ハロウィン祭りと森の子供達

にゃべ♪

第1話 お菓子を貰えるお祭り

「どうだい、すごいだろ~」


 秋も深まったある日、子狐のコン太は沢山のお菓子を友達の子狸のポン太に見せびらかしていました。森の住人である2人にとって、人間のお菓子は滅多に食べられない幻のご馳走です。大人からは人間に近付いちゃけないってきつく言いつけられている為、ポン太は何故コン太がそんなにお菓子を持っているのか不思議でなりませんでした。


「すごい!どうしてそんなにお菓子を?」


「ポン太はそろそろ化けられるんだっけ?」


「ば、馬鹿にするなよ!この間お父さんに教えてもらってもうバッチリさ!」


 この時、ポン太は少し強がりを言いました。化け方は父親から教えて貰っていたものの、まだ数回しか試していなくてさっぱり自信はなかったのです。

 そんなポン太の言葉を聞いたコン太は、少しからかい気味に自分がお菓子を手に入れられたからくりを話しました。


「このお菓子は人間から貰ったんだよ。子供に化けたらバッチリだった」


「子供に化けただけでお菓子が?そんなうまい話聞いた事がないよ!」


 子供に化けて人前に出ただけでお菓子が貰える――そんなうまい話、ポン太は今まで聞いた事がありません。だからこのコン太の話も全然、全く信用しませんでした。うまい事言って騙しているんだろうと思ったのです。

 きっとお金?って言う物と交換出来るやつを使ってそのお菓子を手に入れたんだろうと。ポン太は森の大人から人間に物を貰うにはお金が必要だとさんざん教えられて来ていました。


「ははぁ~ん、ポン太は知らないんだなぁ~」


 ポン太の訝しむ態度を見てコン太は彼を馬鹿にします。馬鹿にされたポン太は気を悪くしました。


「何だって?何を知らないって言うのさ!」


 怒ったポン太を見てコン太は仕方ないなあと言う感じで説明を始めます。


「いいかい?人間のお祭りにハロウィンって言うのがあるんだ」


「ハロウィン?何それ?」


「ちょうど秋のこの時期なんだけど、人間の子供達が仮装して大人にお菓子をねだるお祭りらしい」


 コン太からハロウィンと言う人間のお祭りの事を聞いてポン太は気付きます。


「あっ!」


「そう、その子供達に混ざっちゃえば俺達でもお菓子が貰えるって事なんだよ!」


 このコン太の言葉に思わずポン太は心の中でな、なんだってー!と叫びました。今人間に化ければお菓子をもらい放題!こんな美味しい話はありません。

 興奮したポン太は思わずコン太に尋ねます。


「ぼ、僕でも大丈夫かな?」


「普段なら完璧に化けないと怪しまれるだろうけど、この時期は多少化け方が下手でも仮装だって思われるから大丈夫!」


 コン太はポン太の不安を払拭するようにドヤ顔でサムズアップをしながら言いました。この話を聞いて俄然ポン太はやる気が出て来ます。


「じゃあ、僕も人間に化けてお菓子を貰いに行ってくるよ!」


「ちょっと待て、一応俺が見てやるよ。いくら化けるのが下手でもいいって言っても途中で元の姿に戻っちゃったらマズいし」


「うん分かった、じゃあそこで見てて!」


 コン太のアドバイスを受けて早速ポン太は人間に化けました。ポンッ!という音と煙に包まれてポン太は人間の姿に変わります。

 しかしその化け方は余り上手とは言えないものでした。何しろ、耳も尻尾もそのままで一番簡単な髭すら隠せていません。


「これじゃあ流石に駄目だよ」


 その化けっぷりを見たコン太は当然のようにダメ出しをします。そのダメ出しにポン太はすっかり自信をなくしました。


「やっぱり僕なんか駄目なんだ……」


 その淋しそうなポン太の顔を見て、コン太は彼のやる気を出させるように執拗なほどに迫ります。


「え?諦めるの?お菓子だよ?お菓子が欲しくないの?美味しいお菓子だよ?いいの?」


「お菓子は欲しいよ!」


 あんまりしつこく迫られたポン太はキレ気味に叫びました。コン太はそこで彼に提案します。


「じゃあ練習しようよ!きっとうまく化けられるようになるよ!」


「でもその前にお祭りが終わっちゃう……」


 コン太に練習を勧められたポン太は間に合わないとその誘いを断りました。彼はこのお祭りがすぐに終わってしまうものだと思っていたのです。

 だけどそれも仕方のない話でした。大抵の日本のお祭りは長く続いても3日程度。ポン太がうまく化けられるようになった時にはもうお祭りは終わっている、そう思い込むのも当然の話だったのです。

 そんな勘違いを知ったコン太は彼を励ますようにサムズアップしながら答えました。


「大丈夫!ハロウィンの本番は来週の月曜日なんだ!まだ時間はあるよ!」


「そうなの?じゃあ特訓する!付き合ってくれる?」


「勿論だよ!」


 それからポン太の化け修業の日々が始まります。大人には内緒の計画なので、うまく行ったかどうかの判断はコン太が行いました。2人の秘密の特訓は彼らが遊ぶ時間を全て費やして行われます。


「うりゃ!」ボワン!


「まだまだ!」


 最初の頃、ポン太は何度も人間に化けるのですが、どうしてもうまく人間に化けられません。コーチのコン太はかなりのスパルタで何度も彼にダメ出しをします。

 ポン太がヘタレそうになると、お菓子は欲しくないの?とうまく彼のやる気を引き出すのもまたコン太の役目なのでした。


「それっ!」ボン!


「もうちょい!」


 次の日、何度も何度も化けていたので少しずつポン太もコツを掴んできました。スパルタのコン太も彼が上手に化けられるようになる度に褒めるのを忘れません。

 おかげでポン太も何度も挫折しかねながらも、ギリギリでモチベショーンを下げずに済んでいたのでした。


「たあっ!」ポン!


「惜しい!」


 ポン太が化け修行を始めて3日経ちました。秘密の特訓はまだ大人達にはバレていないようです。コン太の厳しい指導のおかげもあって、彼の化け方も段々と様になって来ました。

 この時点でも見た目だけなら十分通用する所まで来ていたのですが、念には念をと言う事でコン太は更に高い精度をポン太に求めます。

 そうしてその日も一日中彼は人間に化け続けたのでした。


「ほいっ!」ポワン!


「うーん、まあいいかな……」


「やった!」


 修行を始めて数日、ハロウィン当日になってやっと厳しいコン太先生からのお許しが出ました。頑張りが認めれたポン太は元気良くバンザイをして喜びます。

 早速彼は街に出かける準備をしました。森から街までは車でも2時間はかかるのです。子狸の足で行くならもう時間は余り残されていません。何しろハロウィンは今日の夜までなのです。

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