SCENE4
まず初めに行なったのは、殺人現場を目撃した人々への再聴取だった。とは言っても私は警察ではないので、例の警視から渡されたリストを片手に、一件一件任意でお願いして回らなければならなかった。「キミから連絡が行くことはちゃんと伝えてオーケーをもらってるから」という彼の言葉を励みにおずおずと連絡をいれてみたところ、そんなことは聞いていない、という対応がほとんどでアポイントは難航した。この作業のあいだ何度あの警視を憎んだことか。
「うん、あれはこの二人に間違いないな」
最初にコンタクトした50歳前後のビジネスマンは、当事者二人の顔写真を見ながらいった。
ちょうど事件が起こった時間帯に、目撃者にひとりずつ現場の公園に出向いてもらい、そこで話を聞かせてもらうことにしたのだ。公園は住宅街にあったが、大通りの向かい側には、古くからあった電子部品工場が立ち退いた後に建てられた高層ビルがあり、そこが彼の職場だった。
「オレは大体この時間ここで休憩してるんだけど、こんな美人が二人一緒にいたら、まあ見逃すことはないよ」写真を指差しながら、「突然こっちの子が血を流しながら倒れた時はさすがにびっくりしたけどね 」
「例えばこの写真に似ている人と見間違った、ということはないですか」
「いや、ないね。ここのホクロをしっかりと覚えているんだ」と、容疑者の顎の右の方にあるホクロを示した。
ホクロが分かるほど見知らぬ女を近くで観察できたのか、と私はいぶかったが、中高年の若い女に対する貪欲な視線を想像してげんなりしてきたので、その件はスルーすることにした。
男はため息をつきながら、「それにしてももったいないよな。こんな美人が殺したり殺されたりなんて」
そう言うと、もうこのへんでいいかな、と催促するように腕時計を見た。
何人目かに会った証人はさらに厄介だった。ハイスクールを出たあと就職浪人をしているというその青年は、彼女たち二人のかつてのクラスメイトだったのだから。
ありふれたフード付きパーカーにジーンズをはいた彼は、ポケットに手を突っ込んだまま路上の枯葉を蹴散らしながらつぶやいた。
「あの子たちに間違いないよ、ホントに。まあ就職も決まんなくて昼間から公園でブラブラしてる僕なんか、進学した二人に相手にしてもらえるわけないんで、声掛けるなんてしなかったけどね」
潤んだ目で私をチラリと横目で見ながら、「亡くなった彼女を好きだったこともあったんだ。間違うわけないよ」と少しイライラしたように言い捨てた。
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