少年と犬

小道けいな

少年と犬

 プエルは学校に行くのが憂欝だった。学校は好きだけど、途中にいる「それ」のせいで通学が嫌いだった。

 教会の裏にある墓に住む犬のカニスが「それ」だ。カニスは真っ黒な長い毛で、大きさは立つとプエルより大きい犬。

 プエルは犬自体は嫌いではないけど、カニスは別。

「どうして苦手なのか考えよう」

 プエルはカニスと出会うとどうなるのかを考えるとすぐに分かった。

「カニスは大きくて、カニスはぼくの顔をすぐになめるし、肩に前足を掛けるから……」

 襲い掛かられるようで怖いのだ。カニス自身はプエルを好きで、愛情表現としてやっているのだから仕方がないのだが、怖いものは怖いのだ。

「どうしたらいいのかな? カニスに言わないといけないよね、まずは」

 解決策を見つけてもプエルは憂欝だ。カニスが聞いてくれるか分からないし、犬に話が通じるのかまずは問題だ。

 その日の朝も、プエルが歩いているとカニスは「どどどどど」と地響きとともにやってきた。

 プエルは身構える。

「わんっ」

 カニスは吼えると同時にプエルの肩に前足を載せ、すぐに顔をなめてきた。

「ふわっ……カニス、待って、話が!」

 プエルの声など届かない。プエルはカニスの重さに耐えかねて尻餅を付き、そのまま地面に転がる。

「重いよ……ねえ、どいて、お願い。話を聞いて! カニス、ぼく、こんなんじゃ、君のこと嫌いになっちゃうよ! くすぐったい! ふ、ふえええ」

 プエルは抵抗したがなかなかうまくいかず、泣いてしまった。

 いつも転がされるままのプエルの様子がおかしいのにカニスは気付いた。激しくなめるのをやめて、様子を見る。涙をぺろりとなめた後、カニスはプエルの上からどいた。

 プエルはほっとして身を起こした。

 カニスは座ってプエルを見ている。その尻尾は地面に横たわり、悲しそうな雰囲気だ。

「……あ、ありがとう、カニス、どいてくれて」

 プエルは怒らないように努力するのだ。

「あのね、ぼく、カニスの事大好きなんだ。でもね、いつもカニスはぼくが『おはよう、カニス』と言う前に乗っかってくるから何もできなくて辛かったんだ」

 カニスはじっとプエルを見ている。話を促すように尻尾がぱたりと動く。

 プエルは立ち上がって初めて気付いた、カニスと目が合うと。

「カニスがぼくをなめたいのは分かっているよ? でもね、ぼくもカニスを撫でたいと思っているの」

「わふ」

 カニスは分かったというように鳴いた。

「ありがとう」

 プエルはカニスの頭に触れた。そして、頭を撫で、首を撫でた。抱きつくような動作なので、カニスはプエルをペロリと舐める。

「ふふふ、カニス、また明日ね」

 プエルはカニスを抱きしめてから、学校に向かった。

 翌日、プエルは少し不安だった。カニスがプエルに嫌われたと思ってこなかったら寂しいし、また元のように襲い掛かるようになめてくる場合は辛い。

 モップのようなカニスは走ってきた。プエルに飛びかかろうとしてぴたりと止まり、お座りで止まったのだ。

「わん!」

「おはよう、カニス!」

 プエルはカニスを撫で、抱きしめ挨拶をした。

 カニスもプエルになでられ目を細め、お返しに頬をなめる。

 学校に向かいながらかけっこしたり、楽しく道を行ったのだった。

 <おしまい>

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少年と犬 小道けいな @konokomichi

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