あの中国史でいちばん有名な『三国志』の時代から、『隋』がふたたび中華を統一するまでには実に400年近い開きがあります。
じゃあその間はなんだったのか、といわれれば、当講座で取り上げられている『五胡十六国時代』、加えて『南北朝時代』と呼ばれる、史上まれに見る混乱期だったということができます。
私は中国史が好きでこのあたりも調べたことがあるのですが、いやあほんとこの時代はカオスといいますかなんといいますか。
そんな時代についての講座で語り部をつとめる崔浩先生の軽妙かつ辛口な評価は、歴史の流れを知ってる人ならばうんうんと頷き、笑うことうけあい。
そしてこれまでこの時代のことについてよく知らなかった、という人への取っ掛かりともなってくれるでしょう。
特に第五席はよくぞここまでまとめなさったと感嘆せずにはいられません。
中国には秦王政の時代や三国志以外にも刮目すべき戦乱の時代があった――ということをなんとなくでもいいので味わってみてください。
個人的には当講座で「基本的に忘れてよい」とバッサリ切って捨てられている南朝側の解説、とくに侯景宇宙大将軍にツボってしまいました。
い、一時は己に従わない者はいないと豪語するほど圧倒的でしたから
それはともかく、私はそんな南朝側の、内輪もめで蝕まれていくどうしようもなさがとても人間臭くて、たまらなく好きです。
「五胡十六国時代」。
確かに他のキラキラした王朝、例えば漢や唐といった派手な統一王朝からすると、地味でスルーされがちな時代である。
「大漢帝国」「大唐帝国」と麗々しく称される漢や唐にひきかえ、大方の人にとっては「あったっけそんな時代?」「何だかごちゃごちゃしているって感じ?」、挙句の果てに「知っているよ、五代十国でしょう☆」とよく間違えられている不憫な子、それが「五胡十六国」といえる。
まあ、ワラワラ侵入してきた異民族の名は覚えにくいし、国はコロコロ変わるし、ねえ…。
だがしかし、この不憫ちゃんは、南北朝と合わせのちの隋・唐の揺籃ともなる重要な時代でもある。
この作品はそんな「五胡十六国」を崔浩先生がわっかりやすく、楽しく解説してくれる。先生の漢文調と現代語朝が絶妙にブレンドされた語り口と上手い譬えに乗っかって、ぜひこの時代を探検していただきたい。私は読んでいてその当を得た比喩に、何度かパソコンの前でフイた。
読了すれば、「漢から隋に華麗にスルー☆」なんて二度とできなくなることウケアイである。
また、末尾に付された「良質な歴史もので入り口を広げる必要性」について、私はヘッドバンギングよろしく頷いた。
「歴史ものってこんなに楽しくて醍醐味溢れているよ!」と人々に伝えたい気持ちは私も同じである。それは、私自身もかつて歴史への入口を指し示してくれた人々や良作に出会ったからこそ、いま歴史ものを読み書きしているわけで、何とか少しでも良い入り口を用意したいと試行錯誤中だからである。
ともかくも、
「五胡十六国はたべられるし美味しいよ♪」
そして
「五胡十六国、恐ろしい子…!」なのです、諸兄諸姉。