第2話 おバカたんな騒ぎ屋『烈』
夏も終わりに近づいてきたこの時期。まだまだ半袖コートでいられるだけの気温だが、そろそろ本格的に『特星エリア』の奥地で宝集めをするべきだろう。夏休み50周年記念騒動の何日かあとにお宝集めを1度しているが、あくまでその場しのぎでしかない。なんせ夏は暑いからな。夏に宝探しなんてやってられないぜ、まったく。
【がちゃ、ばたぁん!】
「悟ー!! 大変だーっ!!」
「ああ……、そういえば」
ドアを限界まで開けきったのは『烈(れつ)』だった。寮のドアなのになんて扱いかたをするんだ、こいつ。そしていま思い出したんだが、そういえば校長にゲームを貸してやる約束をしていたんだった。どうでもいいことだからすっかり忘れてたよ。貸出人がちょうどきてくれたんだ、いまのうちに預かっとこう。
「おっす、烈。こんな早朝からどうしたんだ? そんなに叫んだら寮のみんながおきちまうだろうに」
「そのほうがマシってもんだぜっ!! 人目があるほうがよぉ!! 悟ってだれか殺したか!?」
「は?」
こいつは一体なにをいっているんだ。この特星では『不老不死効果』によって、死ぬどころかけがを負わすことすら難しいはずだ。そんなことはいくらバカといわれる烈であっても知っているはず。なにかあったんだろうか? とりあえず事情をちゃんと聞くまえにゲームは回収しておこう。
「いや、殺してないっていうか特星だと殺せないと思うけど。でもゲームを貸してくれたらもっと殺さないだろうな」
「幽霊がお前のことを探してたんだよーっ!!」
「なんだって!? ……その幽霊はゲームを貸せば消滅する!」
「貸す!!」
「よしよし。じゃあとりあえずありったけ持ってきてくれ」
しばらく待っていると、ゲーム機がいくつか入った箱を持って、烈がもどってきた。そこまで数はないようだが俺の持っていないゲームソフトもいくつかあるな。これは俺が借りておこう。あとやっぱりこいつは、すでに持っているゲームの廉価版をいくつか買っているようだ。重複しているものは校長用にわけておくか。
「烈ー。たしかこれとこれと、あとこっちのやつとかも全部処分に困ってたよな」
「ん? ああそうそう!! 買った価格よりもなぜか売値が安くてさー!! 手ばなす機会がまったくねーんだよ!!」
「じゃあオッケーっと。それで幽霊が俺になんの用なんだって?」
「わかんねえよぅ!! だってよ、だってよ!? 悟がいるのはここの寮だって教えたらどっかにいっちまったもん!!」
「そんなあやしいやつに教えるなよ。でもゴースト系モンスターと見間違えたんじゃないのか?」
「たしかに『特星エリア』への配達中の出来事だったけどよー!! いっしょにいたバイトが魔法系統の特殊能力を使ってたけどまったく効かなかったんだぜ!? すり抜けちまってさ!!」
ふむ。そりゃたしかにおかしな話だ。ゴースト系モンスターは魔法攻撃とかであっさり倒せるはずだからな。ということはほんとうに幽霊なんだろうか? もしほんとうに幽霊だっていうなら、地球からロケットに乗ってわざわざやってきた可能性が高いな。特星では『不老不死効果』があるから、人が死んで幽霊になるなんてことはまずない。
……ああでも、不老不死が実装されるまえの特星であれば、死んで幽霊になってるやつもいるかもしれないな。俺の知りあいにはいねーけど。
「呪われるまえに呪い殺すしかねーか。烈、そいつの容姿は?」
「和服をきてたぜ!! 小学生くらいの女の子だったな!! それと……、あと半透明だった!!」
「あー、女子小学生かぁー。やばい特殊能力もちが多いイメージなんだよな。もしかすると幽霊に化ける特殊能力とかそういうのかもしれない」
だとしてもなんで俺をご指名なのかは謎だ。案外、ただのファンだったりして。……そりゃそうか。いつも主人公らしくあるようにふるまっているし、きちんと人としての基本を押さえたふるまいをしているのだ。子どもにとって、俺の整ったふるまいはまさにあこがれの大人の完成形! 敵も倒すからヒーローそのもの! その幽霊とやらは俺の人気を広める第一歩となってくれるだろう!
「はっはっは! その人はどうやら俺のファンのようだ!」
「ふぁ、ファンーっ!? 悟に幽霊のファンがいたのか!? 人間のファンですら俺よりいなさそうなのによー!!」
「ちっちっち。声のおおきさで目立っていれば賛同者はでてくるさ。だが烈。お前には死してなお、お前を思いつづけるファンはいないだろう?」
「バカだなー!! 特星では人は死なねーんだぜ!! バカだなぁー!!」
「へん、おバカな烈ちゃんにはちょっとむずかしかったか?」
「おいおいおいおい!! なんで俺がバカってことになるんだ!? 悟がバカだって話だっただろーっ!! いつもいつも俺のことをバカバカ言ってるんだから、自分がバカなこと言ったときには、自分をバカだと認めろよー!!」
「なんだ烈! やる気かー!?」
「あー!? もうゲーム貸さねーからな!!」
うぐぐ。ゲームを盾にするとはなんて卑怯なやつなんだ! 烈め、ただただバカなだけかと思っていたが駆け引きもできるやつだったとは。ちょっとこいつのことを甘く見ていたようだ。
校長との約束自体はたいして重要ではないが、このままでは約束をないがしろにする人間だと広まってしまうかもしれん。だからといって大切な俺のゲームを校長に貸すわけにもいかないし。く、なんとしても烈のゲームを手に入れなくては。
「よーし、なら勝負だ! 烈、お前が勝てたなら俺はあやまる! それで仲直りしようじゃないか。だけど俺が勝ったらゲームを貸してもらうぜ! そしてこのことは水に流して仲直りだ!」
「乗った!! 容赦しねーからな!!」
「ふ、こっちこそ遠慮はしないさ。騒ぎでおきてやってきた生徒たちに、お前の敗北シーンを見せつけてやる! 水圧圧縮砲!」
俺はすばやく水鉄砲をポケットから抜き、大砲のような『水の魔法弾』を発射する。烈がいるのは玄関とつながる廊下だ。両手も広げられないほどの狭さでは、ろくに避けることもできまい。すでに勝負はついていたんだ、烈!
「そんな水くらい蹴破ってやる!! とりゃ、あぁー!?」
「なんだって!?」
【どがあぁん!】
烈による肩くらいにまで足を上げた、みごとな蹴りが水圧圧縮砲をとらえる。だが、その蹴りは『水の魔法弾』にほとんどなんの影響も及ぼすことなく、押し返されていく。片足立ちとなった烈は、もう片方の足を『水の魔法弾』に押されてしまい、バランスを崩して転んでしまった。そのまま水圧圧縮砲はつきすすみ、部屋のドアだけをぶっ飛ばして外へと飛んでいく。烈に直撃させるはずが避けられてしまった!
く、あれは烈の『水上を歩ける能力』の応用だ! 本来は『水の上を歩く』ために使う能力でしかないが、効果としては、烈の『足の裏』か『足の裏に密接した装備』からの水に対するエネルギーを0にするというもの。水滴などに乗れる反面、足の裏側からはどれだけ少量の水にも負けてしまう。
……キックで抵抗してしまえば、水圧圧縮砲に勝つか負けるまで足にダメージを喰らい続けなければならない。だけど、キックが水圧圧縮砲にすぐに負けてしまえば、ダメージを受ける時間がほとんどカットされるから最小限のダメージで済む。こりゃ狙ってやったのならかなり賢いな。
「くそー!! 悟、もっと広いところで勝負だっ!!」
「あ! 待てこら!」
【がっ】
「なにぃ!? のわぁー!!」
【どざぁっ!】
烈はすぐに立ち上がり、そのままうしろへとおおきく飛びのく。そして外の通路にあった手すりに腰から突っ込み、そのまま下の階へと落下していった。俺の部屋が寮の二階にあることくらい知ってるだろうに……。やっぱり烈は烈、ただのバカだったようだ。水圧圧縮砲を蹴ったのもたまたまだろう。
「おーい、大丈夫かー?」
俺は声をかけたあと、手すりを跳びこして、倒れている烈のとなりへと着地する。見た感じでは気絶とかしていないようだがどうしよう? こいつは戦闘とかするタイプじゃないからやりすぎるのはよくないかもしれない。とりあえずは様子見して、やる気が残ってるならとどめを決めてやるか。
「うぅー、俺はもうムリだぁー……。悟、約束どおりにゲームはお前に託すぜ。俺だと思って、大切にしてやってくれ」
「……烈!? おい待てよ! 仲直りするって約束だったじゃねーかよ!」
「ぐふぅ。どうやらムリみたいだ。アクションゲームだと無敵でも落下死は免れねーから、なんかそういう感じで」
「烈っ! おめーこそアクションゲームの主人公だ、烈ーっ!」
「悟ーっ!!……そろそろキツイ!!」
「だな。まあこれで仲直りってことで。にしても特殊能力をうまく使ったもんだと思ったんだがなー」
後腐れをなくすためのやりとりも終了し、俺と烈はふたり肩をならべて朝日のほうを向く。すでに早朝といえる時間は過ぎていて、いつの間にか朝といえる時間になっている。
「そうか!? 俺は特殊能力だとまったく勝てる気はしねーけどな!! 殴れば勝てるかもしれねーけど!!」
「そもそも使い道あるのか? 日常生活でも水上歩行なんて使わないだろ。移動速度は船より遅いだろうし」
「ちっちっちーっ! なんとバイトで役立つんだなー、これが!! ロケットになるバイトだとか楽だぜ!!」
「なんだその遊びで作ったようなバイト内容は……」
「ロケットにくっついてる鉄スリッパに足を入れてるだけのバイトさ!! すげー簡単にロケットが飛ぶようになるらしいぜ!!」
ははあー。なんとなくわかったぞ。ロケット自体を『烈の足の裏側にある装備』とすることでコストダウンしてるんだな。どれだけの重量があろうと水へのエネルギーは0になるから、水……どころか水滴さえ飛ばせる距離なら、ロケットを飛ばし放題できるってことだろう。バランスとか着地が大変そうだけど。
とはいえ、そのバイトはちょっとやめておいたほうがいいだろうな。烈は忘れてるかもしれないが危険すぎる。
「烈、そのロケットのバイトはかなり危険だぜ」
「なに!? 不老不死だから大丈夫だろ!!」
「はあ、やっぱり忘れてたか。あのな、『不老不死効果』っていうのは特星内だけでの効果なんだ。宇宙で事故にでもあったらお前死ぬぞ?」
「なんだって!?」
正しくは、『不死の効果』は特星外にでるとすぐ消え、『不老の効果』はしばらく体に残るんだっけか。専門的なことはよくしらないが、なんでもそれぞれ違う技術によって効果を実現させているらしい。ある技術で作られた『不死の効果』と、それとは違う技術で作られた『不老の効果』を、合わせて『不老不死効果』と呼んでいるわけだ。まあ烈とかは混乱したりするかもだから、どちらも特星からでれば消えると教えたがな。
「し、しらなかった!! もうすこしで俺も幽霊みたいになるところだったぜ!!」
「あー、そうそう幽霊だ、幽霊。おめーが見た幽霊の出現場所までいきたいんだった。具体的にどのあたりだ?」
「説明はむずかしいがいけばわかるぜ!」
「おや、いいのか? 烈、さっき怖がってただろ」
「へっ!! もうすでに明るいからな!! 幽霊なんていつでもきやがれって感じだぜ!! 俺と悟ならよゆーよゆー!!」
「ふ、調子のいいやつだ。多分、戦うことはないだろうがな。きっと俺のファンだろうから」
「じゃあ案内するぜ!! 『特星エリア』の幽霊出現ポイントに!!」
俺と烈は歩いて寮をあとにする。寮をはなれ、『現代エリア』をはなれ、モンスターがうろつく『特星エリア』へと向かうのだった。
雷之悟はコートを着ている! 神離人 @sinrinin
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