SCENE6

「結局、証人たちの間には何のつながりもありませんでした。全くの他人同士」

 Qカフェのテラスの最前列で、依頼人であるC警視に私は報告した。テラス席はだいぶ冷え込んでいたが、外にいるのが耐えられないほどではなかった。熱いコーヒーをすすりながら私は続けた。

「外界と常に行き来のある、あんな公園やこんなカフェで集団催眠、というのもありえないでしょうね」

 C警視は、特例で持ち出したという目撃者たちの調書のコピーをトントンとテーブルで叩いて揃え、私に手渡しながら言った。

「例の、B子を好きだったという元クラスメイトの青年を掘り下げる必要はありませんか?」

「ありませんね。A子とB子は、明らかに二か所に同時に存在したのです」

 私がちょっと誇らしげだったのが気に障ったのかC警視は眉を顔の中央に寄せ一瞬静止したあと、フッと息を吐いた。

「そんなことは最初からわかってます。だからキミに依頼したんですよ。最初はヒマそうだから、と選んだのですが、キミに初めて会った時、ピンと来たんです。キミは他の人にはない何かを持っている。この事件について、何らかの答えを出してくれるんじゃないかと、そう思ったんです。誰にも信じてもらえないとしても、自分なりの答えを探し出してくれるはずだとね」

 街路樹の落葉がくるくると回りながら私たちのテーブルの上に落ちてきて乾いた音を立てた。

「シュレーディンガーの猫……」自分でも思いがけない言葉が口から飛び出した。「ミクロの世界では、ひとつの物体が同時に複数の場所に存在できることが、実験で証明されている」

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