SCENE11

 マンションのエントランスを出ると、C警視のブラックのセダンが止めてあった。一見普通の車に見えるが、何かあったらポータブルのサイレンを取り出して屋根につけたりするのだろうか。あるいは彼のプライベートの乗り物なのかもしれない。

 彼はいかにも自然に、助手席ではなく後部座席のドアを開けて私を乗せると、車をゆっくりとスタートさせた。P公園に着くまで、私たちは一言も口をきかなかった。公園に着くと大通りから脇の路地に回り込み、車を路肩に止めた。車を降りると、ヒンヤリとした甘い匂いのする空気が全身を包んだ。

 そして私たちは、黙ったまま公園の遊歩道を歩いた。しばらく歩いて事件のあった広場に出た時、私は初めて口を開いた。

「警視さん、あなたは事件が起こる前から、 A子とB子を知っていたんですね」

「ビンゴ、と言えばいいのかな」

 C警視は、気持ち歌うように明るく答えたが、顔は笑っていなかった。私は続けた。

「この前あなたが見せてくれた元クラスメイトの青年の調書には、彼がB子を好きだったことは書いてなかった。僕がそれを知っていたのは、再聴取した際たまたま彼の口から洩れたからで、まだあなたには話してなかったはずだ。立場上、現場で聴取なんかしてないあなたが、なぜ調書に書かれていないことを知っていたのか。答えは一つ、もともとB子から聞いて知っていたからだ」

 C警視は、最初に私の事務所に来た時のように、ぐるぐると広場の中を歩き回りながら私の話に耳を傾けていた。

「あなたには、B子にいなくなって欲しい事情があったのではないでしょうか。エリート街道を歩むあなたのことだ。おそらく出世か恋愛にからんだ何かなのではないかと想像します。そこでちょうどA子が事件を起こした。いや、もしかしたらあなたがA子に、B子を殺させたのかもしれない。専門用語で殺人教唆というんでしたっけ。ところがA子の葛藤が強すぎたのか、あなた方はB子が死んだ世界Xと、B子が生きている世界Yという二つの世界の重ね合わせの間を彷徨うことになってしまった。それでは都合が悪いあなたは、何とかしようと方法を考えた。しかし彼女達に関わり過ぎていたあなたには発見確率の波を収縮させ、ひとつの結論に導くだけのマクロな作用をA子の世界に及ぼすことはできなかった。そこであなたは僕を利用することにした。ヘッポコな名ばかり探偵である僕をうまく誘導してA子に干渉させ、B子が死んだ方の世界Xに確率の波を収縮させるのは、たやすいことだと思ったんじゃないですか」

 私はそこまで一息にしゃべると、かなりの疲労を覚えて無意識にそばの樹木の枝を見上げた。ここに来る前に自宅の窓から見たのと同じ、名前の分からない鳥が止まっている。今度、この鳥の名前を調べてみようか。私は視線をC警視に戻して言った。

「違っていたら教えてください。そしてあなたの望むA子が、ここに現れる」

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