第弐刹

ー…………殺して、欲しい……? ボクにそんなコト、ボクに言ったヤツ……初めてだな…………?

「ねェ……聴いているの? 聴いているのなら、返事くらいくれても良いんじゃない?」

「…………」

少女は相手の動揺を気に掛けるでもなく、話し掛けてきた。更に話し掛けるだけでは気が済まなかったのか、すぃっと近付いて顔を覗き込んできた。相手があの・・有名な殺人鬼であるにも関わらず。

「…………返事をくれないのね……まさか声が出せない訳では、無いのでしょう?」

「…………………………………………何故自ら破滅を望む?」

「やっと返事をしてくれたわね。…………まァ単純に逃げ出したくなったのよ、全ての存在から……ね?」

「…………………………………………馬鹿馬鹿しい。タヒんだ所でヒトは逃げ出す事など出来ない」

「そうなの?」

キョトンとした顔で彼女はコチラを覗き込んだ。如何いかにも世間知らずそうな顔をしていたから、本当に知らなかったんだろう。

……………………ヒトはタヒんだ後、地獄に堕ちるという事を……。

「…………まァ関係無いけれどね……取り敢えずこの世界から逃げ出せるのなら、問題無いわ」

「…………………………………………何故俺に頼む。俺は命令でしか動かない」

「あらそうなの? ならば正式に依頼した方が良いのかしら……?」

「…………………………………………はァ……」

何処までも世間知らずなお嬢様だ。恐怖すら抱いた事が無いのではないか、と思う程常識がズレまくっている。

俺は誰に向かって吐くでも無く、溜息をいた。





この世間知らず過ぎる少女との出逢いが、俺の人生を大きく壊し、破壊するモノだとはその時の俺は、爪の先程も思っていなかった。

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虚無の卵 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

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