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 ……ショッキングな出来事でしたね。火事はテレビやラジオのニュースでは毎日のように流れていて、かなり近い所にある存在なのかもしれませんが、聞くのと実際に親しい人の家がそんな目に遭うのでは大違いでした。上手くフォロー出来なかったのは歯痒かったです……。

 そして外国人の概念にも、この世界に来て始めて触れました。私がこの世界では外国人みたいなものだから、驚くなと言われるとそれまでなんですけれどね。

 

                  ◆


 翌日、ライラの家である『レフラクタ特技工房』の一室で夜を明かす羽目になったヒビキは、自宅の焼失から立ち直れぬまま朝を迎えていた。

「ライラちゃん、どうしたら元に戻ってくれるかな?」

「シンプルかつ難易度高い質問をするねユカリちゃん……」

「家なんか無くっても死にやしねぇよ。人間どうにかなってもどうにかして生きていけるモンだ。まぁどうしてもと言うならこのアカを吸って――」

「……何勧めてんですかクレイさん」

「駄目か? 俺が餓鬼の時は辛くなったらこれ吸ってる奴が沢山いたぞ」

「中毒性のあるアカシンなんか駄目に決まってんでしょ!」

 真面目な物と阿呆な物が混ざり合う会話を浴びても、ヒビキの硬直は解けそうもない。

 地下室に放り込まれていた物を除けば、帯剣していた『蒼異刃スピカ』と着ていた服以外は焼失する。全方位の大ダメージを被れば当然の反応ではあるが。

 ユカリが元々所持していた物を、地下室に入れていたのは最大のファインプレーと考える不謹慎野郎もこの場に一人いたが、流石に彼も言葉にはしなかった。

「ま、いいや。とりあえず今やるべき事はこっちの方だと思うがな。上手くすれば、結構な額をむしり取れると思うぜ」

 その一人にして何処までもドライな金髪男は、工房に運び込まれ無骨な姿を晒している発動車『ツインボウ』と、ベッドに鎖で縛り付けられている、特徴的な髭の蓄え方をしている男を指差す。

 大規模な爆発の中心にいたにも関わらず、両者に目立った傷は無い。カタギの者ならまず有り得ない現状に、疑問を感じた二人の視線を受けたクレイは、小さく肩を竦める。

「最低限は知ってるぞ。本人の口を割った訳でも無いし、何らかのやり口でツラを変えてる可能性もあるが、この顔と所持品やらから浮かんで来た輩は一人。ロザリスのコルタロを中心に動いてる運び屋、イザイア・ヴァンスライクで間違いなさそうだ」

「コルタロが根城ってガチの中のガチじゃないですか……。しかしなんで態々国境を跨いだんですかねぇ?」

「理由までは知らん。この国の誰かが、非合法なブツの運びでも依頼したんだろ。真実はコイツが起きた時に分かる」


 二人の間で理解が進んでいるようだが、ヒルベリア近辺の知識しかないユカリは首を捻るばかり。

 すると、クレイから「ロザリス最大の汚点にして、大陸随一の犯罪都市だ。ここが負け犬の集いなら、あっちは未だに勝ち続けてる連中の集いだ」と大雑把な説明が入った。

 気絶しているこの男も、相当に恐ろしい人間と理解しておくのが適当だろう、とユカリは結論を下す。となると、次に気になるのは追跡者が誰なのか、が疑問になる。


「やっぱ四天王とかだったりするんですかね?」


 ユカリと同様の疑問を持っていたのか、ライラが問いを投げるが、返って来たのは否定だった。

「断言出来んが、恐らくは違うんじゃないか。不法入国者が有名な罪人であっても、四天王がいきなり動く事は出来なかった筈だ。加えて言うなら、四天王は面と名前が相手に割れている時は、基本的に象徴の武器を用いるってのが一応のルールだ。今のだと、パスカが剣でルチアが長剣、後二人は双剣と弓だったな。ま、十年前の知識だから変わっているかもしれないけどな」


 二人の話を聞くと、追跡者は黒い影と形容すべき存在。クレイの話を聞いた後では、可能性の幅が無意味に広がった事になる。

 頭を抱えていると、クレイが突如としてヒビキの肩を引っ掴んで強引に立たせた。意図が理解出来ない為、ライラとユカリは目を丸くする。


「いつまでも灰になってても時間の無駄だろ? 少しでも益が有りそうな事をした方が有意義だ。てな訳で、マウンテンで稽古をつけて来る」

「えっ、でもマウンテンは……」

「ハイウェイが通行禁止だからゴミが少ない、だろ? コイツがこれから戦う相手を考えれば、遮蔽物が無い場所での訓練が一番大事なんじゃねぇかな」

 意味深な言葉を残し、クレイはヒビキを引き摺って工房を出て行く。残された二人は、暫し無言のまま、互いの顔と発動車、そして意識の無いヴァンスライクを眺める。

「……どうしよう?」

「まぁ、クレイさんの魔術での拘束だからまず破られる事は無いと思うんだけどねぇ。二人がどのくらい訓練の時間を取ってるか、ユカリちゃん分かる?」

「大体二、三時間くらいだよ。そのくらいにしとかないとヒビキ君が不味い事になるって、クレイさんが言ってた」

「じゃ、それまで作業でもして時間潰そうか」

 否定する要素も無いので、ユカリはライラに続いて別室へ移動しようとする。

 その時、自身の胸元から紅い光が発せられていると気付く。光の発信源は一つしかない。

 目にする度に元の世界を思い出させる、ネックレスに付けられた紅い石を見て、ユカリは沈黙する。

 この石が光を発すると、凡人の彼女には予想もしない出来事が起こる。そしてそれは、自分や友人達にとってどんな方向に転がるのか読めない。

 今までの事象を振り返ると、どうしても悪い方向に思考が向いてしまい、ヴァンスライクなる男をもう一度観察する。

 肌の色から察するに、そろそろ覚醒は近そうではあるが、石の光で急に覚醒する、といった恐ろしい事態は起こっていない。

「クレイさんの魔術もあるんだし、大丈夫だよね」

「ユカリちゃん! どうかしたのー?」

「大丈夫! 今行くよ!」

 命を張る不運につい先日直面したばかりだし、暫くは不運からは離れられるだろう。でないと、釣り合いが取れないじゃないか。

 楽観論的な視点で思考を着地させ、ユカリはライラの元へ駆けて行く。


                  ◆


 少し時間は遡って、ハレイドのギアポリス城内部での事。

 パスカ・バックホルツは書類と睨み合っていた。

「どうにもならんな。流石に発動車をもう一台、しかもあの仕様に作り替えるのはキツいか。……止むを得ない、俺の武器の新造計画を一度白紙にするか」

 暗澹たる表情で、自分の中で出した結論を発し、軽く机を叩いて頭を抱える。公僕として品格に欠けると、煩い者がこの場にいれば小言を言われたに違いない。

 しかし、自らの仕事道具が増える可能性が暫し潰える大事に対しては、小言など気にしていられないのが人情であろう。


「デイジーがまた一本新造したから、こんな事になっているのか……」


 デイジーやユアンも、残る一人の四天王ルチア・バウティスタのように、きちんと全体の予算を考えた武器や道具の要望を出して欲しいものである。

 切なるパスカの願いだが、叶う見込みが絶望的に薄いのが少し悲しい。

 諦めたように首を振りながら書類を鞄に放り込んで、パスカは部屋を出て書類を提出すべく歩き始めた。そして、十歩も歩かない内に遠慮がちに声を掛けられて足を止めた。

「あ、バックホルツさん。……少しよろしいでしょうか?」

「……?」

 呼び止めた相手は、先日出会ったヒルベリアの少年よりも更に幼い少年だった。掃除用具を片手に持っている故に、清掃員だと容易に推察は可能だが、彼が自分に対して何か用件があるのかと、少し首を捻る。


「陛下が至急執務室へ来て欲しい、だそうです」


 疑問が氷解し、同時に頭痛が襲ってくる。呼び出すのにこんな不確実な、そして何の罪も無い少年に対して、プレッシャーを与えるような方法を用いないで貰いたい。

「ありがとう。すぐに向かうよ。……これを持って行くと良い。皆には秘密にしておいてくれ」

「あ、ありがとうございます。……って、えぇっ!?」

 ポケットに突っ込んでいた、先日仕事の報酬の一部として渡された、売れば結構な価格になる小さな琥珀を少年に手渡し、驚愕の声を背中で受けながら、パスカは執務室へと向かう。

 『転瞬位』を使用しても良かったが、そこまで時間短縮の必要も無いと判断し、早足で、かつ近道を用いて向かうに留める。

 回りくどい正規のルートを通らなかった結果として、ものの五分でパスカは辿り着き、緊張を胸に扉を開いた。


「これでぇ、詰みよぉ!」

「あぁしまった。これで五連敗だ、デイジー君は強いね」


 聞き慣れた声による、緊張感が皆無のやり取りが耳に届き、パスカは脱力する。


「陛下、どのようなご用件でしょうか? そして何をなさっているのですか?」

「早かったね、パスカ君。いやね、デイジー君が買って来た『億万長者ゲーム』という物をやっていたんだよ」

「デイジーちゃんが五連勝しちゃったの! すごいでしょぉ?」

 遊戯の結果に傲然と胸を張る、同僚の少女を適当にあしらい、パスカは自らの主君に向き直る。

 白髪の混ざる暗い茶の髪に、銀縁の眼鏡。黒地に銀糸で複雑な装飾が施された祭服を身に纏った中年の男性こそが、現国王にしてパスカ達の雇用主、サイモン・アークスである。

 平常時には威厳なる物が絶望的に皆無のアークス国王は、その雰囲気に違わぬ言葉を発する。

「そうそう、呼び出した理由だね。ロドルフォ君が新しい『ディアブロ』が決まったから紹介したい、と送ってきてね。パスカ君にも同行して欲しいんだ」

 デルタ、とはロザリスの総統、ロドルフォ・A・デルタを指す。アークスとロザリスの二大国間の関係は、そもそも交流が皆無に等しくなっている周囲の大国、ノーティカに比べれば良好とは言えるだろう。

 それでもべったり仲良し、などの温い関係ではなく、現在でも領土の奪い合いといった争いが継続している。

 故に、このような突発的な呼び出しを額面通り受け取れる筈も無い。

 付け加えれば、先程から出てきている『ディアブロ』とは、アークス側で言うパスカ達四天王のような物。穏便に終わる図が想像出来そうにない。


「俺には同行を拒否する権限など有りませんが、本当に向かわれるのですか? 紹介、だけで済む筈も無いでしょうし、しかも『ディアブロ』が場にいるとなると……」

「危険です、パスカ君の次に言うのはこれだろう?」


 先を越されて閉口するパスカを他所に、サイモンは言葉を続ける。


「危険、と言ってもあからさまに断るのも角が立つし、パスカ君の腕ならば『ディアブロ』を相手にしても問題ないだろう? ……それに、危険を冒してこそ何か新しい利益を得られるかもしれないしね」


 サイモンは笑うが、こちらはまるで笑えない。この男と会話をする時は、いつもそんな調子であると、パスカは少しゲンナリする。

 しかし、彼の中で結論が出ている以上、反論は最早意味を為さない。沈黙したままではあるが、パスカは同意を示す首肯を返した。


「では急いで準備をしようじゃないか。発動車で行くつもりだけれど、パスカ君は運転出来たかな? 出来ないのなら私が……」

「出来ます。……陛下ご自身で運転しようなんて無茶はやめて下さい、色々と不味いですから」

「ねぇねぇ、デイジーちゃんはどうしたら良いのぉ?」

「デイジー君はルチア君と留守番をお願いするよ。彼女の娘さんと遊ぶのも悪くないよ」

「姫様と遊ぶなんてつまんないぃ……」

「少しの間だけだから、やってくれないかな? お土産も沢山買ってきてあげるよ」

 緊張感に欠けた会話を展開していく二人を見て、パスカは頭痛を覚える。

 相手の提示する本題など、大体想像出来てしまう上に、『ディアブロ』に選ばれるような存在が平和主義などまず有り得ない。命のやり取りに発展する可能性を考慮しておく必要があるだろう。

 かと言って、サイモンは自分以外の者を同行者に加えると口にしないし、準備の段階に於いても翻意する事は有り得ない。

「……」

 安寧の日々は、自分が四天王である限り訪れない。仕方ない事とは言え、少しだけ感じる理不尽さに、パスカは溜息を吐いた。


                    ◆


「ごッ……!」


 珍妙な苦鳴を上げながら、ヒビキは無様に叩き付けられ、腹部に残る痛みで大地を転げまわる。

 起き上がれないヒビキとは対称的に、穂先に布を巻いた『紅流槍こうりゅうそうオー・ルージュ』を突き出した姿勢のクレイは、汗一つない、無駄に爽やかで年齢不相応な笑顔を浮かべていた。


「よーし、今日はここまでだ。とりあえず、術技の完成おめでとう、だな」

「一発仕掛けるごとに腕の肉が引き千切れるのは、完成と言って良いのか……?」

「これを使う時は『魔血人形アンリミテッド・ドール』としての力を解放した状態で戦っている時だろ? 負傷してもすぐに再生されるから問題ないさ」


 近頃のハイウェイのトラブルで、ゴミが極端に少なくなっているマウンテンで、矢鱈と物騒な会話が交わされる。

 二人の立つ地面には無数の刻印が刻まれているが、地割れと見紛う程に深い所まで抉り取っている故に、その瞬間を目撃しなかった者は、ヒビキが作った物だと認識は出来ないだろう。


「使い所はかなり慎重に選ぶ必要はあるが、『泡砲水鋸バボルム』と抜刀術技が安定して使えるようになったのはデカいぞ。これで……浮かない顔してるな。どうした?」


 戦いを生業として生きる者にとっては嬉しい瞬間であるにも関わらず、暗い表情をしているヒビキに対し、クレイは当然疑問を感じて問いかける。


「……二週間でやっと二つ、だよな。……俺って才能無いのかな」

「何いきなり卑屈になってんだ」

「……おやっさんは天才だった。魔力や剣技は俺のこの義手や義足、脳にも詰め込まれている。それにしちゃ色々と遅すぎる気がしたんだ。このままじゃ……」


 育ての親にして、ライラの父ノーラン・レフラクタと共に『魔血人形』へと改造してヒビキの命を繋いだ男、カルス・セラリフは、ノーティカ屈指の戦士であったとは、最早周知の事実だ。

 彼の残した書物に従って、クレイもヒビキの指導を行っている。たった今安定して用いる事が出来るようになった術技も、その中の一つだ。

 魔力さえもカルスの物を用いているヒビキが、彼の事を意識するのは無理もないと思いつつ、クレイは少年の肩を叩く。


「カルス・セラリフは生まれながらの兵器と言われた男で、四天王でさえも、一対一では戦うなと通達が出されていた。追い付ける奴なんてそうはいない。本格的な戦闘訓練を始めたばかりのお前は意識するな。……破滅するだけだぞ」

「……」

「それにアレだ。一人だけでユカリ君を守ろうと考えるな。あの子もそんなに弱い子でもないし、お前一人が身を砕いてどうにかする事は望んじゃいない。一人じゃ、何処へ行くにも限界にぶち当たる。落ち着いて周りを見て、使える者は全部使え。俺が言えるのはそのくらいだ」

「元・四天王のアンタが言うと説得力がないぞ」


 反論を予測していたのであろうクレイは、ヒビキのに返しに苦笑しながら、すぐに言葉を投げ返す。


「四天王に夢を見過ぎだ。一騎当千を常に実現し、一人だけで高みに登り続けたのは先代でも隊長だけだぞ。俺を含めた三人は寄り集まってどうにか隊長を追いかけていただけだ。だからまぁアレだ、お前もフリーダとかと競い合って強くなれよ。俺も協力するから」


 先程ああ言ったものの、クレイの言葉には、自分では覆せない程の説得力を感じ取っていた。彼には確かな才能と人生経験があり、それが発言の裏打ちとなっている。

 今の自分がどれだけ屁理屈を捏ねても、それは世界を知らない者の戯言。

 ヒビキは大人しく彼の言葉を受け入れるしか無いが、とある事を思い付く。


「じゃあさクレイさん、アレを見せてくれよ。いつも自慢してるだろ?」

「お前人の話聞いてた? 一足飛びで……」

「そういう意味じゃなくてさ。単純に興味があるし、肉体の変質についての魔術なんて、手本になるのがいないんだよ」


 肉体の変質、の単語を耳に捉え、何故かクレイの表情が青くなる。何か不味かっただろうかと、ヒビキは首を捻るが彼に思い当たる節はない。

 暫くの間、原因不明の葛藤を繰り広げていたクレイだったが、ゆっくりと顔を上げ、ヒビキに問いかける。


「真似しないよな?」

「出来る訳ないだろ。カラムロックスとの戦いの後から、肉体の変質が出来なくなってるのに」

「……人に喋ったりしない?」

「喋ってどうすんだ。アンタの技は、口頭で聞いただけで再現出来るような、安い物じゃないんだろ?」

「……仕方ない。じゃ、あの屑鉄の塊へ行っとけ」


 クレイが指差したのは、ここから三十メクトル程度離れた所にある、質が悪過ぎる為に、塵喰いさえも手を付けない物を寄せ集めたオブジェだった。

 ヒビキは首肯してマウンテンを駆け、すぐに指定された場所に辿り着いて、声を張り上げる。


「着いたけど、ここからどうするんだ!?」

「おーし分かった! ちょっと待ってろ」


 手を振った後、クレイは自らの武器である紅流槍オー・ルージュを地面に突き立て、目を閉じた、ように見えた。

 彼の身体の周囲に、小さな紅い光球が発生し、その数はすぐに数えきれない程多くなる。


「それじゃ行くぞ。目の力は解放しとけ。そんで……『紅雷崩撃・第一階位ミストラル』!」


 宣言と同時に、クレイの身体の形状が完全に崩壊。その後一条の紅い光球に転生し、それが槍状に変形して空に消えた所までは視認出来た。


「うわっ!」

 

 転瞬、耳と目が潰れそうになる閃光と轟音、そして衝撃波によってヒビキは吹き飛ばされる。


 散々転がって立ち上がった時、視線の先にあった筈のオブジェは完全に消し飛び、底が見えない大穴だけがそこにあった。


「……底は何処にあるんだ?」


 単純な推測として、この大穴を作ったクレイは底にいる筈である。だが、その姿『魔血人形』の力の解放によって、強化された視力を以てしても捉えられない。

「なぁクレイさん、アンタ何をしたんだ!?」

 声を張り上げて問うと、『竜翼孔ドリュース』による翼を背につけたクレイが、穴の底から飛び出てくる。態々『竜翼孔』を使うほどに深い所まで削り取ったのかと、只々驚愕するしかない。


「原理はそんなに難しくない。稲妻を地上でやってるだけだ。自然の稲妻はほんの一瞬しか放電しないが、魔力でそれを引き延ばせば、今みたいな事が出来る。ま、身体を稲妻そのものに変換するから、結構リスクはデカいけどな。真似はするなよー」


 真似したくとも、今のヒビキには不可能と断言出来る。身体を完全に分解し、それを一点に収束させて突撃、そして寸分の狂いもなく復元。

 ここまでやれるにも関わらず、衰えたロートルを自称しているのは、性質タチの悪い冗談にしか思えない。


「俺は最初これしか出来なかったから、結果として精度が上がって実戦に使うようになっただけで、こんなモンは四天王の中でも邪道の中の邪道だ。一度分解した身体が戻らなくなるリスクも有るしな。まあ何と言えば良いかな。将来的には、お前もこの位の威力の技は使えるようになるから安心しろ。それじゃ、今日はここまで!」


 一応の励ましの言葉を残し、クレイはマウンテンから飛び去って行く。呆然と、クレイの残した痕跡を見つめ続けていたヒビキだったが、ある事に気付く。


「これ自体は出来なくても、似た様な物なら組み込めるかもしれないな」


 たった今、安定して使えるようになったのは、先日のカラムロックスの影との戦いで、ヤケクソで放った物を改良した抜刀術。当てる事さえ出来れば、大体の相手には致命傷となり得る威力が有る筈だ。

 だが、その当てる事が難しい相手と、これから対峙する可能性は決して低くない。

 故に、何らかの変化は必要だ。そして、たった今クレイがヒントを示してくれた。

 思い付きを結実させるべく、暫くの間、ヒビキは一人でスピカを振るい続けた。


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