神社しか紹介する気のない観光案内
卯月
櫛田神社、筥崎宮、その他いろいろ
「お前、
会社の先輩が、そう訊いてきた。
「今度、福岡市に出張で行くんだが、面白いとこないか?」
「――それを、私に訊きますか」
「え、何で」
「紹介するのは構いませんが、私の趣味は偏ってますよ?」
「偏ってるって、どんな風に」
私はしばし考え、比較的有名な部類から話を始めることにした。
「福岡市は、武士の町・福岡と、商人の町・
「あー、ニュースで聞いたことある」
「山笠と言えば、博多の総鎮守・
「……何でいきなり、胡瓜について語り出すんだ」
「じゃあ、
ついでに博多で『ちゃんぽん』と言ったら、息を吹き込んで音を鳴らす
「お、おう」
「放生会では毎年、巫女さんが絵付けしたちゃんぽんと、博多人形師さんが作ったおはじきが販売されますが、あっという間に売り切れます。
ところでこの神社、一月に、僧侶の団体が参拝して読経して帰る、というとても楽しいイベントがあります」
「――は?」
「昔、中国に仏教の勉強をしに行った高僧が帰国する際、船が
「高僧、祈る相手はそこでいいのか……?」
「神仏分離前ですし」
先輩が釈然としない様子なので、話題を変えることにした。
「
「てんそん……?」
先輩はピンときていないみたいだったが、気にせず続ける。
「普段は神職も常駐していない、住宅街の中のひっそりした神社ですが、暦でその年最初の
昔は地元民のマイナーなお祭りだったと思うんですが、今では遠方から来る人もいて、二回目・三回目の庚申の日でも買えるようになったみたいですね。ちなみに、この猿面も博多人形師さんの作だそうです。山笠の人形ももちろんそうですし、人形師さん大活躍」
「何でそういう、ピンポイントなイベントばかり紹介するんだ」
「……じゃあ、いつでも行けるところがいいですか? 福岡市から出ちゃいますけど、
本殿とは別に、奥に、横穴式石室の古墳がそのまま神社になってるところがあって、一粒で二度美味しいです。あ、私、古墳も趣味で」
「俺は、古墳はいい……」
「そうですか。では、これも福岡市から出ちゃいますが、
「お、それは有名だな」
「学問の神様、
「学問の神様……?」
「よそで話しても知っている人がいないので、私の中学だけのローカルなジンクスかもしれません。ローカルじゃない話としては、道真公は牛と縁が深く、境内に寝ている牛の像があります。自分の身体に悪いところがあるとき、牛の同じ部分を撫でると治ると言われています。前に参拝した際、牛の
「俺に訊くな」
「あと、御神木の
「……花だけ飛んできたんじゃないのか……?」
「そのほうが絵的に美しいですけど、花だけじゃ根付かないじゃないですか。一緒に飛んできた松は、途中で力尽きて、兵庫県に着陸したらしいです」
沈黙する先輩。
「あ、天神にも
私が心底残念そうに語ると、
「ああ、うん」
先輩は、疲れたように肩を落とした。
「……お前の趣味が偏っているのは、非常によくわかった」
神社しか紹介する気のない観光案内 卯月 @auduki
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