第14章 魂の鳥籠

花嫁選び、

人形選び。


はたして姫はだれ?

あなたの妹はどれ?



   1



少年は躊躇(ためら)うことなく、

まっすぐ歩き出します。



妹によく似た姿の人形が、

ほほ笑みかけてきました。


彼は目を瞑(つぶ)ります。



「お兄ちゃん、あたしはここよ。

どうしてたすけてくれないの?」


妹の声をした人形が、

後ろでひきとめます。


彼は耳を塞(ふさ)ぎました。



妹がよくそうしてたように、

上着の裾をひっぱられます。


それでも足を止めません。



   2



そこにたどりつくと、


ふんわりと懐かしい、

魂の匂いがしました。


あの白い花の香です。



「――アナベルは、君だ」


瞑(つぶ)っていた目をゆっくりと開くと、

そこにはノゥスィンカがいました。


そっとひき寄せ、

額に接吻します。




人形の顔がひび割れて、

ぽろぽろと砕けていき、


知っていたよりも大人びた、

少女の顔があらわれました。


少女の眼からは、

ぽろぽろと涙が、

零れていました。



   3



「そなたに感謝しよう。

よくぞ、妾をみつけた」



後ろからの声に、

彼が振り向くと、


下女の姿をした人形が、

そこに立っていました。



その体は不具ではなく、

その面は女王の威厳と、

笑みを湛えていました。



「妾の体も、

心も魂も、


そなたのもの」



下女の衣裳が、

散り散りに消え、


眩(まばゆ)い裸身となり、



「狂った人形の妾は、

魂を探し続けた。


なれどもはや、

どれが自分の魂か、


みわけられぬように

なっておった」



裸身は透き通り、

金属の籠になり、



「そなたが妹を

みつけたなら、


妾はすべて

終わらせ、


無に還ろうと

しておった」



籠は解(ほぐ)れるように

消え失せていき、



「じゃが、いまわかった。


妾の魂は、その娘アナベルだったのじゃ」



瑠璃(るり)の小鳥が羽ばたき、

少女の肩に舞い降りて、


綺麗な声で囀(さえず)り――。


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