12:旋回する不条理へのカウントダウン
「手ぇ伸ばせ……っと」
「……面目ない」
「礼は蹴り付いてからにしてくれ。今は時間が惜しい」
屋内に聳え立つ緑の断崖絶壁。
配置される場所が致命的に間違っている物体の上で、ヒビキは今まさに壁を登りきろうとするティナ・ファルケリアの手を取った。
手から伝わる幽かな強張りを無視して引き上げ、大きな息を吐いて腰を降ろし、現在侵攻中の階層を改めて観察する。
――葉の少ない樹木と、背丈が高い植物で構成された草原か。それで乾燥してるから……まぁ、良いや。
「いつになれば最上層に辿り着くんだ」
「四天王の娘が知らない事、俺が知る訳ねぇだろ」
「……その言い方は止めろ」
「あぁ悪かった」
ティナの尺度では引っかかる発言をしたことに、軽い謝罪を返したヒビキは、先程展開していた思考も打ち切って進行方向に目を向ける。
肌を撫でる空気が大きく変じている事から予測はしていた。故に、そこに映る物に対する驚きはやや薄い。
不自然に聳え立つ壁を越えた先、ヒビキ達の目に映るのは、草原とはかけ離れた人工物の海だった。
砲撃を横っ腹に浴びて中層階がほぼ消失したビル。上層部を切り刻まれたのか、後天的かつ人為的な力で破壊された鉄塔。壁の下とは百八十度異なる舗装路には、竜によるそれと見紛う爆撃痕が無数に穿たれていた。
たった十数メクトルの壁を起点に、ここまで環境が違う事を自然の作用とするのは不可能。しかも、彼は似たような光景と既に他の階層で対峙している。
どのような手法でこんな風景が組まれたのか。そこに対する疑問が、ヒビキの内側を満たしていた。
「この島に集められた階層は、どこか別々の場所から持ち出されたのか……?」
荒唐無稽が過ぎ、通常なら一笑に付されるティナの推測。しかし、環境が極端に異なる空間が出鱈目に積み重ねられている理由として、現状一番説得力を持ちそうのはこれだ。
「悩んでても仕方ないな。行こうぜ」
首肯を視認したヒビキは廃墟へ踏み出し、そして五分も経たぬ内に足が止まる。
陽光と、何処からか差し込む別種の光を、白い金属の肌が受け止めていた。
損傷が目立つが、判別可能な形状を保持していた金属の正体は、二人が装備している物と同じ仕事をする存在、即ち剣だった。
「これは……」
追いついたティナが息を呑むが、それはヒビキも同じ。
一、二本なら、闘争に敗北して野垂れ死んだ探索者の遺物で話が終わる。数十本なら蓮華のような思考の下に突入した集団の墓場と言えた。
二人の眼前でうず高く積み合った剣は、算する事を放棄したくなる膨大な量で、私人私企業の力でこれを集めるには、それこそ酔狂を極めた大資産家云々という非現実的な説を採用する他ない。
――どっかの軍が来てたのか? けどこれは……。
目に付いた一本を拾い上げ、何度か振る。刀身の四分の一が失われている為、完調からは程遠いだろうが、それでも非常にスムーズに扱える。
破損した状態でこれだけ良質なバランスを保てているなら、完成品を振るえば良き戦果を楽に挙げられるだろう。
「刻印を見るに、これらの武器は一つの集団が所持していた物でしょう」
「刻印?」
突き出された短剣と、握っていた長剣。
ティナの指摘通り二本の柄には共通した、幾何学模様を複雑に組み合わせた印が彫り込まれていた。
知識を引っ繰り返して探すも、このような模様を持つ組織に覚えは無く、印を発見したティナもヒビキと同じ見解を示す。
「全貌は分かりませんが、この剣には変形機構がある。けれども、インファリス大陸の技術でここまでの小型化は出来ません」
「スクライルやヘイデンでも?」
「その二社、いえ、オルークやバニティエでも無理でしょう」
「なら別大陸か? 空飛ぶ船が造れるアメイアント大陸のどっかなら、作れるかもしれないぜ」
「だと良いですが……」
棘のある話し方を崩すまでに引っかかるのか、拾っては捨てる形でティナは武器の検分を継続。この手の分野で彼女に及ばないと理解していたヒビキは、彼女を置いて武器の山を登り、硬い感触を足裏に感じながら暫定的な山頂に辿り着き、そしてすぐに血相を変えて走る。
「おいアンタ、大丈夫か!?」
舗装路に引かれた白線の上、鈍色の甲冑に身を包んだヒトが倒れ伏していた。
『水無月怪戦団』でも、ユカリ達でもないと一目で分かるその存在は、現状敵味方の判別は出来ず、安易な接触は危険なのは間違いないが、異常に過ぎる空間で出会った存在という要素は、冷静な判断を奪い去るには十分だった。
呼びかけながら駆け寄り、触れようとしたヒビキを拒むように、甲冑が跳ね起き、機敏な動きで後退し立ち上がる。
重傷の線は消えたが、めでたしと言えない事はハッキリと分かる。
腹側がここで初めて見えた甲冑の胸部には、剣に刻まれていた物と同じ印が刻まれ、それを中心として、まるで血液のように黄金の線が全身を巡る。
破損が目立つ両腕部分から駆動音が生まれ、何かを探るように行われた手の開閉が止まった時、頭部にも光が宿り、そこでようやく音が生まれる。
「GGiG、GGhu。GGhGGa…………」
「あ?」
区切りから言葉を発していると推測は出来るが、意味をまるで解せない音を受け、ヒビキは首を捻る。
彼は知る由もないが、クレイトン・ヒンチクリフが対峙した存在とも全く違う音を奏でるそれは、眼前のヒビキに視線を固定し、頭部の小さな上下動を繰り返す。
音と不審な動きが止まった時、ヒビキの腹辺りまでの長さを持つ、ある文字のような湾曲を持つ剣と、大人二人の頭部に匹敵する打撃面の戦槌が掌の装甲から伸びる。
――確かに、こんな技術は世界に何処にも無かったな。けど……
「AAAAAAAAAAAAoouu!」
思考が纏まる前に、異形の二刀流を実現させた戦士が絶叫、そして動いた。
完全に後手に回ったヒビキは、振り下ろされた戦槌を辛くも回避。武器の山が崩落する激震を置き去りにして飛来した剣を、交差した両腕で受け止める。
金属同士が激しく擦れる音と火花で感覚を侵されながらも、隙間に映る敵が既に次を放つべく動き、自分が罠に嵌ったと気付いたヒビキの顔が歪む。
踵で地面を蹴る強引な動きで距離を稼ぎ、負傷を承知で足首を回転させ急所を逃がすが、それが精一杯だった。
擦過傷を生み出す暴風が抜けると同時に、肉が弾ける湿った音がヒビキの耳に届き、活きの良い魚の如く跳ねた赤が顔を汚し、背後で何かが突き刺さる乾いた音が生まれて消えた。
「ぐ……あぁッ……!」
装甲の胸部から打ち出された無骨な杭が、ヒビキの左脇腹を穿ち、拳大の穴を刻んでいた。精緻な剣術に乗せられた圧倒的膂力とは趣の異なる、原始的な痛みで沸騰する恐怖を押し込み力を解放。
ラフェイアに監視されている可能性を、ここで殺される恐怖が上回り、スピカを抜刀。
砂蛇の疾走の軌道を描いて迫る異剣を蒼の異刃が流し、ヒビキは前進するも、耳障りな駆動音を引き連れて、ヒトの可動領域を逸脱した角度から飛んできた戦槌を前に描いていた物を放棄。
「OOOOOOOu!」
「黙って死ねッ!」
真似をすれば関節が即死する挙動で背後から迫る異剣を、こちらも無理な動きで回避。
次いで『
「UoAAAddd!」
魔力で強引に加速した左脚が、狙い通り敵の膝を捉えた。
何度聞いても嫌悪感を抱く破砕音を発しながら吹き飛ぶ敵に対し、一切気を緩めずヒビキは追走。
――この程度で、死ぬ訳ねぇよなぁ!?
苦闘を重ねた彼は、相手の降伏や戦意喪失を信じない。
完全に解体しきるまで、戦いの決着は無い。そのような思考の元動き、トドメを刺すべく動いた彼の視界が臙脂色に塗れる。
「不味――」
未だ暗い影を残す事象に繋がる光景を前に僅かな、しかし致命的な躊躇の色がヒビキに浮かぶ。
それを振り払った彼の眼前で、剣の嵐が吹き荒れる。串刺しにされて死ぬ光景を幻視した時――
「『
二つの円刃が殺到する剣を押し流し、舗装路を砕きながらビルに激突。
数秒前に戻った視界の先で、ティナ・黄泉討・ファルケリアが真っ向から刃を絡める様が映る。好機と見たヒビキが砲撃を放ち、舞っていた塵芥が爆裂。僅かに届かず、敵が跳ねて消える。
「あれは一体なんだ!?」
「見りゃ分かるだろ、敵だ!」
怒鳴りながら、二人は完璧な連携で得物を掲げて殺人独楽と化して降下する敵を受け止める。鼓膜が消滅しそうな音と、骨が軋む暴力的な震動を二人に齎しながら展開される膠着は、独楽側が突如発光して終わる。
ティナが『
「んなのアリかよッ!?」
もう何度抱いたか分からない感情を吐き出しつつ、ヒビキは最小限の動きで凶刃を流す。ロクでもない仕掛けをどれだけ搭載しているか知らないが、本来の目的を考えると長期戦をやれる余裕はない。
雨が止んだ時、決着を付けに行くと腹を括ったヒビキが相手を睨む。そこで、彼は致命的に不味い光景を目の当たりにする。
防御手段が無いヒビキは逃げを選んだが、彼と異なり豊富な魔術を扱えるティナは、その場に留まって攻撃を凌ぎ、勝機を伺う事を選んだ。その選択は決して誤りではない。
ただ、相手の攻撃が異様に長く激しく続いている点を除けば。
既に『輝光壁』は破壊され、咄嗟に展開したであろう『
これが見えないのは、完全に視界を覆ったティナのみ。つまり、壁が破られた後に待ち受ける彼女の未来は、既に確定している。
認識するなり血が沸騰し、無意識でスピカを放り投げたヒビキの姿が消え、回転鋸は虚しく空を切る。『希灰絶壁』が破壊されたのは、その時だった。
「……!」
視界が開け、嵌められたと気付いたティナの顔から色が失せる。飛来する凶器は捌けても、降ってくる戦槌は質量的に止められない。悪足掻きで受けようとすれば、自分の周囲で舞っている物に解体される。
詰みに追い込まれた。
絶望で満たされた彼女の瞳に映るは、残酷な打突面と、蒼い光。
「――!」
「ど――」
ティナの眼前に突如現れ、彼女を突き飛ばしたヒビキの後頭部に、鉄塊が落ちた。
形容し難い重い音が、階層全体に響く。
頭部を砕かれて汚物と涙と涎を撒き散らし、正気を逸した呻き声を上げながらも、ヒビキは『
音の速度で射出された、竜をも穿つ水槍が装甲を削り敵は後退を余儀なくされる。安堵の息を吐いたヒビキの視界が、激しくブレる。
装甲を纏っていても致命傷に成る一撃を、生で受けたのだ。生きている事がそもそもおかしな話で、立っているのは最早現実の光景ではない。
汚物に塗れたティナがヒビキに駆け寄る。彼女の目から敵意が完全に消え去り、疑問と驚愕、そして一筋の涙。
「見捨てて攻めれば良かった筈だ! 何故――」
「るせぇッ! 一回決めた事を覆す? んなクソみたいな真似が出来るかッ!」
出鱈目の極致と言える叫びに、ティナの目が円を描く。
「私はあなたを殺そうとしていた。決め事など……」
「ゴミ捨て場の屑はお前と違って、一度曲げたら全てが腐る。それが理由だッ!」
肉体を強引に修復し、辛うじて戦える状態を作ったヒビキはティナを睨み、スピカの切っ先を敵が消えた方向へ向ける。
「今果たすべきは、お前と一番上まで行く事だ。……それを実現する為に、全てがある。だから、あの××××××を倒す事だけ考えろッ!」
叫びの残滓が空間に溶け、敵の再起動が見え始めた頃、ティナに生気と理性が戻り、瞳に闘争心の炎が灯る。二つの得物を構え、腰を落とす様を未だブレる視界で捉えたヒビキは強引に笑い彼女に倣う。
「俺の事を無視しても、長期戦は分が悪い。……行けるか?」
返ってきたのは無言の首肯。素っ気ないが、彼女の意思は十全に伝わってくる。
「――AAAAAAAAAAAGGhhhhh!」
朽ちたビルを破壊しながら、鈍色の装甲が突進。両の手で握る得物が打ちおろされ、階層に再びの激震。対峙していた二人は再び真っ向から迎え――
「付き合ってられっかよ」
撃たなかった。
スピカを投擲して宙に浮いたヒビキが、相棒を掴むと同時に抱えていたティナを放る。『
胸部装甲が淀みなく展開され、格納されていた砲口に臙脂色が満ちる。
直撃すれば死亡確実の炎の放射。機械仕掛けの兵器には失策も戦意変動に伴う失速も存在しない。故に国同士の戦闘で用いられるのだ。
だが、ティナの動きはそれよりも速い!
「『
東方の『十』を表す文字を描く形で、『緋譚剣コーデリア』と『滅竜刀・紫電』が烈風を纏い振り抜かれる。
形態が大きく異なる二つの刃から放たれた白と黒の光は、竜を形作って砲口を食い千切り、充填されていた炎を発動者に逆流させた上、得物を微塵に砕いて消える。
機械染みた苦鳴を零すも、敵は驚愕すべき耐久力と闘争心で、傷を即時修復。追撃として放たれたティナの斬撃を両手で受け止め、押し返しにかかる。
こうなれば先程と同じように殺せる。それ即ち、勝ちを得たも同然。
確信を抱いたかのように、全身を巡る光が増幅した敵の頭上が不意に暗くなる。見上げた頭部から、余裕の色が失せた。
ティナを放り投げた後、完全に気配を消していたヒビキが、ビルの上に立っていた。両手に握られるは『
破損が激しく、本来の役割を果たす事は到底叶わないが、使い道はあった。
「ぶっ潰れろッ!」
全身の筋肉を総動員し、顔を朱に染めたヒビキが両手を全力で振り下ろす。
一軒家に匹敵する大きさの金属塊が、狙い過たず敵の頭部に落下。凄惨な音を轟かせ、敵の頭部を奇怪な方向に曲げながら落ちた塊は、衝撃に耐えかねて砕け散る。
先刻のヒビキ同様、頭部を圧潰されながらも、崩れ落ちそうな敵は気丈にも膝を伸ばし、ティナの追撃を腕全体から回転鋸を引き出して受け――
「何度も同じ手を食うと思うな!」
『
「『
防御の為降下した金属板を紙屑に変え、赤衣纏う亜音速の刺突が敵の脇腹を穿ち抜いて空中へ追放。追撃に動きかけたティナは、両目に蒼を捉えて力の充填姿勢に移行。
戦闘続行の姿勢を見せ、また精神もそれに同調している。だが、これが杞憂に終わる確信が、ティナの中で巡っていた。
彼女の意思を受け取ったのかは定かではないが、ヒビキは飛んできた敵を真っ向から撃破にかかる。
殺到する回転鋸や刺突剣を捌きながらビルを飛び移り、確実に距離を詰める。
勝敗の天秤は既に結果を示しつつあるが、気丈にも敵は射出を更に増やしていく。上下左右全方位から、彼を撃墜せんと鉄の雨が降り注ぐ。
「タネが割れて、しかも負傷して速度の落ちたテメエの攻撃なんざ、ビビる訳ねぇだろッ!」
正面からの鉄槍を叩き落とし、後頭部を狙った鈍器を空中で旋り回避。高速で流れゆく世界にいながら、死角からの一撃を薙ぎ払いで的確に退け、数秒だけ着地した足場を蹴る。
混乱を示すように全身を明滅させる敵を一瞬だけ睨み、スピカが投げられる。
超高速移動で距離を零とし、残光を置き去りに最善の位置を手に入れたヒビキが、一切の迷いなく動く。
一撃目。戦斧を握る右腕を、肩口から斬り落とす。
二撃目。振り抜いた得物を跳ね上げ、左腕に捩じり込み機能を停止させる。
締め括りの一撃。引き抜いたスピカを左手共々弓のように絞り、一点へ叩き込む。
重苦しい音が階層に生まれ、地上のティナが息を飲んだ。
スピカが先刻展開した砲口諸共胸部を貫き、敵の体内から火花と軋り音を発生させながら、緩やかに湾曲した蒼の刃が煌く。
動きが止まったヒビキに接近していた武器達が、力なく地面に落ちて軽い音を立て、鎧から展開されていた物体が全て格納、もしくはその途中でだらりと垂れ下がる。
そして、敵の四肢が脱力した事を視認したヒビキはゆっくりとスピカを抜き、血液と思しき腐った海藻の臭いがする液体を浴びながら問いかける。
「テメエはどこの誰で、なんで俺に攻撃を仕掛けた?」
「Vuuuu……auuuoihhhhh」
予想通りと言うべきか、意味を解せない音を垂れ流すばかりで、問いに応じようとする気配はない。
消耗だけが戦利品という現実に苦い顔で肩を竦め、ヒビキは力の解放を止め背を向ける。ティナの元へ向かおうとした時、彼の腕が掴まれ、地面に引き倒される。当然、仕掛けた相手は一人しかいない。
――嘘だろ!? どこにそんな……。
敵の顔が大写しになり、混乱しながら勝ち筋を探すヒビキの顔が、すぐに恐怖以外の感情で塗られる。その変化に満足したのか、敵の身体はヒビキから離れて倒れ伏し、二度と動くことは無かった。
「……何が?」
「なんも分からねぇよ」
不安げに近づいてきたティナへの答えは、真っ赤な嘘だった。
死に全速力で向かっている事を示すように、途切れ途切れで雑音塗れだったが、敵が最後に残した言葉だけは、何故か明確に聞き取る事が出来た。
「なるほど。お前はシグナ『じゃない』方か。なら、お前も俺達と同じ道を辿るな」
――また異世界の勇者か。『じゃない』方ってのも引っかかるが……どいつもこいつも、分かるように物言ってくれ。
ぽつりと浮かんだ何かを振り払うように、彼らしからぬ常識的な地点で思考を止め、ティナに苦笑を返しつつ起き上がる。
「ちょっと休んだら行こうぜ。余計な時間を食ったから急ぎたいけど、まずは傷を治してからだ」
「……ええ、そうしましょう」
合意を得た所で、ヒビキは天を仰ぐが、目に映るのは生気の欠落した白で構成された天井だけ。
思考を巡らせてみても、進む退くどちらを選ぼうが、ロクでもない結末が待っていると、理性を超えた所にある本能の叫びで打ち消される。
得てしてこの手の叫びは当たる物で、おまけに進む方が危険が大きい事も予想は付いている。だが撤退してしまえば、蓮華達の物ではない、ヒビキ自身の目的達成も遠ざかる。
――進むしか、ないんだよな。
物理的でない方向に於いても、退路がとうに断たれている現実に相対し、目を閉じた彼を嘲笑するように、先刻まで対峙していた亡骸は、彼らがこの階層から姿を消すまで輝きを放ち続けていた。
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