第2話 愛くるしい彼の瞳に乾杯

_(:3」∠)_

たかざわじゅんすけは、或る日生誕した。一番有力な説だと、2011年の3月13日だ。もしこの説が本当ならば、東日本大震災から数日経った激動の時期に彼は生誕したこととなる。あの衝撃的な出来事が彼の生誕と関係があるか否かに関しては触れないでおくが、大事なことは、彼の存在が無かった時と存在があるいまが明確な線によって分けられることだ。数学のmodという概念が集合を分割するように、彼が居なかった世界といる世界が分けられた。そして、その性質は少なからず違いが現れてしまうに違いない。果たして彼が居なかった世界では、彼の代わりに一体何が存在していてくれていたのだろうか?


兎にも角にも、彼は誕生から五年も経たないうちに、様々な文脈の上に鎮座し、人々に愛でられることとなった。その床に寝そべったような、脱力しきった姿に可愛らしさを感じる人も多いだろう。実際、彼は回復体位を取ることによって脱力している。彼は脱力しつつも、メッセージの横に添えられた者としての任務を全うに果たそうという気があった。彼のコロンで描かれているこれ以上に無いぐらい円らな瞳は、注意深くメッセージを見極め、自らの役割を見定めるためのものだ。


彼はどんな時でも、頭上に添えられたメッセージを見ていた。それは、長文の末に付けられることもあれば、「眠い」のような単純なメッセージの末に添えられることもあった。彼は、自らに与えられた役割をできるだけ上手く表現できるよう心がけようとした。疲れによる全身の眠たさ、救助を待つ子犬のような愛くるしさ、低姿勢をとりつつも不敵な笑みを浮かべるあざとさ、またあるときは、伸ばした手から滲み出る諦めきれない何かだった。彼は、多くを望まない健気な性格だが、寝そべって生活しているばつの悪さから、与えられた役割を果たすことに忠実でありたいとつい考えてしまうところがあった。彼は、意外と真面目なのだ。

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