4.夏の咄

 着くはずのない街に向かって歩いている。

 夢に出てきたその街は、まだ君が居て、僕と笑っていた。


 会えるはずのない人の方へ向かって歩いている。

 やっと見つけたその人は、一人街灯の下を歩いていた。


 時々、思う。もしかしたら彼女は、僕の見つけられない場所に行っただけなのではないかと。でもそれは、願望でしかなくて。

 夏に行われた一つの実験によって消えた、あの命彼女が戻ってくることもなくて。


 時々、思う。もしかしたら私は、彼の見つけられない場所に行っただけなのではないかと。でもそれは、妄想でしかなくて。

 彼も同じようなことを考えていたら良いなぁなんて思ってみたり。


 じゃあ今度は実験を成功させようと、消えた街に残っていた、輪っか型のキカイに飛び込む。



 そしてその日、会えなくなった人に会えるようにする実験は、成功した。

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短編ミステリ集・僕の咄 幻典 尋貴 @Fool_Crab_Club

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