虚無の卵

幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕

第壱刹

「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ! 殺人鬼だ、殺人鬼『血塗骸骨ブラッディ・スカル』が出たァァァァァァッ!! ゴフッガッハ……ァ……」

「慈悲を、慈悲をォォォォォッ!」

逃げ惑う人間達を血に塗れた髑髏面どくろめんが小さなナイフで狩っていく。一声もあげずに、ただ、淡々とした機械的な動きで。

ー…………あらかた、始末した、だろうか……?

血に塗れた骸骨面の青年は、血塗れた得物あいぼうをを優しくソッと撫でながら辺りを見回した。

辺りには青年が屠った憐れな死体が山詰みになっている。此処に倒れている全ての死体は、裏取引で、幼い子供や孤児を人身売買の道具として扱ってきた極道ヤクザや、人身売買業者達だ。

青年はソレらを何の感慨もなくただ見下ろした。

キラッ

チカチカと光に反射して光るモノが、青年の目に付いた。

ー…………? 何、だ……?

刀や拳銃等の武器なら青年も気には止めなかった。だがソレはその手の類のモノと、違うモノだった。

ー…………コレは……ネックレスの、ペンダントトップ? 何で、こんなモノが、此処に……?

青年は血に汚れ、なお輝きを喪わないソレを手に取って拾い上げた。

ー…………何か、掘ってある……

ソレには何かの文字と、ある幸せそうな家族の集合写真が入れられていた。

「…………コレを、解読出来る、モノに……伝える。・・・・をーー……」

ー…………何、コレ……普通の家族写真、じゃ、無い……!?

青年はお面下の瞳を驚愕に見開いて、自身の手の中に収められている、ペンダントトップを凝視した。

そんな自失呆然とした青年に声が掛けられた。

「ねェ貴方アナタ……もしかしなくても、殺人鬼……でしょう?」

「!?」

ー…………完全に油断してた……! 後ろを取られるなんて……!?

驚愕に見開いていた眼を更に見開く。

声を掛けたのは如何にもお嬢様然とした、儚げで病弱そうな少女だった。

「嗚呼そんなに驚かないで……? 別に貴方を警察に突き出そうとは、考えて無いから……ただ、私の希望ノゾミを叶えて欲しくて声を掛けただけなの……」


ーーソレはある薄暗い夜の事。血の雨が降る場所で殺人鬼のボクは儚げに微笑わらう君と逢った……。

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