四季
真鯖荘吉
散る。
この季節になると、人々はどうにも落ち着かない気持ちがして、誰彼構わず連れ回して公園に集り出す。もしかしたら、春風が連れてきた別れが悲しくて、それを誤魔化したくてそんな事をしているのかもしれない。
悲しいかどうかは置いておいて、気分が浮ついているのはぼくも変わらない。ぼくは桜色に染まった川沿いを歩いていた。桜、というよりむしろ梅の花に近い、顔を赤らめた有象無象が放つ酒のにおいがぼくの鼻をくすぐる。桜のにおいなど感じようもなかった。ソメイヨシノはほぼ無臭だったような気もするから、きっと酒が無くても桜のにおいなんてしなかったのだろうけど。
西に進むと、やがて人通りは途絶え、桜の木もまばらになってきた。誰もいない。ここがぼくのお気に入りの場所だ。だけど今日は先客がいた。その人は首にかけた縄を頼りに花見をしていた。あまりの絶景に目が飛び出てしまったらしい。アルコールのにおいはしなかったけど、その人は糞便のにおいを撒き散らしていた。ぼくは驚いた。こんなにも全身で春の喜びを表現する人がいるのかと。ぼくは深い感銘と、耐え難い悪臭に眉をひそめ後ずさりした。先客がいるなら仕方が無い。今日は引き上げよう。ぼくは震える足をもたげて家路を急いだ。
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