お名前は?
「ところでさ、這いよる夕暮れ以外の七不思議はもう聞いたかな? ボーダーちゃん」
「聞きましたけど、蹴っていいですか」
「俺が許そう、やってしまえ」
「・・・好きにしてくれて構いませんよ」
「誰か庇ってよ!」
「「自業自得だ」」
結局、入部届を手渡すことになったあたしはクッキーの包み紙の置いてある机の周りにおかれた椅子に腰かけることになった。今日はこの3人しか来ないらしい。
それならなんで椅子が4つ用意されてたんだろう。まさかあたしが来るのがわかってたとか? まさかね。いや、あの直感力とやらならわかりそうなことだけど。
隣にタチバナ先輩、机を挟んで向かい合うようにイチイ先輩とイリエ先輩が座っていた。
イチイ先輩がため息交じりに言えば、ムンクの「叫び」ばりの形相で頬に手を当て叫んだイリエ先輩だったが、2人にばっさりときられて肩を落とす。なにがしたいんだろう、この人。
それよりもボーダーだ。ネタにするなんてなんて人だ。冷めた目で見つめれば、ごめんごめんとつり目を垂れさせながら謝ってくる。
「笑いながら言われても・・・」
「誠意が見えないぞイリエ」
「せ? ・・・ああ。そうだな、日本の誠意と言えば土下座だぞイリエ」
「やめてよ2人とも!」
「さすがにそこまでは・・・してもいいですけど」
「いいんだ!? ・・・いや、やらないけどね!」
笑いながらの謝罪にそう言えば。あたしの言葉にのったタチバナ先輩とイチイ先輩がイリエ先輩を責める。いや、弄ぶ? なんて言えばいいのかわからないけど。というかイチイ先輩の言い回しが気になる。
誠意が一発変換できなかったのかな? 不思議そうにしたのが分かったんだろう、タチバナ先輩が補足をいれてくれた。・・・どうせわかりやすい顔してますよ!
「イチイは帰国子女なんだ。時々ちょっとした言い回しが違ったり言葉が伝わらないこともあるが気にしないでやってくれ」
「・・・
「え? でもイチイって・・・」
「そうそう、全教科・学年1位だからイチイなんだよ。まぁ国語の点数は下から1位」
「黙れ万年最下2位」
「ブーメラン!」
「アホかこいつは」
呆れた目でイチイ先輩の言葉に刺された胸を押さえたイリエ先輩を見やるタチバナ先輩。にしてもそういう意味でのイチイなのか。
え、これってこのままイチイ先輩って呼んでもいいの? なんか嫌みっぽくない? ぐるぐる考えるあたしの横で、タチバナ先輩があたしに向き直る。
「イチイと呼んでやってくれ。・・・紹介が遅れてすまない。俺は
「そこのアホって俺のことじゃないよね?
「あ、あたし朝霞まいです。よろしくお願いします?」
「何で疑問形なの?」
こらえきれない笑いに口元をにやつかせるイリエ先輩。昨日で会った時から変わらないテンションの高さだ。疲れないのかな。
というかタチバナ先輩って女の人だよね? なんで「俺」で、男子用のズボンはいてるんだろう? これって聞いてもいいこと? 疑問が顔に出てしまったのかな、タチバナ先輩が苦笑する。
「性同一性障害、というものを知ってるか?」
「え?」
「俺はそれなんだ。身体は女、心は男。だから男として扱ってもらえると嬉しい」
「え、あ、はい。タチバナ先輩はイケメンです」
「いや、イケメンまではいかなくてもいいんだが・・・」
「あー、タチバナ照れてるぅ!」
「黙れ」
「すいません」
からかったイリエ先輩の頭を鷲づかみにすることで黙らせたタチバナ先輩。その頬は斜め横から見る限り少し赤くて、照れてるんだなと思ったらちょっと笑みがこぼれた。
正直に言って、あたしはこのオカルト研究会にいい印象がない。だって脅されて入れられたんだよ? 先輩たちはそんな空気出さないけど。いい印象なんてあるわけがない。まぁ、イチイ先輩はちゃんとあたしの前で画像を消してくれたけど。
タチバナ先輩が渡してくれたオレンジジュースの入った紙コップに口をつけながら、ちらりとイチイを見る。昨日と変わらず綺麗な顔してるなと思って。や、1日やそこらで変わってたら怖いけど。
すると、ふっと嘲笑うように口元を歪められる。なに?
「僕は西園寺先生とは違うもので」
「は?」
「イチイ?」
「幼女趣味なんて、理解できませんね」
「ぶっほ!」
幼女趣味。その一言に思考が止まる。え? なんだって? よう・・・幼女? ふと窓ガラスに映ったあたしが目に入る。
猫っ毛セミロングな色素の薄い茶髪は両サイドテールに、どこ眠たそうに垂れた目が大きい幼い顔つき、低い149cmしかない背丈。中学1年ううん、小6(より下かも)で成長が止まってしまった、あたしがそこにいた。小6の時も低かったけど。背の順で並べば確実に前の方だったけど。
・・・あたしが幼女だって言いたいんだろうか、この先輩は。そしてそんなあたしを相手にしているいさなくんはロリコンだと?
ぶはははははとの大笑いしてるイリエ先輩は置いといて、タチバナ先輩がひくりと頬をひきつらせたのが分かった。イチイ先輩に向き直って、あたしは口を開いた。
「い」
「い?」
「お、おい、アサカ?」
「いさなくんは幼女趣味なんかじゃないです!」
「「そっち!?」」
イリエ先輩とタチバナ先輩が叫ぶがそれはともかく。あたしの容姿が幼いのもともかく。いさなくんがロリコンだなんてありえない。
あんなに綺麗でかっこいいいさなくんだよ? きっとものごーく、美人な人が好みのはずだ。あたしなんて力不足もいいところ! そんな風に言い募れば、イチイ先輩は目をまん丸くした後、ふっとかすかに笑った。
いさなくんよりも落ちるけど目を奪われるには十分な綺麗な笑みだった。
「まあ僕にはどうでもいいんですけどね」
・・・なんなんだよ!
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