小仙女児
これより、我らの旅の物語を始めよう。
そは“知らざる者なき魔術師ローランの知れる者なき物語”。
汝、リュティー、小仙女の物語だ――。
リューシィ・ティーすなわち小仙女、そう名付けたのは妖術師(ローラン)だった。
妖精通語でリューシィは仙女、ティーは小さいを意味し略すとリュティーになる。
彼は女児が何者かを知っていたのかもしれない。
そして抗議をこのようにあしらった。
「人間でもなければ神筋でもなく、精霊でもなければ妖魔でもない。鳥獣でもなければ魚介でもなく、草木でもなければ鉱物でもない。そんなしろものをほかに何と呼ばせる?」
「……」
女児は返答につまった。
「まあ、魔物とか化け物とかいった、懐かしい呼ばれ方もあろうが」
妖術師は皮肉る。
「なっ、なつかしかないやい!」
女児はむきになった。
「ならば己はリュティーだ。よいな、リューシィ・ティー?」
“恩は必ず返し、 怨みは必ず霽(は)らす。”女児はかく誓った。
されど何が死者にしてやれよう、如何(いか)で魔王へ立向かえようか。
「4つの秘法を得て、3つの神宝を求めよ」
妖術師が告げる。
「さすれば魔王を殪(たお)し、指輪を取り戻せる。
それがあれば世界を救うことも、己の恣(ほしい)ままにすることも出来る。
何れも望まぬなら、剣を鍵、鏡を扉、珠を標(しるべ)にし、別界へ抜け出せる。
すべての枝が朽ちるまでには、そうとう猶予があるだろうしな」
さらに、つづくる。
「誓いに縛られるは愚かだが、心は拠(よ)り所なくしてあらぬ。
想いの結びめは心をなし、誓いはそを固める呪文なれ」
諸々の世界統べる神は九柱であるという。
名を知られたる神が七柱、名を知られざる若しくは、定説のない神が二柱いる。
人々は名を知られざる二柱に、各々が信仰する神をあてている。
――汝は、九度死して九度
彼らを殺す罪により星の乙女が贖(あがな)いし、汝への哀しく呪わしき祝福なり。
小仙女――少女は鴉とともに流浪の旅する 壺中天 @kotyuuten
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