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「いらっしゃいませー」

あーきつい。

連休明けてのバイトってのはこんなにだるいものなんだねぇ。

なんていうか、声に張りが出ない感じがするわー。

「赤マルのショート」

「四六〇円になります」

この兄ちゃんもよくこんな日に外で仕事できるもんだよ。

私なんて出勤途中で外に出るだけでも結構な労力というのに。

てか客全然こなくて暇だなー。

まぁだからこそここ選んだんだけどね。


制服のポケットに隠し持っていたスマホを取り出し、暇つぶしにSNSを開く。

「ん?」

またフォロワー増えてるじゃん!

どうしたの私のアカウント?なんか怖いんだけど。

えーと、ん?

なんか見覚えあるなこの人。

誰だっけ?どっかで見た事あるようなイケメン具合…。

「あの」

「ひゃっ!? は、はい!」

唐突に声をかけられ声が裏返る。

レジ棚にはペットボトルとおにぎりが一つ置かれていた。

「二七〇円になります」

「ども」

あー、恥ずかしかった。

このおにぎりとペットボトルのお茶を買い合わせていくのはいつもの人かな。

ふと顔を見てみると…。

「あ」

「――!」


思わず出てしまった声に過敏に反応し、駆け出していく客。

私は茫然とそれを見続ける事しかできなかった。

「…さっきの、フォロワーの人」

そう。

どっかで見た事あると思ってたけど、そりゃ当然だ。

だってあの人毎日ここでお茶とおにぎり買っていくんだもの。

なんだろう?たまたま私を見かけたからフォローしたのかな。

だとしてもあの反応はなくない!?豆腐メンタルの私からしたら結構傷つくよ!?

――しかしイケメンだったな。

まぁあんなイケメンが私になびくわけないしなぁ…。

はぁ。しんど。



*************************************


「ちかれたー」

「お疲れ様。はい、売れ残りあげるよ」

「あ、あざーす」

店長から差し入れとしてスイーツをもらった。

甘党の私としては嬉しい事である。

現在時刻は夜の12時。

夕方6時から12時までが私の現在の固定シフトである。

しかしながらこの時間帯のバイトは私一人しかいない。

といっても客なんてのはあんまりこないわけだが、店長と私だけで回している。

「てか、いつも思ってるんですけど蒲生さんていつ寝てるんすか?」

出てくる疑問としては当然の事である。

何しろ店長は朝勤務から当然のように出勤してるし、夜に至っては私よりも遅く出ている。

それからかえってネトゲをする時間があったとしても…ほとんど寝てないんじゃないだろうか。


「いやぁ、僕だって意外とちゃんと寝てるんだよ? 昨日はちょっとクラン戦が白熱しちゃったけど…。まぁそれでも一時間は寝れたよ」

「常識を疑う言葉を言ってるの自分で気づいてます?」

やばすぎるだろ。

ひとりでに倒れられちゃこっちが困るっつーの!

「あ、そういえば最近不審者がいるらしいから。新島さんも気を付けて帰るんだよ?」

「不審者?」

「そうそう。なんか見境なく女性に付きまとうんだってさ」

「こわっ」

そういえばなんか最近ニュースにのってた気がするなぁ。

なんでも若い女性に付きまとう男がいると。

付きまとって何をするかっていうと特に何もしないっていうイミフな人物なんだけどさ。

でもストーカーっていうのは聞くだけでも背筋がゾッとする話だねぇ。

「とりあえず気を付けてね。じゃ、お疲れ様」

「はーい。お疲れ様でーす」

控室から出ていく店長に手を振り、私は裏口から外に出た。

「さむっ」

寒風が肌を掠め、背筋に寒気が走る。

時期が秋に差し掛かってきたのか、最近めっきりと風が冷たくなってきた。

これは帰ったら布団にくるまってネトゲの時間だなー。

「―――」


『最近不審者がいるらしいから』

灯りの少ない帰り道、急に店長の言葉が頭をよぎる。

…大丈夫大丈夫。

私なんて狙う男なんて早々いないって!!

『なんか見境なく女性に付きまとうんだってさ』

―――まぁ大丈夫だよね。

日ごろの行いはいいほうだし、こんなところで襲われることなんて…

「――――っ!」

急に悪寒を感じて身震いする。

―――足音が私に重なってもうひとつする。

はは、いやぁ。そんなわけないって…。

いくらなんでも考えすぎ…だよね?

小声でははっと笑いながら自分を元気づける。

そのまま恐る恐る後ろを振り向いてみた。

「――――!!」

足跡の正体を見た瞬間、私は中学校のリレー以来の全力疾走を開始した。

息が切れようとかまわず走り続ける。


「――はぁっ…はぁっ…なんだよあれぇ!!」

よく見えはしなかったが、確実に人ではあった。

だが、異様なまでに黒ずくめの恰好だったのだ。

どうみても不審者と一発でわかる程度の人間。

得も知れぬ恐怖に駆られた私は、自宅の中に駆け込み、鍵をかけた。

その晩は寒気が酷くて寝付けなかった。

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