SCENE8

 翌日の朝、私はベッドからおきあがることもせず一日中事件のことを考えていた。B子を殺したA子とその目撃者たちが属する世界Xと、殺していないA子と生きているB子、その目撃者たちが属する世界Yとは、限りなく干渉しあいながら、A子の発見確率の表れとして二つの状態が重ね合わせになっている。しかしマクロな観測が行われていない現在、我々と同一の平面に残るのがどちらのA子の世界なのか、我々は世界Xと世界Yのどちらに進むのかはまだ決定していない。

 A子の不確定な二つの心が、誰にも観測されないまま、現実の世界に反影されてしまったことがそもそもの原因だとするなら、私が観測者としてA子に何か決定的な作用を及ぼすことで、彼女たち二人を助けることはできないだろうか。観測した瞬間に、不確定だったA子の振る舞いが確定するとしたなら、どちらかの彼女に決定してしまうとするなら、私は無実の方のA子に出会わなければならない。そして彼女に、後戻りできない何かを刻印しなければならないのだ。

 もし私が最初に出会うのが、罪を犯したA子なら、彼女は殺人犯として、人生の最も輝かしい季節を隔絶された孤独の中で過ごすことになるだろう。そして、もし私がどちらのA子とも出会うことができなかったなら、彼女は永遠の不確定性の中を彷徨うことになるのだ。

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