第3話 疲労、睡眠、そして目覚めについての究極の疑問の答え

_(:3」∠)_

たかざわじゅんすけの顔文字人生は、他の顔文字と比較して穏やかだった。

✧。* (⋈◍≧∀≦◍)。✧*♡ のように努力してキラキラを演出する必要もなければ、

(☝՞ਊ ՞)☝のような変顔をして、煽りだと批判される芸人根性を持つ必要もなかった。

基本的に彼はジッと横たわっているだけで存在を許されることが多く、それは顔文字業界から見るとずいぶん楽な仕事であった。しかし、彼はいつも深く考え込んでしまう性格なので、まったく気楽に毎日を過ごした訳ではない。彼には彼なりの悩みが沢山あった。

例えば、彼は他の顔文字が「嬉しい」や「怒り」などのカテゴリーに分けられていくのを見ながら、自分は一体どのカテゴリーになるのかがさっぱりわからなかった。時々、顔文字サイト主に適当にカテゴライズされることがあったが、どれもバラバラだった。カテゴライズ結果に満足を感じたことはないのに、不満は感じてしまうのだった。


そもそも自身の名称が「たかざわじゅんすけ」であって、感情を表す言葉ではないのが原因だった。そのせいで、時にメッセージ主が何の用途で自分を乗せてくれたのか見失ってしまう。彼の悩める姿は、もしかすると、不必要に自分自身と現状、そして将来について悩む真面目な大学生に近いのかもしれない。彼らも時に、或る意味に於いて許されてしまっているその身分を持て余して悩む。


逆に、「眠い」のような明白な感情に自身が付けられた時は、随分と安心して居られる。ある日、とある男子大学生のツイートにお呼ばれした。その男子大学生は、「学科の人がやっているから」という理由でなんとなくツイッターをやっているよく居る一学生だった。フォロワーは学科の人々がほとんどで、フォローは学科の人々に少し有名そうな人を付け加えた程度、彼自身のツイート一つあたりに、ふぁぼが一つつくかつかないかで、なぜツイッターをやっているのか彼自身にもよくわからなかった。これは憶測だが、学科の後輩の女の子が時々TLに上がるので、なんとなくやめるという発想にまでには至らなかったのだろう。


「眠い_(:3」∠)_」

たかざわじゅんすけは、「めっちゃ楽だなぁ」と感じながら、眠いという文字の横に横たわった。床に寝そべるだけで、特段何もしていないが、今日一日の疲れが取れていくような心地がした。あまりにも床が気持ち良いので、ついウトウトしてしまいそうだった。顔文字は基本的に動くことはできないので、勿論目を瞑るのもよろしくない。たかざわじゅんすけにもそのくらいのことはわかっていた。しかし、「眠い」という文字の横で寝そべっていると、つい眠くなってきてしまうのだった。ウトウトしながら彼は考える。どうして人間は疲れるのか、睡眠という行為が普遍性を持つのか、そしてなぜ目覚めなくてはならないのか...。


「眠い_(¦3」∠)_」zzz

「眠い_(:3」∠)_」アッ

幸運なことに、男子大学生も日々の研究生活で大そう疲れていたので、その瞬間のPCの画面は見ていなかった。男子大学生は、何かを感じたかのように机にうつぶせの状態から起きあがり、広げたPCをぼんやり見つめ、何をするために自分がPC広げたのかすっかり忘れてしまったことについて考えていた。しばらくして彼は、たかざわじゅんすけの眠気と共鳴したかのように、

「もう寝るおやすみ(¦3[▓▓]」

とツイートして、ノソノソと布団を敷いた。


たかざわじゅんすけは暖かい布団に包まれながら、己の人生の幸福を噛み締めた。

男子大学生も寝るときぐらいは、幸福を感じてくれるといいんだが。

そんなことを考えていたら、学科の後輩の女の子がふぁぼをつけてくれた。朝起きたらちょっと嬉しいやつ。

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