「この世界の魔法は多分、理系魔法だよね? 前にもちょっとそんな話はした気がするけど、俺たちの科学的な思考が通じるから」


「そうだな、だと思う。ただ、完全に理系魔法かっていうとどうだろうな。そもそも文系魔法か理系魔法っていうのはグラデーションであって、はっきりどっちってわかれるもんでもない気もするんだ」


 照治の口調は滑らかで鮮やか、本当に以前からこれらについて考えていたのだろう事が窺える。彼はくいっと眼鏡の位置を直しつつ、言葉を続けた。


「文系魔法がメインのハ◯ー・ポッターにだってもちろん、理屈や原理の説明が皆無なわけではないし、理系魔法がメインのラジつばにも、願いが叶うみたいな文系魔法的要素はあった。そもそも理系魔法だって突き詰めていけば結局『なぜとかじゃなくてそうなってる』部分はある。だから、傾向としてどっち寄りかってだけの話だ」


「ふむふむ」


「……ちなみにこの話、咲にはあいつがハ◯ー・ポッターの話題を出してきた時にした事があるんだが、『照兄の話はいっつも呪文みたい……』って言われた。……あ、呪文と魔法の違いってなんだと思う!?」


「照兄はめげないよね」


 異世界に来ようが兄貴分は相変わらずで、なんだか安心するなと思う幹人だった。

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