1巻 エピローグ

「結成申請と話は前後しますけれど、前例はありますし、いいでしょう。……それではこの度の無制限依頼達成、お疲れ様でした! ギルド・オオヤマコウセンさん!」


 パチパチパチとリュッセリアが拍手をすれば、他の職員たちも、その場に居合わせた冒険者たちも同じように手を叩いてくれる。


「まさか兄ちゃんたちがねえ……いや、俺の眼も悪くなったもんだ」

「恐縮です、どうも」


 パンと笑顔で背中を叩いてきた、顔に皺はあるが大柄で筋肉質な男性冒険者と照治は微笑を浮かべて握手を交わす。

 幹人の記憶が正しければ、男性冒険者は一番最初にこの冒険者協会支部に訪れた際に居た、幹人たちの冒険者登録に兎討伐という条件を提案してきた彼である。


「覚えておくぜ、お前たちのギルド。オオヤマコウセンだったな、共同でなんかやる事あったらよろしく頼むぜ」

「こちらこそ、勉強させていただきます」

「はっはっは、なんだ謙虚じゃねえか! 一等級の、それもあの厄介だっつうフォスキアを狩ったんだぞ、もっと偉ぶれよ!」


 一旦、ザザの屋敷で塚崎たちが作っておいてくれた夕食を貪るように食べ、やってきたのは依頼達成報告だ。

 戦闘に参加した六人で協会支部の建物を訪れるなり飛んできたリュッセリアへ、指定されていたフォスキアのいくつかの部位を見せると彼女はその場にへたり込んで、しばらく立ってくれなかった。


 その後、あなたたちは本当に無茶な事をしたんですよというお小言をたっぷり頂いた後、幹人たちの功績は正式に認められる運びとなった。

 今回の戦闘参加メンバーに関しては五等冒険者の位が与えられ、元々五等を持っていた幹人には四等へのスピード昇格が認められている。


「ギルドランクはまだまだ黄色ですから。新米ですよ」

「そりゃ新米さ、だが普通は赤なところを特例で黄ランク結成だ。珍しい事だぜ」


 代表者として堂々と振る舞いつつも謙遜する照治へ、男性はそう言った。

 冒険者ランクと同じく、複数の冒険者で結成されるギルドにもランクが存在する。上から順に金・銀・銅・紫・青・緑・黄・赤の八等級だ。

 通常ではもちろん新設ギルドは赤からのスタートなのだが、幹人たちの場合、無期限依頼を冒険者一人とそれ未満の集団で達成してから、その報告と同時にギルド新設申請をした形となる。そういった時、その功績を鑑みて赤からではなく特別に次の黄からのスタートとなるらしい。


「なあ、お前も認めてやったらどうだ? 大したもんだろ、この兄ちゃんたち」

「……ふん」


 部屋の隅に座り、そっぽを向いていた女性がそう言われてこちらを向いた。もう何度目の遭遇か、あの美人だが口の悪い金髪の女冒険者である。


「……まー、一応、……あんだよ、……最低限! 最低限ではあるみてえだな!」

「そうかどうもありがとうようれしいね」

「んだテメエその言い方ァ! 褒めてやってんだろが!」


 完全に棒読みで返した照治にガァっと牙を向く女性。やがていつものように言い争いに発展し、友好関係の始まりとはならなさそうだった。


 ともあれ、ギルド・オオヤマコウセン。中々の好発進ではあった。

 幹人たちがこの異世界にやってきて、もう四十日以上が経過している。その間、一つ目の熊に凶暴な兎、巨大な蜥蜴とやりあって、その全てで危うく死にかけた。


 おまけにあれだけ力を入れて準備してきたロボコペには出られず、こうしている間にも学校では講義がどんどん進んで、順調に今期の単位は取得不可能に近づいている。

 碌な状況ではないというのは否定のまったくできない事実である。

 とにかく大目標はもちろん、元の世界への帰還。小目標はそのために知識と技術、資材と情報を蓄える事。


(だけど……)


 頭に浮かぶ、桜髪の女の子。それから、まだまだひどく興味深い魔法と魔道具。

 異世界に来る羽目になって、碌な状況ではない事は確かだけれど、悪いことばかりでもない。

 せっかくだから、楽しめるだけは楽しもうと、そんな風に思えた。


 ◇◆◇


「よおし! 電流帰還バイアス回路ごっこしようぜ! 俺、安定抵抗な!」「あ、ずりいよおお! えー、じゃあ俺、ベース電流!」「んじゃ俺がトランジスタな!」「僕、バイアス電圧!」「俺、変化する温度!」


 正気である。狂気じみた会話に聞こえるかもしれないが、本人たちは純粋に楽しんでいるに違いないのだ。照治を中心にわいわいと盛り上がり、男子部員たちは手を繋いで何やら始めた。


(あ、いいな……)


 ルールはまったくわからないが彼らは盛り上がっていて、なにより幹人と手を繋げるかもしれない。ああ、自分も混ざれば良かった。

 そんな風に思い悩むが、さすがにあの男子特有のテンションに飛び込んでいくのは憚られた。


「みぃちゃん頼むよ! ほんとにね! 測量器具!」

「え、あ、はい!」


 隣に座る建築科五年女子である先輩、横倉から力のこもった言葉が飛んで、しっかり魅依は頷きを返した。


 冒険者協会支部から帰ってきて、既に摂っていた夕食とは別の、改めての打ち上げである。十代男子がメンバーの大半で、さっき食べたばかりだというのに露店で買い込んだカロリーの高そうな食料が食堂の机には並んでいる。

 食の細い魅依はあまり食べ物を口に入れる事はないが、それでもこの明るく染まった空気がとても心地よかった。それだけでお腹いっぱいと言ってもいい。


「これ美味しい! ザザさん、これなんですか!」

「あ、これはね……」


 横倉と反対側、魅依のすぐ隣には咲が居て、さらにその隣にはザザが居る。二人は仲良くあれこれ甘味を食べながら、仲睦まじくしている。兄である幹人に取り持ってもらうまでもなく、咲はザザへ自分から話しかけて、改めて友好な関係を築き直していた。

 その姿は、自分なんかよりも遥かに大人だと感じてしまった魅依である。


「お兄ちゃんにもあげてきます! そして褒められてきます! 撫でられたぁい!」


 言うなり機敏な動きで椅子を降り、食べていた甘味を手に咲は幹人の下へ向かった。


「……本当に、サキはミキヒトさんが大好きですね」

「う、うん。……ものすごく、仲、良くて」


 ザザが声を掛けてきてくれて、そう言えばこうして一対一のような形で話すのは初めてだなと思い至る。


「ですよね。でも、その気持ち、わかります。ミキヒトさんってなんか……暖かくて」

「……うん、すごく」

「はい。それで、だから……甘えたく、なる」


 小さく、そう呟く声。

 ちらりと横目で伺えば、桜色の幻想的な髪の映える、輝くような美しい少女。彼女の翡翠色の瞳には、確かに熱があるように見えた。


 ああ、こうなるよなあ。それが、正直な感想だ。

 予感はあったし、予想もしていた。


 咲から甘味を受け取った幹人はそれを口に放り込み、笑顔で妹の頭を撫でながらザザへと手を振った。ザザもそれに応えて同じ仕草を返す。

 異世界に来て、優しくて繊細で美しい少女と出会う男の子。

 お互いに命と心を救い合って、そうしたらそれは、惹かれ合いもするだろう。


(……それは、そうだよね)


 当たり前過ぎる展開で、そこに元からそばに居ただけの女の出番はなさそうだ。

 わかっている。勝算はどうにも薄いだろうという事はわかっている。今、隣に居る少女と競って、勝てるところなんてろくにない事はわかっている。


(……ああ、絶対無理だな)


 本当に、思う。心から、思う。


(絶対、絶対無理……)


 そう、絶対に。魅依は、はっきりと思う。


(絶対無理だ、……諦めるなんて)


 知るものか。異世界が、なんだ。

 居る世界がどこになっても、そこで絵に描いたような美少女と彼が仲良くなっても、それでもやっぱり惹かれ続けるに決まっている。


 度胸もなくコミュ力もなく経験もなく手練手管もない自分という女に、もし恋愛において強みがあるとしたら、それはたった一つ。



 この馬鹿みたいな、諦めの悪さだけだ。



   ~Fin~

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お読みいただき、ありがとうございました!


12月28日(水)発売

『俺たちは異世界に行ったらまず真っ先に物理法則を確認する』


閏月戈先生がイラストを手がける本作も、ぜひ手にとってもらえると嬉しいです!

ファミ通文庫公式HP⇒ http://fbonline.jp/

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