女子高生の安崎唯の視界にはたびたび全裸の中年男性が現れる。他の人にはその姿が見えないので、当然現実なわけがない。
現代を生きる彼女は妖怪や心霊の可能性は考慮せず、冷静に自分の精神の異常を疑うのだが、医者に行っても本で調べてもこの状態を解消する手段は見当たらない。さらに自宅では仕事で硫酸を扱う板金工の父親がことあるたびに「おい! そこ危ねえぞ! 硫酸が置いてある!」と怒鳴り散らすせいで家族仲は最悪。
こんな環境で過ごすせいで唯のメンタルは不安定になるばかり。このメンタルの書き方が実に良いのだ。他人との違いに悩むことや家族とのいさかいなどは誰にでも経験があるだろう。状況こそシュールなれど、本作ではそうした等身大の不安や悩みがしっかり描かれている。また唯からの相談を受けて、否定するわけでも笑うわけでもなく、しっかりと受け止めてくれる友人とのやり取りもしっとりとして非常に良い。
だが、そんなことよりもラストである。それまでじっくり積み上げてきた感情を全て振り切るラストは、まさに衝撃のラストと呼ぶにふさわしい。決して常人には書けない異様な短編である。
(「様々な妖怪変化」4選/文=柿崎 憲)