SCENE5
わかりやすく、容疑者をA子、被害者をB子としておく。私は個人情報を大切にする主義だからだ。彼女らは午後3時ジャストにP公園にいた。そしてB子はA子に刺殺される。
午後3時ジャストというのは、最初に取材したビジネスマンの休憩時間は年下の外国籍の女性上司にきつく監視されているそうで、頻繁に時計をチェックしているから確実だということだ。
B子を好きだったこともあるという元クラスメイトが目撃していることをとっても、まあ本人たちに間違いないだろう。
次は、P公園から5kmほど離れているQカフェのチームだ。こちらも同じようなもので、3時少し前から30分ほどの間に、数人の目撃証言が取れた。
美人で目立ったということのほかに、A子がこの間まで治療を受けていた地元の歯科に勤めている歯科衛生士が同じ時間帯にQカフェにいた。テラスの最前列にいた彼女たちの後方の席からだったが、二人が時々くすくす笑いながら仲良く談笑していた後姿を歯科衛生士の彼女はよく覚えていた。
その中年の歯科衛生士によれば、彼女が一度でも歯石を取ったことのある患者の顔は絶対に忘れないそうだ。おまけに何年か前にはB子の治療にも携わったというのだ。
なるほど、現実にこの世で起こり得るかどうかは別として、 A子とB子は、事件の日の午後3時ちょうどに、P公園とそこから5km離れたQカフェに同時に存在していたのは事実だということになる。
これはどう解釈するべきなのだろう。生きているかもしれないB子も行方不明となってしまった今となっては、まずは容疑者であるA子のアリバイ崩しから始めるべきなのだろうか。
とりあえずミステリードラマの真面目な刑事がやるように、P公園からQカフェまで、実際にどのくらいで移動できるのか試してみた。3時ジャストにP公園を出てダッシュ、裏道でタクシーを拾ってQカフェへ。もちろん運転手に一番近い経路で、と頼んだが、この時間だと途中の信号にいろいろ引っかかって20分ほどかかってしまった。店に駆け込んで3時20分では遅すぎる。
そのままQカフェからP公園までメトロで戻ってみる。駅のホームまで5分、2分ほど待って4駅乗り、ホームから公園まで5分強。ドラマの熱血刑事のように全力で走って見たのだが残念ながらやはり20分かかった。
熱血刑事ほど若くもスタミナもないので、ハアハア息をしてベンチに寝転び遥か彼方の青空と向かい合いながら、二人が2点間をなんらかの方法で移動した、という選択肢は削除すべきだと結論した。
そうなると、普通の頭で考えるなら証人が皆で示し合わせて嘘をついているか、まとめて欺かれているか、ということになるが。
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