第4話 何も考えずに権威を敬うことは、_(:3」∠)_に対する最大の敵である
_(:3」∠)_
ある日、たかざわじゅんすけは女子大生のパソコンの画面に居た。
正確にいえば、それは一瞬の出来事であったのであまりよく覚えていない。
ただ、光ファイバーによって構成された伝送路に載っかる直前に、女子大生が、
「ああああっ!!送っちゃったああ!!」
と叫んだのだけは聞こえてきたので、彼女がなにかを誤送信してしまったことには、流石に気づいた。
たかざわじゅんすけは、即座に自分が原因かもしれないと冷や汗をかいた。送信されたのは、自分が打たれたと思った直後だったし、そもそも自分の存在が褒められた姿をしていないことぐらいはなんとなくわかっている。でももう遅い。既に伝送路の中に入ってしまっていた。彼は既にあられもない01の姿になっていたが、彼女の悲痛な叫びを聞いてしまった者として、何か残された道はないのか考えざるを得なかった。
彼はまず、自分を運ぶメールの宛先がどこであるかを読み取ろうとした。既に二進数になってしまった脳みそを絞って、ひたすらパケットの0 1を変換する。
"ac.jp"
大学だ。まだDNSへの問い合わせが完了する前で良かった。
あの女子大生の慌てぶりから考えると、行き先は教授か偉い講師かのどちらかの可能性が高い。ふとたかざわじゅんすけは、偉い先生の前に自分の横たわる姿が映し出されるところを想像してみた。やる気があるのかないのかいまいちはっきりしない自分の姿に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「せめてスーツでも着ていれば良かったのだろうか」
彼は少し後悔した。今まで何も考えずにそのままの姿で出世欲も無く生きてきたが、:)のように、社会の場にでても可笑しくない姿で市民権を得れば、こういうフォーマルな場でも恥ずかしい思いをせずに済んだかもしれない、そんな気がした。
いつかユニコードコンソーシアムに、スーツ姿でユニコード絵文字化依頼の面接にでも行ってみるのも良さそう。
とはいえ、いくらそんなことを考えても仕方がない。DNSヘの問い合わせが完了し、いよいよ本格的に運ばれる準備が整ってしまった。たかざわじゅんすけは懸命考え、再び思いついた。自分の部位の01を所々変えてしまえば、自分の姿は映らなくなるのではないかと。やるなら今しかない。早くしないと、目的地が分かったパケットは瞬く間にネットワークをかいくぐって目的地に辿り着いてしまう。
しかし、ここで奇跡的に彼の頭の中でストップを掛ける思考が閃いた。誤り訂正機能の存在だ。自分が01を適当に変えてしまったことで、例えば合計値あたりが予想値と反してしまったとしよう。その際、誤り訂正機能によって訂正されるか、もしくは再送要求が出されてしまう。前者はいいとして、後者の再送要求が出されてしまうとき、今自分が居るパケットはどうなってしまうのだろうか? 再送される際、果たして今の自分の思考は引き継がれるのだろうか?もしかしたら、もしかしたら、今の自分は、再送要求で新しく生成された自分であり、何度も01を変えてしまっているばかりに、何百回もループした自分が生成されているのかもしれないという懸念にまで辿り着いた。
たかざわじゅんすけは腹を括った。本当に思慮深く、権威があるところまで上り詰めた教授ならば、自分の存在の有無など全く気にしないであろうと信ずることにした。そして、自分より前に記された文章の重要性の方を大いに汲んでくださることを願った。
遂に彼は相手のメールサーバに到着した。
コーヒーブレイクを済ませた教授がコマンドラインにmailと打つ。
呼び出された、たかざわじゅんすけは、若干純喫茶のような古臭さと力強さを感じる画面上に恐る恐る寝そべった。彼は画面越しに教授のかけている分厚いメガネの存在を感じた。
教授先生は「ふむ。あれだね。」などと独り言を漏らしながら、英字で綴られた文章を読んでいた。
ふと、たかざわじゅんすけの部位で彼の目線が止まる。
たかざわじゅんすけは背中に汗が流れ、下半身が重たいのを感じたが、いつもよりもピシッと腕を伸ばしておいた。
「んん?この括弧内は文字化けだね。まぁ課題の実行結果が読めたから僕はいいけれど。」
たかざわじゅんすけは自分の姿を見た。
_(:3縲坂唖)_
sjis環境に感謝したのは、これが初めてかもしれない。
たかざわじゅんすけは考えた_(:3」∠)_ 三栖泉 @missizumi
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