魔法丼対麺

作久

博多麺闘争

 魔法丼とは己が存在を掬った丼の中に麺と汁、そして具を満たすことで超常的な力を行使できる選ばれた者の食器である。日本ではそれを用いて戦う魔丼士が自らの縄張りを守りあるいは広げようと日夜対麺と言う名の戦いを続けていた。

 ここ、福博は饂飩や蕎麦、果ては饅頭の発祥の地と言う歴史を持つためか他地域の魔丼士から狙われることが多い。今も饂飩魔丼士とラーメン魔丼士の二人がそれぞれ讃岐と醤油から襲撃を受け福岡城址で戦っていた。


 「博多ぁ!覚悟!」

ポニーテールに眼鏡の讃岐魔丼士は口火を切って博多へ突撃する。


 「しゃーしか!返り討ちよ!」

博多うどんもショートヘアを風になびかせ、腕組み仁王の威風堂々で讃岐を迎え討つ。

 「ぃやぁ!」讃岐は、丼から腰のある麺を博多目掛けて放つ。

 それは、鞭のようにしなるツルツルシコシコの麺。

 その特徴が生む速いのど越しが讃岐最大の持ち味だった。

 「どうだぁ!他にはない讃岐の威力!」

讃岐麺の余波で巻きあがった土埃、その晴れ間、讃岐には見慣れぬ揚げ物が見えた。

 「円形?かき揚げ?それは?ゴボウ?」手練れの讃岐は一目で材料を見抜く。


 「博多名物ゴボ天たい。」

博多はにぃと笑う。彼女は、ささがきゴボウを丸くまとめカリッと揚げたゴボ天の盾で讃岐の麺、そのことごとくを受け止めていた。

 「さすがゴボウ、硬い。でも、そんな揚げ物!私のツユにふやけて散れ!」

讃岐は麺にツユを伝わせ、ゴボ天にジュンと染みさせカリッとした衣を侵食しあっさりと打ち破る。

 「さぁ後はないわ!おとなしく倒れて讃岐の前に屈しろ!博多ァ!!」

ゴボ天から破れ見えた博多の顔目掛けしなる麺を丼から抜き放った。

 「冗談やなかよ。」博多はまたも具を振りい出し仕留めに来た麺を受け止める。


 「まだ、まだ盾があるっての!?」

 出てきたラウンドシールドを見て讃岐は驚愕する。

 「双璧の一つ丸天。すり身の天ぷら!こいつぁふやけんぞ!麺に自信があるならぶちぬいてみぃや!」

 「時間稼ぎばかり!やってやる!」弾性の有るもっちりとした天ぷらは腰のある讃岐麺の打撃を受けこらえる。



 「そ、うちの攻撃は時間がかかると。でも、そろそろやね。…来たぁ!!」

そう叫んだ博多の魔法丼から麺が一斉にあふれ出してくる。

 「はかたのうどんは食っても食っても減らんことと、アゴんごたぁキレある瞬発力の味が持ち味たい!」丼からふわっとした柔らかな麺が湧き出るようにあふれ讃岐目掛けて絡みつく。

 「くそ!払っても払っても。ああ、私の麺が…尽きる!?くぁ…やられる?!」

 「は!讃岐!博多の味に飲まれて逝け!」讃岐の麺をすべて絡み落としてもなお意気軒高な博多の麺は讃岐本体自身を白い繭の如くにまでした。


 「あー、ぎりぎりやったぁ。まだ、うちもうまくならんとねぇ」博多は動けなくなった讃岐のそばにドカンと腰を下ろす。彼女の耳に遠くからどぉんと音が鳴り響いてくる。

 「豚骨魔丼士の替玉クラッシュの音やねぇ。終わったとかいな?」落ち着けたばかりの腰をよっこらしょと持ち上げ彼女は天守台下へと歩んでいく。



 「あんたも勝てたとね。しかし続くねぇ。」

全身埃っぽくなった饂飩魔丼士が倒れ込んでいる豚骨魔丼士に声をかける。

 「おう、替玉システムの差でなんとかなぁ。ま、ここは昔っから戦場。こればっかはしよんなか。」


うどん魔丼士とラーメン魔丼士は背中を合わせ互いを称え支えて腰を下ろす。

 「…絶対。ここらん味と伝統はうちらん手で守る。」

 「…おう。たりめーやろ。」


二人は戦いの後いつもこうしてわずかな時間心を通わせた。



だが、戦士に休息などまずない。



二人の安らぎを吹き飛ばし、小倉焼うどんが手足を人形にして吹っ飛んでくる。

 「な?焼きうどん。あんたなんで!?」

 「この好機。逃すものげなおらんやろ?」


焼きうどんの飛んできた方向。見上げる天守台。二つの影が立っている。


 「あんたら!?」

背が高くスリムでショートヘアで機動力のある体の細麺皿うどんと、豊満な体と長い髪の太麺皿うどんの二人が悪い笑みを浮かべ立っていた。

 「連合組むげな、身体ばーっかしで頭の無いあんたらが考えることやなかね。おるんやろ!五島の!」

 「えぇ。企ては私です。」さらにたゆんとした胸と着物の装いで五島手延べうどんがにっこり現れる。

 「あの、私もいますよ私!神埼です!私も手伝いました!」はいはーいと手を振りながら胸の平たい少女が五島手延べうどんの背後からぴょこりと現れる。

 「知らん!誰あんた!」博多うどんは即答する。


 「佐賀の神埼素麺です!」


 「皆ッ目知らん!素麺は島原か鶏卵やろ!」再即答の上に彼女の心に無慈悲の一撃を撃ち込む

 「貴方は元の知名度がねぇ。彼女言うように島原がいるし。」

 「そんなぁ。」

五島うどんからも一撃をもらい、よよよと重ね重ね胸の平たい少女は崩れ落ちる。


 「ひふみよ、四人。しろしかけど…潰しちゃぁ!ねぇ、豚骨の!」

うどん魔丼士は笑って隣の戦友に言う。

 「あたりまえやろが!」豚骨魔丼士は、なお力強く答えて構える。

 

 「さすが。でもねぇ、まだ増えると。」

五島手延べうどんはさっと左手を上げさらに呼び、ザンと天守台に立ったのは男が二人、細身の男と、大柄で熊のように黒く太い髪をした男だった。

 「な!?長崎ちゃんぽんに、タイピーエン…。ちゃんぽんは当然としてあんたまでかい。」豚骨魔丼士は二人を睨み言う。

 「弱っとる時こそ好機やんか。お前ば倒すにゃ丁度よか。」タイピーエンと呼ばれた大柄な男は野生の牙をむいた。


 「あら?やせうまはおらんとね?」博多うどんははてと?五島うどんに尋ねた。

 「あぁー。誘おうと思ったけど…彼って麺?御菓子?団子?どうかわからんくてさ…。」

 五島手延べうどんはポリポリと頬を掻きながら「彼どっちなの?」と博多に尋ねてくる。

 「あーねー。」うんうん、と彼女もうなづく。

 「まぁ、来たかったら来るやろ?ってぇことで!じゃ、やろうかぁ!」


 魔丼士の戦いは果てることなく続いていく。

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魔法丼対麺 作久 @sakuhisa

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