第4話晃のファッションブランド

 マンション屋上から自宅のトイレへ行ってようし、再び戻ると、翔太は酔っ払って眠っていた。左肩を下にして、身体からだを丸めるようにして横になっている。頭は鉄条網てつじょうもうをはさんで市街地しがいちを向いていた。ちょっと位置がずれるだけで地上10階のマンション屋上から落下すると思うとドキリとした。呼吸に合わせて胴体どうたいかすかにふくらんだりちぢんだりしている。

風邪かぜ引くぞ」

 翔太は熟睡中じゅくすいちゅう

 翔太のそばに空のワインボトルが三本とワイングラス二つが散乱さんらんしている。ポリバケツの中の氷水こおりみずもすっかりなまぬるい液体としてしまった。あとはつまみの食べ残し。

「あ〜あ」

 俺は鉄条網に手をつきビルを見下ろしながら、大げさな声を出した。

 翔太は気づかない。

 

 翔太……翔太よ、同じ大学のあきらという女を知っているか。かなりのやり手女子だ。その晃が就活を一切せず独自のファッションブランドを建ち上げた。今、このハロウィンの時期に女性用コスプレアイテムを販売して荒稼あらかせぎしている。翔太よ、おまえはどう思う?


 先日、俺は晃からおまえのことをリサーチされたよ。晃は妙に鼻のくおまえに興味があるらしい。彼女がファッションビジネスにおまえをみたがっているのはミエミエだ。


 翔太よ、近いうち、絶対に晃からおまえにアプローチがあるだろう。もしそうなったら、どうする?


 ははは、残念。晃とおまえが知り合う前に、俺が先に……彼女を味見あじみをさせていただく。俺にはミナミという恋人がいるが、日本のハロウィンにまんまとかれてるだけの女なんてつまらんよ。


 果たしておまえに幸運はおとずれるだろうか?


 俺は翔太の寝顔を見ながら口には出さずにひとりごちた。


 マンション屋上のコンクリートの地べたが、黒の点々におおわれてゆく。とうとう雨が降ってきたのだ。そして気温もさらに下がってきた。厚い雲のせいで夕焼けも見えない。屋上から見下ろすと、夜の準備を始める街にはあかりが見え始めた。


「翔太、起きろ。雨が降ってきた、風邪引くぞ」

 俺はうたげのあとを簡単に片づけ、寝ぼけている翔太を起こした。

「ああ? 身体からだだるい」

 何も知らない翔太。


 冷たい雨が降る中、俺は、翔太と俺の部屋に避難ひなんしながら、明日からの彼を心配した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハロウィンの俺たち Jack-indoorwolf @jun-diabolo-13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ