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お風呂から出れば、そこにはふかふかのいいにおいのするバスタオルと新しい着替えがおいてあった。
・・・これっていさなくんが用意してくれたんじゃないよね? チョコミントカラーのしましまパンツとキャミソールを着ながら思った。
一緒においてあったドライヤーで頭をかわかしてからそでとすそにレースがあしらわれた、うすいピンク。お花が白く染めぬかれたパジャマを着る。
さいごに、ポケットの部分がリボンになっているクリーム色の大きめなカーディガンを羽織ってのれんをくぐれば。ひんやりとした廊下にいさなくんがかべに背をあずけて腕を組み目を閉じていた。
その服はスーツから青いお着物に灰色の羽織り、黄色い帯に変わっていた。いさなくんもお風呂に入ったのか、ちょっと雰囲気がしっとりしてた。顔の血色も良くてほっぺがほんのり赤かった。とてとてと近寄るとあたしにに気付いたのか、ぱちっと目を開ける。
「いさなくん、お風呂気持ちよかったー。りんごいっぱい浮いてたよ!」
「そうか、それはよかった。喜んでもらえたならなによりだぜ」
「いさなくんもりんご風呂だったの?」
「いや、俺は森林浴の香りだ」
「しんりんよく」
「森林浴」
よくわからないけど、いさなくんはいつもそれらしい。下手ににおいが強いものを使うと鼻がにぶるからやなんだって。なんか獣神って大変だなって思った。
階段から落ちかけてから、あたしが歩くのを許してくれないいさなくんいひょいって横抱きにされる。これってお姫様抱っこだよね。ちょっと照れる。1人照れてそわそわしていれば、いさなくんが抱えて近くなったあたしの首もとに鼻を寄せてくる。
「どうしたの? くすぐったいよー」
「主は甘い・・・林檎の匂いがするな」
「だってりんご風呂だもん」
「そうだな、いい香りだ」
そう言って、いさなくんはあたしの部屋へと歩を進めた。あ、着替えを用意してくれたのは女中さんらしいよ。よかった!
「それじゃあ、おやすみ。主」
「おやすみなさい、いさなくん。・・・あの」
「ん?」
「1人じゃ寂しいから、一緒にねちゃだめ?」
「・・・」
「あ、だめならいいの! わがまま言ってごめんなさい」
与えられたあたしの部屋、シャンデリアがきらきらと光るそこで。ベッドの上に降ろされて、床に膝をついたいさなくんにふかふかの布団を身体の上にかけてもらいながら言えば、いさなくんが固まった。それはもうぴっしりと。
やっぱりだめなことだったのだろうか。しょんぼりとお布団の中で身じろぎするあたしに、いさなくんはあわててまくしたてる。
「全然だめじゃない! 獣の姿になるから待ってくれ」
「そのままでいいよ?」
「それはだめだ、理性が持たない」
「りせい?」
「あ、いや。・・・とにかくだめなんだ。ちょっと待っててくれ」
ぶるぶるっといさなくんが震えたかと思うと、瞬きの間に、そこには白金の毛並みのおっきなわんちゃんがいたお座りしていた。白金の毛並みがシャンデリアの光をうけて、まるでいさなくん自身が光ってるみたいに見えて神々しかった。
深い色の青い目があたしをうかがうようにえんりょがちに見てくる。その仕草が人間っぽくって可愛かった。
「わー、可愛いねぇ」
「くぅーん」
「わんちゃんだとしゃべれないの?」
こっくりとうなずきで返してきたいさなくんに、そうだよねしゃべるわんちゃんはいないもんねとあたしは思った。それを言うなら人間が犬になることもないんだけど。
「そっか、じゃあいさなくん。おいでー」
お布団のはしを持ち上げて待っていれば、おずおずとゆっくり前足をベッドの縁にかけるとベッドに飛び乗るいさなくん。そのままぴったりとあたしにくっつくように身を寄せて、足をたたむ。その背中に持っていたお布団のはしをおろして、あたしはいさなくんに聞いた。
「お布団たりてる? さむくない?」
「わん!」
「うん、大丈夫そうだね。おやすみ」
「くぅーん」
いさなくんがあたしの枕元にあったシャンデリアのリモコンをぽちっと器用に前足で押して、部屋をくらくしてくれる。
途端に真っくらになる部屋と、あたたかくてさらさらしたかんしょくに包まれてあたしは。泣きつかれていたことも相まって、ゆっくりと眠りのふちにしずんでいった。
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