SCENE2

「ひとつ、殺人事件の捜査に協力していただけないでしょうか」

 そんなメールが殺人課の刑事を名乗る男から届いたのは、秋も深まったある日のことだった。朝晩の風は日を追うごとに冷たくなり、歩道を歩くと街路樹の落葉がカラカラと音を立てて靴の周りを舞った。塀の陰になったアスファルトに一匹で長くのびていた野良猫たちも、日当たりのよいトタン屋根の上で二、三匹で折り重なって身体を温めあうようになった。それはすなわち、もうすぐ厚手のコートが必要になることを意味していた。コストパフォーマンスの悪い犬の散歩に辟易していた私は、取り急ぎ前向きに考えることにして、 Gmailから返信した。

「この度はお声掛けいただきありがとうございます。事情はお会いした時に聞くとしまして、先にひとつだけ確認したいことがあります。たくさんいる探偵の中から、なぜ僕をお選びになられたのでしょうか」

 恥ずかしいことだが探偵をやっているにも関わらず、私には警察の知り合いがひとりもいない。また先に述べたとおり手柄を誇るような事件を担当したこともない。どうやって私のことを探したのか。サイコロでも振ったというのだろうか。

「失礼ながらこの地域の探偵ランキングサイトの一番下に貴殿が掲載されていたからです。一般的に探偵さんの場合、それが50音順のリストであっても、リストの上にあるほど依頼のメールが多いと言われています。ですので、たとえ主宰者が恣意的に算出したものであるとしても、ランキングならなおさら結果は自明ではないかと考えました。この事件はちょっと特殊なもので、じっくりお付き合いいただける、時間に余裕のある探偵さんを探していたのです」

 つまり彼は、割に合わないギャラでも文句を言えないヒマな探偵を探していた、というわけだ。

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