魔王様の部屋でエロ本を見つけたんだがどうすればいい?

テン

第1話

「まあ、魔王様も男だからな…」

 副官Aが数冊のエロ本を抱え苦笑する。

「これ人間物だろ。モンスターじゃないとは上級者向けだな」

 副官Bは本をぱらぱらとめくる。一向にそそる気配はない。

「人間にもモンスター物とやらで興奮する輩はいるらしいからな」

 副官Aも内容を確認する。一応他の数冊も確認する。そして二人の顔が青ざめるまで時間はかからなかった。

「このエロ本……」

「……だよな」

 念のため他のエロ本も確認する。そこにあった本の全ての内容が、男性が女性に性的に襲われるという話であった。

「これって逆レ●プ物ってやつだよな?」

「これも、これも、これもそうだ……。――まさか」

 全てのエロ本が逆レイ●物と気づき、二匹はある結論に至った。

「やはり……」

「ああ……」

「「魔王様は、逆●イプ願望があるっ!!」」

 ここで魔王の紹介をしておこう。見た目は人型。角、牙、大爪、羽、尾が有る。身長は二メートル五十センチ。毒も薬も魔法も効かない。笑うと可愛い。鉄をも粉砕する筋力。左手だけで大陸を海に沈めることが出来る。美食家。酒豪。エトセトラ、エトセトラ……。

 簡単に言えば性的に襲うなど不可能である。

 二人は魔王の姿形を思いだし、ため息をついた。

「魔王様、実は草食系だったのか」

「そういや、結構ウブな所とかもあったような」

「無理じゃね? 魔王様強すぎるし、相手は人間じゃないといけないとか」

「可哀そうな性癖持っちゃったんだな」

「しかし、世話になってる身、この夢叶えさせてあげたいな」

「無理無理。魔王様に敵う人間なんていないぞ?」

「……いや、待て。勇者はどうだろうか? 奴らは強いぞ」

「はぁ? 勇者って男だぞ? 魔王様がそっち系だったら、オレ魔王軍辞めるぜ」

「だから、女勇者を作り出せばいいんだよ」

「その手があったか!!」

「やるか?」

「やろうっ!!」

 こうして二匹のモンスターにより、

『魔王様の欲望成就~女勇者プロデュース大作戦~』

 が密かに決行されることとなった。


作戦その一。

「まずは男尊女卑の考えを撤廃させよう」

「勇者=男という概念も男尊女卑に基づくモノだからな」

「女性が社会進出しやすくしよう」

「まずはオレ達モンスターから始めて、その考えが広まったら、変異能力のある奴を人間に化けさせて、人間達にも広めていこう」

「具体的に何をしようか?」

「女性にも権力を持たせるべきだと思うんだが」

「権力か。じゃあ、四天王の一人を女性に変えるとかどうだ?」

「そうだな。一人クビにして、サキュバスを入れよう」

「その人選はお前の趣味か?」

「嫌か?」

「尊敬に値する」

 この作戦には二十年費やした。幸いモンスターは寿命がとても長い。人間の約二十倍である。作戦開始十五年目から女性の勇者がちらほら確認されるようになったが、数はまだ圧倒的に少ないので、これといった成果はまだ出ていない。

 魔王の性癖変わらず。


 作戦その四。

「女勇者が出現しやすいように、男を減らそう」

「採用」

 後に『百年戦争』と呼ばれる、モンスターと人間による大規模な戦争の幕開けである。多くの男の兵士とモンスターが、魔王の性欲を満たすため命を散らした。

 人間の男女の割合は、男性三、女性七となった。この作戦は功を成し、多くの女勇者が現れた。

 魔王の性癖変わらず。


 作戦その五十七。

「そもそも強くてHな女勇者を育てるための環境にしなければ」

「成程。どこも均等に強い奴らを配置しているからな。弱いモンスターから強いモンスターへと、自分の成長にあわせて戦えるように配置転換しておくか」

「そうだな。後は、Hの為にオークと触手系のモンスターを置いておこう」

 十年後、自分のレベルにあわせて戦えるので、女勇者がかつてないほど増加した。しかし、オークと触手系モンスターは〝望んでいた〟仕事はしなかった。彼等にもプライドがあったようだ。

 魔王は、半分人間で半分モンスター物に興味を持ちだしたので、そういう本が出回らないよう副官は抹消を開始。

魔王の性癖変わらず。


 作戦その六十八。

「各地に宝箱を置こう」

「中身は?」

「回復薬」

「人間達に有利なモノじゃないか」

「当然、魔王城にも置いておく」

「なんで?」

「魔王城に置くのは媚薬だ。いつもの回復薬だと勘違いして飲んでしまい、そして魔王様のところに着くころには、うふん、となるワケだ」

「お前悪魔だな……」

 三年かけて世界中に宝箱を配置した。魔王城に辿り着く者はまだいないので結果はわからず。

 しかし、近隣の人間の村に、女勇者一行らしき姿が見え始めてきたため、作戦が成功する日はそう遠くない。

 魔王の性癖……一対三のハーレム逆レイフ 《●》物に変化。しかし、女勇者、女賢者、女僧侶で補えるので大目に見ることにした。


作戦一の弊害。

「男達にちやほやされて女勇者が調子にのってる」

「あー、魔王様ビッチは嫌いだからなあ。殺そう」

「それと、サキュバスを四天王にしただろ?」

「逆にサキュバスの毒牙にかかりたい男勇者が増えたから失敗だったな」

「うん。問題は男だけの所に急に女が行っただろ? 四天王の他の三人が、サキュバスをめぐりあって友情が崩壊しちゃったそうだ」

「マジか」

 改善点。四天王は男女恋愛禁止。


作戦四の弊害。

「大規模な戦争が終わったから、ベビーブームでまた男勇者も増えてきたな」

「もっかい戦争すっべ」

『ラグナロク』と呼ばれた大戦は、総人口の六割を亡骸にし、人間と魔族を絶滅しかけた。

 反省点。すぐに戦争を始めない。


作戦五十七の弊害。

「ブサイクマッチョな女勇者が増え……」

「殺せ」

「おいっ、作戦三十八で俺達は何を学んだか忘れたのかっ!!」

「はっ! ……そうだった。俺達は、命の尊さについて学んだんだ。軽々しく殺せなんていうのは間違いだ。ありがとう、気づかせてくれて」

「いいんだ。その尊い命を作り出す、神聖なる儀式を経験したことがない魔王様のために、俺達は忠義を尽くすぞ」

「おうっ!」

 改善点。か細い女性の腕力でも振り回せるよう、武器の徹底的な軽量化をはかる。

新しい金属を作り出すことに成功し、この技術を人間に伝えると、時を置かず、軽々と大剣を振り回しモンスターを虐殺する細見の女勇者が続出した。


 作戦六十八の弊害。

「お前、それ媚薬だぞ!」

「はぁはぁゴメン、忘れてた。回復薬と勘違いして飲んじゃった。うう、かっ身体が熱い」

「あっ、おい……お前メスだったのか!?」

「隠しててゴメン……。もう……我慢……出来ない……」

「うあああぁぁぁぁ…………」

 盛る二匹のモンスターを、副官A、Bは遠くから見つめていた。

「味方に被害出ちゃったな」

「説明してたのにな」

 改善点。徹底した情報伝達及び、情報の共有。魔王城内での子供手当ての普及。

この作戦以降、城内のモンスターは魔王の願望を叶えるために一致団結することになった。

 そして、数百年に及ぶ大作戦、

『魔王様の欲望成就~女勇者プロデュース大作戦~』

 の改名が行われた。

 新たなる作戦名、

『魔王様に最高の一夜を』

 の名のもと、モンスターは一丸となった。

 数多の作戦を終え、ついに女勇者一行が魔王城へと現れた。女勇者、女賢者、一つとばして、女僧侶。

 美人、美人、一つとばして、美人。魔王の欲望を叶えるのには十分だった。

 城内はモンスター達の歓喜の声に包まれ……ると魔王に作戦がバレるので怒声で誤魔化した。しばらくすると魔王軍と女勇者一行の戦闘が始まった。


「副官Aエェェェッ!!」

 副官Bの横で、副官Aは魔法使いの攻撃をくらい、魔王の晴れ舞台を見ることが出来ないまま倒れた。

「よくも副官Aをぉぉぉ」

 副官Bは剣を持ち、魔法使いに攻撃しようとするが、その切っ先が届く前に、副官Bの心臓に勇者の剣が突き刺さっていた。

「うがっ、ぐうぅ……まっ、魔王さ……」

 副官Bは副官Aの横に倒れた。

 女勇者一行は、二体が動かないのを確認すると先に進んだ。部屋には、志半ばで倒れた二体のモンスターだけが残された……。



「なあ副官B、本物の回復薬もってない?」

「あるある。ちょっと待って、今二つある心臓の一つを治療中だから」

「出来れば早く。マジ死にそう。……しかし、なかなか強かったな。これは期待できるぞ」

「ああ、とりあえず別室待機だな」

城内のモンスターはなるべく控えめの戦闘を行い、ある程度攻撃をくらうと死んだふりをした。そして勇者一行が去った後、密かに別室に行き、時が来るのを待った。


「こちら、別室の悪魔の目Xでーす。中継の悪魔の目Yさん聞こえますかー?」

 悪魔の目は、他の悪魔の目を通して、情報伝達することが出来る。そのため、悪魔の目Yが見ているモノが、悪魔の目Xを通して伝えることが出来るのである。

『聞こえますよー。別室のみなさーん朗報です。魔王様のお部屋に行く前に、女勇者一行は回復薬と勘違いして媚薬を飲みましたー』

「「「「うおおおおおおお」」」」

 と叫ぶと魔王に生きているのがバレるので、配下一同は控えめにガッツポーズをした。


『あっ、きました。女勇者一行が魔王様の前に現れました』

「「「「うおおおぉぉぉぉ」」」」

 と叫ぶと魔王に生きているのがバレるので、配下一同は音が出ないよう控えめにハイタッチしあった。


『魔王様が、女勇者一行で邪魔な〝一つ〟を蹴散らしました。これで、一対三。ハーレムです! おおっと媚薬が効いてきたのか、女勇者達が震えているぞー』

「「「「うっひょおおおおお」」」」

 と叫ぶと魔王に生きているのがバレるので、配下一同は控えめに抱擁し合った。


 副官Aと副官Bが悪魔の目を通して伝わる情報に、感慨深くなっていた。

「魔王様の顔を見ろよ。とても良い顔だ」

「ああ。あの顔を見ると俺達の頑張りは無駄じゃなかったと思えるな」

「そうだな」

「長かったな」

「ああ、辛い時もあった」

「でも、魔王様のために頑張ってこられた」

「最初は俺も、魔王様のためにと思っていたが、最近欲が出てきてしまってね」

「はは、俺もだ」

「「生まれてくる子の名付け親になりたい」」

「はは、俺達やっぱ似てるな」

「ふふ、そうだな。作戦三十八が俺達に命の大切さを教えてくれたから、そう思うようになったんだろうな」

「ああ、あれは良い作戦だった。もし、魔王様に三人の赤ん坊が出来れば、魔王様と俺とお前、三人で赤ん坊の名前を考えようぜ」

「素晴らしいな。まぁ、その前に続きを見よう」

「そうだな」

 二匹は再び悪魔の目Xを見る。配下達が輪になって悪魔の目Xを囲み、無言でくるくると回っていた。

「……どんな状況?」

 副官Aが悪魔の目の前にいるオークに聞く。

「魔王様の攻撃で、女勇者達の服がイイ具合にボロボロになってますぜ。まぁ、一切ムラッときませんがね」

「はは、魔王様は特殊な性癖をもってるからな、俺等には理解できんよ」

「ほんとですな」

 少ししてモンスター達は回るのを止め、悪魔の目Xの前で正座しだす。副官Bはその時、オークの背中に少し大きめの傷を見つけた。

「ケガしてるじゃないか」

「どおりで痛いワケだ。大丈夫、回復薬ありますから」

 そう言って、オークは回復薬を取り出す。

「待て! その瓶は媚薬品が入っているやつだろ?」

「あ、ホントだ。宝箱に入っていたやつだ。危なかったですな、もう少しで御二方に欲情してたとこですわ」

「おい、気をつけろよ。それに前に伝……」

『おおっと、女勇者が魔王様に馬乗りになったぞ――!!』

「「「「うっひゃっふううううう」」」」

 副官Bの言葉がモンスター達の騒音でかき消された。副官の二匹は叫ぶなと言いたいところだったが、大目に見ることにした。いよいよその瞬間が訪れようとしているからだ。

「副官方、前で見たらどうです? 一番の功労者が特等席にいるべきですよ」

 ガーゴイルが言うと、他のモンスター達は、二匹が前に来られるよう道を開け、拍手で迎えた。

「お前たち……ありがとう。それじゃあ崇高な儀式をしかと見させてもらうよ」

「ありがとう。みんなで作戦成功の瞬間を見届けよう」

 悪魔の目Xの前に二匹が座ると、先程のオークがやって来た。全員が『なんだ?』とオークを見つめる。

「今良いとこだから邪魔しないでくれよ」

「いや~、よく見たらこの媚薬、消費期限二年前ですわ」

「ホントか、危なかったなぁ。飲まなくて良かったな」

「これじゃ飲んでも腹壊すだけですわぁ!」

「「「「アハハハハ」」」」

 満面の笑みの全員が、再び悪魔の目Xを見つめ返した。





 悪魔の目Xは、魔王の首が飛ぶのを映し出していた。



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