茹だる。
カッ!!!!!
漫画ならこういう効果音で表されそうな太陽が脳天から俺を焦がしている。今現在。
こういう時に自分が金髪だったらもう少し頭が涼しいのかと変なことを考え始める。脱色してみようかしら。
纏わりつく熱気の中で自転車を漕ぐ。普段ならこういう真夏日に外出したりしないのだが、今日ばかりはそうもいかなかった。
今日行われる夏祭り。その午前の部に、俺が通う学校で一番の美人(当社調べ)である加藤さんが参加するらしいとの情報を確かな筋(というのは友人の篠崎)から入手していたからだ。
それを聞いた俺は勇んで祭りの会場に出向いた訳だが、加藤さんは祭りの運営でてんやわんや。俺が介入できる余地などなかった。祭りと夏の熱気に取り残された俺は、思い出したように吹き出た汗と涙で顔を濡らして帰路についた。
俺の髪を焦がす熱気が緩んだ。見上げると、高く盛り上がった入道雲が太陽を隠していた。これは一発降られるぞ。既に顔面びしょ濡れなのに、雨にまで打たれたらいよいよ何に濡れているのかわからなくなる。急ごう。
家までの近道である祭り会場から一つ東に入った通りを風のように走り抜ける。前に見える自転車の人もこの空模様に急いでいるようだ。全然追いつかない。
クラクション。思わずブレーキを握った。大型トラックがあわや衝突となるところにまで迫っていた。危なかった。急ぎすぎたか。……俺の前に人がいなかったか?
その時俺は、人の内側は案外鮮やかな色をしているんだな、と、ひしゃげた自転車のフレームに纏わりつく何かを見つめて思った。女の悲鳴、男の怒号、立ち込める死臭。全て現実感がなくて、テレビの向こう側の出来事のように見えた。テレビでこんな光景放送したらクレームが止まないだろうが。この話を手土産にもう一回加藤さんに会いに行こうか。そんな事まで思ってしまった。
自転車を百八十度回転させ、俺はその場から立ち去る。後ろで人の声が聞こえる気がする。
いつの間に雨が降り始めていた。事故の喧騒は雨音に、死臭は雨が流し去って行った。
四季 真鯖荘吉 @mackerel443
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。四季の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます