第2話 ハロウィンの夜
「どうしてもひとりで行くつもり?」
「だってコン太もひとりで行ったんでしょ?だったら僕だって」
「そっか、頑張れよ!」
コン太はポン太のその訴えをすぐに聞き入れて彼を気持ち良く見送りました。そのまなざしを受けながらポン太は一路街へと向かいます。
最初から化けて行ったらどこかでボロが出るかも知れません。なのギリギリまで狸のまま人目につかない山道を懸命に走ります。やがて街が見えるくらいになると、そこでやっとポン太は人間に化けて、少しばかりのお金を使ってそこから電車に乗って街に向かいます。
都会に着くとそこはポン太の知らない世界でした。ポンタが街に来たのは実は今日で2回目なのですが、今日の街は普段とは全く違った感じですっかりハロウィンの雰囲気で満たされていたのです。
ポン太はコン太に言われた通りに人間の子供がお化けのコスプレをしたように化けていたのですが、彼の話の通りに今夜の街はそんなコスプレをした子供達で溢れていました。
「うわ~ハロウィンってすごいなぁ~」
すっかりお上りさんになったポン太が街の雰囲気に圧倒されていると、早速おねーさんが彼に声をかけて来ました。
「まぁ!かわいいおばけさん!」
「え、えっと……」
突然話しかけられたポン太は焦ってしまいます。こんな時にどうしたら良いか事前にコン太にしっかりレクチャーを受けていたはずなのですが、心の準備が出来る前に話しかけられた彼はすっかり頭の中が真っ白になってしまっていたのです。
そんな何も出来ないでいるポン太におねーさんは優しく微笑んで話しかけて来ました。
「ふふ、分かってる、はいお菓子」
「うわ~有難う~」
おねーさんからお菓子を渡されて彼はお礼を言ってそれを丁寧に両手で受け取りました。この時、ポン太はコン太の話をやっと信じる事が出来たのです。
おねーさんから貰ったお菓子を大事そうにポケットにしまうと、彼はお菓子をくれそうな人を探して街を歩き回りました。
すると、ポン太のように仮装をした子供達が大人相手に何か言ってお菓子を貰っている、そんな場面に遭遇します。
「トリックオアトリート!」
子供達はそう言って大人達からお菓子を貰っていました。彼はそこでやっとコン太から教えられた事を思い出します。
「そうだ、ああ言うんだった……」
合言葉を思い出したポンタは早速それを実践しようとしました。その時、早速お菓子をくれそうなおばさんに遭遇します。善は急げでした。
「ト、トリックオオアトトリートッ!」
「まぁ可愛い!はいお菓子」
言葉は思い出したものの、緊張の余りポン太は合言葉をかみまくります。それでもそれが良かったのかおばさんはちゃんとお菓子をくれました。
それで自信をつけたポンタは街行く大人達にお菓子をねだりまくります。出会った大人達からもれなくお菓子を貰って彼はご満悦でした。
しかし、あんまり夢中になっていてポン太は自分の
上機嫌な彼が街を歩いていると、こんな声が聞こえて来ました。
「すげえ、あの子しっぽまでリアルに作ってる!」
「ええ……っ!」
そう、いつの間にかポン太はしっぽを出してしまっていたのです。どうやらずっと気合を入れて化けていたので化け続ける体力がなくなっていたようでした。こうなってしまっては完全に元の姿に戻ってしまうのも時間の問題です。
焦った彼はすぐにその場から逃げ出しました。悲しくて情けなくてどうしようもない気持ちが頭の中を支配します。気が付くとポンタは目に大粒の涙を浮かべていました。
「うわーん!」
泣きながら走り去る彼でしたが、コスプレのおかげで誰もそれが狸だと気付く人はいませんでした。走って走って無我夢中でポン太は地元の森まで戻って来ました。
そうしてその事を信頼して送り出したコン太に泣きながら報告します。
「で?結局焦って折角貰ったお菓子を放り出して逃げて来ちゃったと」
「ごめん、僕がひとりで行くなんて言っちゃったから……」
全てを話して泣き終わった彼は自分の行動を反省しました。
もし2人で街に向かっていたなら、お互いに何か不具合が起こった時に注意しあって、その事態にうまく対処出来ていたかも知れません。
結局ポン太はお菓子を貰いに行ったのにそのお菓子をひとつも持って帰る事が出来なかったのです。その悔しさは彼にしか分からないものでしょう。
淋しそうにしているポン太にコン太は優しく声をかけました。
「これ、お前が貰ったお菓子だろ……」
「えっ?どうして?」
コン太が差し出したのは確かに街でポン太が大人達から貰ったお菓子でした。彼は意味が分からずに混乱します。困惑するポン太の顔を見てコン太はすぐに種明かしをしました。
「実は俺も同じ場所にいたんだよ、心配だったから」
「え……っ?」
そう、実はコン太はポン太が出発した後にこっそりバレないように後をつけていたのです。それでそっと彼を見守っていました。
やがてポン太の変化がバレそうになった時、コン太はすぐにフォローしようと彼に近付こうとしていました。
けれどいきなりポン太が逃げ出してしまったので、仕方なくコン太は彼が放り出したお菓子を回収して、それから先回りして森に戻って来ていたのです。
「だから泣くなって、一緒にこのお菓子を食べようぜ」
「うん、好きなの食べて、僕は残りでいいから」
「ったく、分かったよ」
そうして2人は仲良く戦利品のお菓子を分け合って食べました。お菓子の美味しさもあってこの夜は2人にとって一生忘れない思い出になったのです。
次の日、大人達に黙って街に出た事がバレて2人はお互いの両親からこっぴどく叱られました。その後で2人は森の道でばったりと出会います。
最初に声をかけたのはポン太の方でした。
「今日食べようと思っていた残りのお菓子、全部没収されちゃった」
「こっちもだよ。大人ってずるいよな!」
2人はそう言い合って笑います。気が付けば森の冬はもうすぐそこまで来ていました。2人もそろそろ気持ちを切り替え、迫りくる厳しい冬の準備に取り掛かからなくてはいけません。
季節が秋から冬に変わるその頃の小さな冒険のお話です。
(おしまい)
ハロウィン祭りと森の子供達 にゃべ♪ @nyabech2016
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